Y Combinatorの近況まとめ(2017年annual letterをもとに)

Tadaaki Kimura
trend note
Published in
8 min readMar 12, 2017
ベイエリアでもお気に入りのSF市内Yerba Buena Gardensにて筆者撮影

こんにちは。
Y Combinator(以下YC)の直近のbatchであるYC W17のdemo dayがいよいよ来週に迫りました。今回はdemo dayが2017年3月20日(月)と21日(火)の2日間、前回よりはじまったinvestor dayが今回も継続でその翌日の2017年3月22日(水)に開催されます(すべて現地時間(PT))。
私も例年通りご招待頂き、弾丸ですが参加予定です。今回のbatchの見どころはまた改めて紹介できればと思いますが、本日は、先月末にYC代表のサム・アルトマンより公表されたアニュアルレターなどから、最近のYCの動向についてまとめて紹介していきます。

一言でいうと、当初のYCの理念を維持したまま、現在はYCグループとして、色々と領域・スタイルを広げて活動中といったところでしょうか。
原文はこちらを参照してもらえればと思いますが、その中から、ここ数年YCを追いかけている観点でのポイントなど以下ご参考までに。

<概要まとめ>

・今までに1470チームに投資をし、50チーム以上が100M USD以上のバリュエーション(比率でいうと3–4%といったところでしょうか)

・2016年度は夏冬合わせて27M(各100~チーム×120K×2batchと考えると妥当でしょうか)、フォローオン投資はこれまでに187M USD。

・YC卒業チームの代表格はAirbnbとDropboxとStripe。Dropboxに関してはYCに応募した際のapplicationが見本として公開されています。

・曰く、最近の大きなトレンドとして、指数関数的な成長があるとのこと。メトカーフの法則にあるように、ネットワーク効果やインターネット人口の爆発も相まって、指数関数的成長を遂げるテクノロジー企業の時代に突入している。その代表格がAmazon, Facebook, Google, Apple, Microsoftなどの企業であり、圧倒的なデータ量とコンピューティング能力の優位性、優秀なエンジニアを引き付けられる魅力、積極的な買収戦略などによって、その優位性は継続するであろう。スタートアップは、そのような企業群の影響を慎重に見極め、マーケットを選定し戦ってゆく必要があるとのこと。私見としても、これは反対の余地がないほどの明らかな傾向としてあり、より強力になりつつある印象を持っています。

Requests for Startupsにあるように引き続き幅広い領域へ投資を行っている。この内容も実は一部追加になっており(特に後半の太字)、現行はEnergy / A.I. / Robotics / Biotech / Healthcare / Pharmaceuticals / Education / Human Augmentation / VR and AR / Transportation & Housing / One Million Jobs / Programming Tools / Hollywood 2.0 / Diversity / Enterprise Software / Financial Services / Computer Security / Global Health / Underserved Communities / Food and Farming / Mass Media / Improving Democracy / Future of Work / News / Water の25領域。追加されたニュースや職業や民主化などのテーマの内容は、今年初めのこちらのYC Blogでも触れられています。

・各batchにおけるチーム選考の基準としては、高いミッションを掲げ、コミュニケーション力が高いチームを経歴に関係なく選出している。

YCの一番の強みはコミュニティの質の高さにある。そのコミュニティを支えている価値観は、1.ファウンダーにとって良いことをする「to do the right thing for founders」、2.善い人のみに投資する「to fund only good people」、3.先に与える「‘pay-it-forward’」。どれも素晴らしい価値観であり、特にひとつめの、ファウンダーにとって良いことをするという価値観は、YCの細かな施策などにも落とし込まれているように感じます。

<YCを構成する5つの活動>

・YCの自己定義によると、YCは5つの活動から構成されています。

  1. YC (our flagship program):メインの育成プログラム。フォーマットとしては年に2回、選出されたチーム(最近だと毎回約125チーム)に各120K USDを投資し7%のエクイティを取得し、3か月のプログラム期間において育成を行う。このレターには言及はないですが、もともとはこのプログラムのみであったためシードアクセラレータと自己定義していたが、その後、1.1回のbatchへ参加するチームが増えて100チーム以上になったこと2.以下のフォローオンファンドの充実、によって自己定義をシードファンドと変えています。
  2. YC Continuity:バッチ後のフォローオンファンド。このレターには言及はないですが、以前公表の内容だと、原則としてすべてのチームのそのあとのラウンドに250M USDのバリュエーションまでプロラタでついていく方針と思われます。
  3. YC Research:YC内外からお金を出し合ってすすめている非営利の研究活動。現在は「Basic Income(一定の収入を住民に与えるという都市計画プロジェクト。オークランドでパイロットテスト中)」「OpenAI(人工知能)」「HARC(身体拡張)」「New Cities(こちらはまだ準備中)」「Universal Healthcare(新興国含むヘルスケア。ヘルスケアのクラウドファインディングプラットフォーム非営利団体watsiと共同実験中。)」の5つ(今年もう一つ増えるかもとのこと)
  4. Startup School:インターネットからも参加できるMOOC形式の無料の講義。また、今後は更に手前(入口)の起業家にも資金提供していくことも暗示しています(5つの活動にYC Fellowshipがなぜ入っていないのか不明ですが、YC Fellowshipのさらに手間のものを想定している感じです)
  5. Hacker News:YC創業者ポール・グラハム(PG)時代から続くオンラインコミュニティ。スタートアップやプログラミングに関する情報共有や人材採用も。登録ユーザー数は100万人弱であるが、引き続きアクティブであるとのこと。

<過去の特筆すべき個別チームについて>

・YC卒業チームの2016年の最も大きなEXITは自動運転のcruiseがGMに買収されたこと。報道によると1B USD(!)以上で買収されたようです。

・その他の代表的な卒業チームとして言及があったのが、クリーンテック・エネルギー領域のHelion, Oklo, and Bright、フィンテック領域の LendUp and Coinbase、宇宙・航空領域の Boom and Relativity Space、バイオ・科学領域の Gingko Bioworks, Science Exchange and FarmLogs、オンデマンド配達領域の Gobble, Instacart and Doordash、動画領域の Reddit and 9Gag、BtoB・SaaS領域の Docker, PlanGrid, