横尾忠則 十和田ロマン展 POP IT ALL

新作「TOWADA ROMAN」との幸運な出会い

横尾忠則 十和田ロマン展 POP IT ALL 」は青森県では2回目の横尾忠則さんの個展だが、本展のために制作された新作があることが特筆にあたいする。その一つが《TOWADA ROMAN》(「Y字路シリーズ」)であり、これは横尾さんからの十和田への愛と謎が込められている作品となった。

「Y字路」は、横尾さんの2000年以降を代表するシリーズである。建物の手前で二又に分かれる道、東京だけではなく各地の「Y字路」を横尾さんは描いてきた。その「Y字路」の新作を十和田をモチーフに描いてくださると聞いた時は、美術館スタッフ一同から喜びの声が上がった。横尾さんは、十和田のY字路やそのほか十和田の特徴的な写真をいくつか撮って送ってほしいとおっしゃってくださった。

しかし、美術館のスタッフから「十和田にY字路はないのではないか」という疑問が浮かんだ。十和田市の中心市街地は、碁盤の目に整然と区画された美しい街並が特徴となっている。私が十和田市に移り住んで1年になるが、確かにY字路を見た記憶はない。スタッフたちにY字路の目撃情報を聞きとり、グーグルマップを使ってやっとY字路を1カ所発見する事ができた。さらに私はY字路を探し求めて車で市内を走り回り、いくつかのY字路を見つけた。私はまるで作家になったような気持ちで、絵になったときの様子を思い描きながら、さまざまな角度からY字路の写真を撮っていった。横尾さんの参考になるようにと、十和田の特徴である十字路や奥入瀬渓流、十和田湖、畑、りんご農園、十和田市現代美術館のアート広場の作品、乗馬の風景など、私がイメージする「十和田」をお送りした。

展示風景 | 左から2点が「Y字路」を描いた作品 (Photo: KIOKU Keizo)

私が初めて新作《TOWADA ROMAN》を見たのは東京の横尾さんのアトリエだった。

まだ制作途中の段階だったが、モチーフにしている建物を発見して、あの素材がここに!など驚きと嬉しさが込み上げてきた。ここに至るまでスタッフとしても努力し、作品ができるまでの過程を知ることもでき、私にとってはこの《TOWADA ROMAN》がもっとも思い入れのある一点となった。

この作品の中にはたくさんの「十和田」を見つけることができる。中心に置かれている馬。十和田市は明治・大正・戦前の昭和と、長年軍馬の育成をしてきた土地であり、現在でも流鏑馬の文化や乗馬クラブ、特産の馬肉と、馬には強いつながりがある。またこの絵には、十和田湖にある高村光太郎氏作「乙女の像」や当館の作品インゲス・イデーの《ゴースト》も描きこまれている。絵の中のりんごの木に散りばめられている数字は、横尾さんの生年月日や名前などを暗示している。

画面の上部を垂直に走る「ピンクの雲」は2011年3月11日の東日本大震災での横尾さんの経験から来ている。3月11日、横浜に向かう首都高速上で横尾さんの目に垂直に光る「ピンクの雲」が飛び込んできた。一瞬のことだったが「これは地震雲に違いない」と直感し、首都高速をすぐに降りて目的地に到着した直後に東日本大震災のすさまじい揺れが襲った。この「ピンクの雲」には、震災で命を失った方たちへの鎮魂と、震災が二度と起こらないようにという願いが込められている。

《TOWADA ROMAN》 Photo: KIOKU Keizo

このように《TOWADA ROMAN》は横尾さんの十和田や東北に寄せる想いに満ちており、それが観る人にも伝わって多くの人を惹きつけたのだろう。

今回の展示のために生まれた新作はほかにもある。横尾さんの亡くなった愛猫「たま」の連作シリーズのなかの作品である。当初、このシリーズからは約30点が展示予定だった。しかし、横尾事務所と打合せを重ねるごとに増えていく「たま」。横尾さんの倉庫で新たに発見される「たま」。予定していた作品のレイアウトで美術館で展示できるのか、展覧会開催のぎりぎりまで不安が募る。私たちが横尾さんのアトリエで作品の集荷を終えた後、新たに描かれた「たま」2点は横尾さんとともに新幹線でやって来た。そして「たま」は公開制作作品2点を十和田で描き、最終的には39点の「たま」を展示することになった。展覧会の会期前日にようやく作品のレイアウトが終り、無事、会場にすべての「たま」を展示することができたのである。

「たま」を描いた連作《たま、かえっておいで》 (Photo: KIOKU Keizo)

公開制作過程を間近に見ると、横尾さんの筆には迷いがなく、色も場所もすでに定まっているかのようだった。50分程で描かれた「たま」は、こちらを警戒した眼差しで見つめ、目を離すとどこかに行ってしまいそうだった。「たま」は美術館の中で、キャンバスを飛び超え生き生きと動きまわるかのように、見る人を翻弄し、魅了していった。

展示風景 (Photo: KIOKU Keizo)

会期は9月に終了し、3カ月間、私たちをインスパイアーしてくれた作品も東京や神戸などそれぞれ元あった場所に戻って行った。エネルギーに満ち溢れ、ユニークで、わがままで、優しくて、横尾さんの人柄そのもののような魅力溢れる作品にまたどこかで会いたい。その余韻はまだ美術館にも十和田のまちにも漂っている。

執筆者:十和田市現代美術館 学芸スタッフ 見留さやか