凡人がスタートアップで生き残るには

ルデラルな生き方〜「雑草魂」「雑草のように強くたくましく」は幻想

Yutaka Shiiya
Traveloco
10 min readMar 17, 2017

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たんぽぽは雑草です。

「雑草のようにたくましく」というけれど、雑草は、私たちのように歯をくいしばって頑張っているわけでもなければ、涙をこらえながら、じっと耐え忍んでいるわけでもない。

雑草は知恵と工夫で環境に適応し、逆境を克服している。むしろ逆境を巧みに利用していることさえ多い。雑草の生き方は、じつにしたたかで合理的なのである。

そして、何より驚かされたのが、雑草はけっして強い植物ではないということを知ったときであった。植物学の世界では、雑草は強い植物だとは考えられていない。むしろ、「弱い植物である」とされていたのである
出典:『雑草に学ぶ「ルデラル」な生き方』

先日、ビジネスデザイナーの濱口秀司さんのセミナーに参加してきました。

イノベーションを生むアイデアや方法を自ら編み出して、現在日本や世界で普及している製品などを創り出してきた、イノベーション実践の世界的権威です。
例えば、パソコンに接続する「USBメモリ」や髪をイオンで乾かす「マイナスイオンドライアー」、今や国内No1グループウェアの「サイボウズ」などをコンセプトから考え世に生み出してきました。

内容についてはここでは書きませんが、セミナー中の話で面白いことを言っていました。

「私は将棋はやりません。将棋は定跡があって、定跡を覚えれば強くなれる。努力をした人が強くなれる、そういった道が決まっている世界。自分は王を4つにしてみたらどうなる、みたいなゲームをやりたい。自分でルールを作ってそこで戦いたいのです。」

「私は、異国の地の戦場や人が誰もいない砂漠にとつぜん放り出されたりしても、絶対に生きて帰ってこれる自信があります。例えば、ソマリアの内戦に置き去りにされても、その現場で生き残る方法を編み出して、場合によってはその町一個を支配下に置くような事もできます。」

「なにかの専門家やプロフェッショナルになるほど『バイアス』『既存の考え方』に囚われてしまう傾向がある。それ自体はその世界で生きるにはとても有効で無くてはならないモノだが、『バイアス』にまみれた頭ではイノベーティブなアイデアはでてこない。何故かと言うと、『バイアスを壊す』ことでしかイノベーションが生まれないから」

「マイケル・ポーターやMBAで教わるビジネスのフレームワークは『バイアス』の塊で、今をもっと良くするとか、改善をしていくには良い方法かも知れないが、そこにイノベーションは生まれない。」

今私がいるスタートアップ(起業)業界はMBAホルダーや東大、京大、スタンフォードなど一流大学出身、元リクルート、元マッキンゼーなど一流会社出身者がしのぎを削る戦場です。

そもそも「スタートアップ業界!」そんなものがあるのかどうかも怪しいですが、、とにかく傍目には一流と呼ばれる人達が、その叡智と尋常じゃない程の時間と努力を掛けて争わなければ、勝ち残れないと考えられています!

果たして、そうなのでしょうか?

濱口さんは、京大出身で、親は固体物性の世界的な権威、社会人のスタートは松下と文句無い経歴です。しかし、生き方は既存の枠にはまらないで、松下電工で若くして商品企画部長まで登り詰めたのに、自ら事業を立ち上げたり、アメリカのデザイン会社に移籍したり、自由なルートを自ら創り出す事を選択してきています。

それは、濱口さんが世の中一般で言われている一流では無く、その枠の外で生きているから。

そこに、普通の人が、この業界で生き残るヒントがあるのではと思います。

「ルデラルな生き方」こそスタートアップの生き方

植物には三つの生き方があるそうです。その中の1つがR型「ルデラル」という生き方です。

植物の3つの生き方(CSR成功戦略)

  • C型:「コンペティティブ(競争型)」で、競争に強いタイプ。自然界は弱肉強食の世界で、強い者が生き残り、弱い者は滅びゆく。
  • S型:「ストレストレラント(ストレス耐性型)」。競争型の生えることのできないような過酷な環境に適応するのがS型。水が少なく過酷な砂漠の条件で生きるサボテンが典型。
  • R型:「ルデラル」とは、荒れ地を生きる植物。弱者と呼ばれる植物たちが、成功を収める生き方。「雑草」はルデラルな生き方の典型。

こうみていくと、植物の世界は、まさに今我々が生きている世界と同じではないでしょうか。特にC型(弱肉強食)、S型(耐え抜く)は日本人の生き方のモデルとして一般的に認知されていると考えます。

