地域の文化を巡る旅で生まれる新たな価値、ローカルカルチャーツーリズムの可能性

江口晋太朗 | SHINTARO Eguchi
TOKYObeta Journal
Published in
8 min readDec 19, 2018

地域の文化資源を活かすには、「情報」のみならず「五感」で体験することによって得られる感動がある。

建物や土地に直接足を運び、その場の空気や空間を体感する。所有者や、その分野の第一人者や研究者の解説と合わさることで、得られる情報体験は何倍にも増していく。各地の文化、歴史、風俗を体験するためには、これからますます「体験」をいかに創出するかが鍵となってくるだろう。

旅は一人で行くのもいいが、複数人でツアー化してその場に行くことで、体験そのものにも変化をもたらす。大事なのは、直接その場に行くことの場所性と、専門家などによる解説という情報が合わさることで生まれるライブ感と体験の一回性であろう。

つまり、企画主催者が企画するツアーをサポートすることで、よりニッチな主催者の熱量や偏愛をもとにしたキュレーションを作り上げ、結果として、地域の文化・歴史をより良い形で体験することによって、新たな経済圏を作ることができるのではないか。

そうなるときに、ネックなのは「移動」となる。どんなに素晴らしい場所であっても、その場所にたどり着く交通手段がなければ体験を届けることはできない。そこで、今回、ワンダートランスポートテクノロジーズと共同し、オリジナルツアーを企画することとなった。ワンダートランスポートテクノロジーズは、各地のバス会社とのネットワークにより、バスを発注することができ、かつ、旅行業を持っていることからオリジナルなツアー企画を作ることができる。

バスは、一台で20〜40名程度を乗車させ、移動できる。この規模感は、ある種の「コミュニティ」を醸成することができる。ある一つのコンテンツやテーマに集った立場も職種も違った人たちが集い、ツアーという行動によって、新たな関係性が構築できると考えた。そこに、地域の文化資源を活用した取り組みにより、持続可能な経済圏をその地域に作り出すことができる。そこで、私はこのツアーを「ローカルカルチャーツーリズム」と名付け、地域の特色ある価値を、これまでとは違った形で「体験」させ、新たな「情報」として伝え、文化と経済を橋渡しするきっかけになるのではないか。

その第一弾として、先日、ツアーを実施した。ツアーは福岡うどんを巡る旅という内容のものだ。

福岡といえばラーメンの印象が県外の人には強いかもしれないが、地元の人たちにとってはうどんは日常的に食すものだ。また、1241年に中国から帰国した円爾(聖一国師)が製粉の技術を福岡に持ち帰り、博多で承天寺を開山しうどんを広めたと言われており、うどん発祥の地としても知られている。

福岡の歴史は、中国や朝鮮との関わりとも深く関連している。こうした歴史を紐解くなかで育まれたうどん文化を体験すると同時に、「食」という切り口を通じて、私達の身近な生活文化の豊かさを体験できれば、ということから企画したものだ。

大地のうどんのかき揚げは有名だ。

案内人は、全国各地でうどん店から製粉会社まで取材をこなす「うどんライター」井上こんさん。年間500杯近く食し、食べるだけでなく、小麦粉そのものの取材も行うなど、化学的な見地からもうどんを研究しており、最近ではAbemaTVと企画したオリジナルうどん「ふくうどん」を開発するなど、うどんに対する造詣と食への飽くなき探究心をもとに日々活動している。

太昌うどん。お店によってごぼう天の作り方も個性がある。

こんさんにとっても、普段雑誌やウェブで執筆するにあたり、テキストで情報を伝える限界や、どうしても大衆的な文章にならざるをえないなか、ツアーにすることにより、よりニッチな情報や、具体性をもった解説をすることにより、新たなうどんの価値を伝えるきっかけになれば、というところから実現したものだ。

今回、こんさんの選定のもと、福岡の個性を感じながら味や作り方のこだわりの違う4軒プラス普段はなかなか見ることができないうどんの製麺所の工場見学も行うことができた。

それぞれが思い思いに食べたいうどんを食べ、感想をシェアする。

「かねいしうどん」「太昌うどん」「田中の麺家」「大地のうどん」。どれも素晴らしいお店で、それぞれの個性を感じ取ることができたし、なんといっても、井上こんさんの解説が素晴らしく、「まろやかさ」「やわさ」「つるみ(つるつるさ)」「モチモチ感」「ふわふわさ」「出汁馴染み」など、うどんの味や個性を表現する言葉の滝を浴びることで、普段、当たり前のように食べていたうどんそれぞれの個性がさらに浮き彫りになっていき、うどんの多様さを実感する大きな体験をすることができた。

普段見ることができない製麺所を訪れることで、うどんを深く理解することができた。

専門家によるこうした解説は、カンファレンスやトークショーのような口頭だけではなく、現地にともに行動し、その場のインタラクションのなかでおこなうコミュニケーションの一つひとつによって感じ取ることで得られる体験であり、これまでの「情報」とはまったく違った「情報」となって自身の身体に学習することができたのだ。

また、ツアーには合計で11人ほどの参加者がいた。どの参加者も福岡に関係があったり、うどん好きだったりと、直接的な仕事関係ではなく、文化や土地でつながる関係性のなか、約半日を一緒に過ごした。集合場所に集まったときはよそよそしかった人たちも、次第に打ち解けあい、互いのうどんも含めた食に関することを軸に話し始めた。もちろん、普段の仕事に関することも話すものの、この場では、うどんをきっかけに繋がった場であり、話の話題はやはりうどんや福岡に関する話題が多くなる。土地に関することを誰かが話せば、誰かがそれに補足する形で話題が広がる。美味しいうどんを食べながら、心地よい会話が続いていく。気がつけば、あっというまに半日が過ぎてしまう。

移動中も「うどん談義」とこんさんのうどんトークで盛り上がる。

こうした、趣味や文化でつながるコミュニティは、まさに、コミュニティ・キャピタルが生まれる場であるともいえる。普段出会わない人とのつながりが生まれることで、多様な関係性が作られる。文化を軸に、新たなコミュニティを生み出す装置として、「ローカルカルチャーツーリズム」の可能性も実感することができた。

ツアーのときに話題になってた、こんさんの著書『うどん手帖 (死ぬまでに一度は食べたい!!全国の名店50+α)』がもうすぐ発売する。今回のツアーで解説や話した内容を踏まえて読むことで、より一層理解も深まりそうだ。

大地のうどんでは、店長がうどんを仕込んでるところを偶然拝見することができた。

今回は、「食」を軸としたものだが、こうした「ローカルカルチャーツーリズム」は食だけにとどまらない。例えば、ダークツーリズムなどの歴史を学ぶツアーもあるだろう。民芸や陶器を自身で作ったりするワークショップ型もありうるだろう。もちろん、同じ食でも、日本酒や焼酎といったもの、伝統野菜などの農家との連携も考えられる。大事なのは、これまで、どんなに文化資源に関する取り組みや活動をしても、最後のラストワンマイル、その現場に来てもらうというところのハードルがあった。しかし、バスなどあらゆる交通手段をユーザーに提供できる環境を作り出すことで、人の「移動」のあり方に変化が起きる。人の移動が変われば、経済も変わっていく。そこで大事なのは、文化と経済の両軸をもとにした価値創出につなげられるかである。

今後、ツアー企画そのものをより良いものにしたり、ここから新たなサービスを作り出そうと考えている。地域の文化資源を巡る旅と、それによって生まれるコミュニティの可能性は、もっと広がりをみせていくはずだ。

--

--