オノ・ヨーコ《念願の木》を見守る大竹さんへインタビュー

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Published in
Nov 18, 2020

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十和田市現代美術館常設作品のひとつ、オノ・ヨーコによる《念願の木》は青森県の特産品であるりんごの木を使用し、短冊に願い事を書いて吊るす参加型の作品です。毎年春には白い花を咲かせ、そして秋へと近づくにつれて百以上もの実をつけ季節の移り変わりを感じさせます。作品に使われているりんごの木は、十和田市内で約60年農家をされている大竹農園の大竹光雄(おおたけ・みつお)さんからご提供いただきました。

十和田市現代美術館に関わる人にスポットライトを当てるインタビュー企画第2弾として、《念願の木》として展示される前から、このりんごの木を育て、現在に到るまで長年手入れをしてくださっている大竹さんにお話を伺いました。

Q. 12年前、美術館からオノ・ヨーコの作品に大竹さんのりんごの木を使用したいという申し出があった時、どう思われましたか?

A. もちろんビートルズもオノ・ヨーコさんも知っていましたから、正直とてもびっくりしました。あんな有名な方の作品に使ってもらえるなんてことは普通じゃないことですから。

Q. 《念願の木》は黄色いりんごの品種「トキ」の木を使用していますが、それには理由があるんですか?

A. 実は提供しようとしていたりんごの木は、今のものとは別のものを準備していたんですよ。3種類のりんごの木を用意していて、その中から選んでもらう予定だったんです。でもそれとは別に、定植(植物を栽培する最終の場所に植えること)も済んでこれから本格的に育てる予定だったトキの木があったんですが、それを見た担当の方に「ぜひこのりんごの木がいい!お願いします!」なんて頼み込まれたんです。枝ぶりも良く私自身も気に入っていた木だったので、その方も惹かれたんだと思います。それでそこまでおっしゃるなら協力しなければ、と思って(笑)

Q. その木が《念願の木》となったのですね。このトキの木には赤いりんごの品種「千雪」が接木され、二色のりんごの実がなりますが、なぜ異なる品種の枝を接木したのですか?

A. りんごをつくっていない方は、あまり見慣れないのかもしれませんが、農家にとって異なる品種を掛け合わせるということはそんなに珍しくありません。異なる品種同士を一定範囲内で育成すると受粉率(果実が実る確率)が良くなるんです。この作品は木が一本だけなので、トキに千雪を接木することで異なる品種で受粉するようにしました。また、見た目も黄色と赤色で美しいのではないかと思ったんです。

Q. それで毎年たくさんの実がなるのですね!ちなみにトキと千雪の味はどう違うのですか?

A. トキは、ジューシーさが特徴です。さっぱりしていて、さわやかな味ですね。千雪は、酸味があまりない、糖度が高く甘い味です。加工しても色が変わらないんですよ。

Q. 一本の木で二種類の味が楽しめるなんて贅沢ですね。そんなりんごの木がアート作品となり、ご自身が関わることについてどう思われますか?

A. もともと私はアートが好きだったんです。小中学校と絵が好きでしたし、うまくて誰にも負けなかった(笑)この作品のりんごの木に枝の剪定などで関わるときは、自分なりにアート的に考えています。枝や果実が実るバランスを考えたり、太陽の光をより浴びるようにとか。

枝の剪定をせず、農薬を使用しない本来の姿がナチュラルで良いと思うけれど、葉が枯れたり虫がついたりするとりんごの木の健康にも良くないですし、美術館に来てくれた人たちが気持ち良く作品を見ることができないと思うんですよね。りんごの木としてだけではなく、作品としても美しく見てもらえるよう意識して手入れをしています。

Q. 毎年《念願の木》を見守ってくださりありがとうございます。いつも手入れに来てくださるとき、とても元気なお姿が印象的ですが、健康の秘訣はやはり果物ですか?

A. 元気になるかどうかはわかりませんが(笑)、毎日自分の農園で採った果物の100%フルーツジュースを飲んでいます。うちでは、りんごの他に、ブルーベリー、洋梨、和梨、桃も作っていて、いろんな果物でジュースを作るのですが、りんごは果物の王様と言われるように、やっぱり最終的に行き着くのはりんごですね。あとは趣味で音楽をやっているからかもしれません。

Q. 音楽が趣味とは知りませんでした!何か楽器をされているのですか?

A. ピアノにギター、サックスなど一通り楽器は演奏できます。今は孫にピアノを弾いてあげたりしてますよ。ちなみに、昔バンドを組んでいてボーカルだったこともあります。自分たちで自主制作のオリジナル曲を作ってレコーディングしたこともあるんですよ。タイトルは『ふるさとりんご』です。作詞も作曲も自分でやりました。

Q. 音楽でもテーマは『りんご』なんですね!そんなりんごに対して深い愛情を持っている大竹さんに、《念願の木》を手入れしていただけて、大変嬉しいです。今後の抱負などありましたら教えてください。

A. りんごに限らず新しい品種にチャレンジしたいです。やっぱりチャレンジ精神がないとね。

私は過去に青森県りんご育種同好会の会長を務めていた時期もあり、新しい品種の開発にも取り組んでいるんです。今でも4、5種類、まだ世に出していない品種もあるんですよ。

Q. また新たな味のりんごが食べられるかもしれないなんて楽しみです。インタビューにお答えいただき、ありがとうございました!これからも《念願の木》をよろしくお願いいたします。

《念願の木》は、鑑賞するだけではなく、通路に設けてある短冊に願い事を書いて、木にくくり付ける参加型の作品です。最後に大竹さん願い事を書いていただきました。

大竹さんの短冊には「フルーツを食して世界の平和と健康を」と書かれていました。

<インタビュアーの感想>

今回のインタビューを通して、普段の会話だけではわからなかった大竹さんを知ることができました。約60年間、農業に携わってきたからこその知識や経験の豊富さ、りんごに対するこだわりと愛情が伝わってきました。そして、大好きなりんごと音楽とお孫さんの話になると目がキラキラする大竹さん。「まだまだこれからもチャレンジをしていきたい」と胸を張っておっしゃっていた姿が印象的でした。

今は寒い冬でも、来春には再びりんごの白い花が咲き、夏から秋にかけて果実が大きくなっていきます。改めて、季節ごとに変化していく作品を、多くの方に来場していただき、楽しんでいただきたいと思いました。

インタビュアー・写真撮影:大谷・土井

取材日:2020年10月14日

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