そしてR型。雑草の「ルデラルな世界」は一般とは違う特殊な世界=スタートアップの世界に通じるものがあるのではないでしょうか。

そう考えると「ルデラル」な生き方を学ぶことでなにかヒントが見つかるかもしれません。

「ルデラル」の2つの特徴

  • 「弱者の戦略」=「競争しない」。
    強い相手とはできるだけ競争をしない。もし競争するとしても強者と同じ土俵で戦ったり、同じ方法はしない。
  • 「逆境を味方につける」
    マイナスをプラスに変える生き方。強者が存在できない場所を見つけて、そこで生きられる方法を編み出すなど。

ルデラルの戦略

  • チャンスを捉えてスピードで勝負する
  • 状況にあわせて変化する
  • 大きな相手とは小ささで勝負する
  • 多様な種でチャンスを広げる
  • 小さな成功を積み重ねる
  • etc

ルデラルな生き方として、もっとも特徴的な事例として、「同じ雑草の種でも発芽のタイミングにバラツキがある」という雑草があります。

植物にとって最も大切なことは、「花を咲かせて種を残す」ことです。種が発芽できる場所に行ったとして、土や水、光など成長のための環境が整わなければ、発芽しても直ぐに死んでしまったり、花を咲かすことができません。それでは、植物の目的を果たせないので、発芽のタイミングをずらすことで、どの様な状況でも花を咲かせるような工夫がされています。

雑草は不測の事態、不確実性の高い環境に合わせて、どんな状況でも雑草として生きる目的を失わず、もっとも生き残れる方法を選択して戦っているのです。

ルールややり方が決まった世界(既存業界)では、明らかににC型、S型に有利になっています。決まったコトや他人と比べてその世界で通用する能力を高めれば、勝つ可能性が高まり、生き残ることができます。

たとえば、スポーツ業界はその典型です。野球には絶対的なルールが有り、そのルールの中でもっとも能力を発揮できる人が一流として活躍することができます。イチローや松井は、野球というルールの中で能力と努力する力を兼ね備えていたことで一流と呼ばれるようになりました。
これは一般社会でも同じで、一流会社の会社員、一流大学の研究者、専門家や職人は特定の決まった枠の世界で活躍できる素養と努力を重ねたことにより、活躍できる力を身につけることが出来る、そういった世界です。

そんな世界で、凡人は果たして生き残れるのでしょうか?

もちろん、大勢の凡人の上に少数の一流がいるのがこの世界です。全員が一流というのはありえず、他人と比較して一流/凡人が分けられます。一般的な世界でも「弱者の戦略」「逆境を味方につける」という「ルデラルな生き方」は出来るとは思いますが、決まったルールの中でしか戦えなければどうしてもC型(弱肉強食)、S型(耐え抜く)で戦うほうが効率的です。

私がいるスタートアップの世界にも、様々な業界、業種、人々がいます。C型(弱肉強食)、S型(耐え抜く)で戦うことができる人もいるかもしれません。ただ、スタートアップは不確実性が高い世界です。

先が読めず、不確実性が高い世界では、決まったルールの中で能力を発揮するいわゆる一流と呼ばれる人は、それが逆にハンディになる場合があり、凡人のほうが生き残れる可能性が高まります。

スタートアップの最初は0→1を創る世界です。先に書いた濱口さんが「一流と呼ばれる人ほど『バイアス』の塊」と言っているように、0→1を生み出すには何らかのイノベーション的なものが必要になります。それは、『バイアスを壊す』ことでしか実現できないと考えると、バイアスを壊す可能性が高いのは凡人かも?!しれません。

そして、0→1になったあとも、1→10、10→20、、、と成長をしていくためには不確実性の山を何度も超えなければ行けません。そんなとき、凡人でも生き残る方法は「ルデラルな生き方」をすることです。

雑草はどんな状況にも素早く適応し、どんどん新しい事を試していくことで不確実性の高い環境の中で生き延びようとします。

植物学の世界では、雑草は強い植物だとは考えられていない。むしろ、「弱い植物である」とされていたのである

スタートアップというルールのない不確実性が高い世界では、強い人が勝ち残る一般の世界よりも、逆に凡人が活躍することができる数少ない世界ではないでしょうか。

最後に、凡人がスタートアップで生きるヒント、強者と対抗する武器があるとすると、それはその人にしか出来ないことを見つけることです。特にスタートアップのアイデアは確実にその人にしか出来ないコトからはじめる事が重要です。「将棋で王を4つ」にするようなことが出来れば、それはもう将棋ではありません。自分だけのルールを作ることが出来れば一流にも勝てるかもしれません。

現在私がやっているトラベロコというサービスは、確実に私しか出来ないという思いではじめました。そして、トラベロコで活動している海外在住日本人(ロコ)の方は、彼等しか出来ないことで活躍しています。それぞれが他とは違う力を発揮できるような 「ルデラル」な世界が世界中に広がることが望みです。

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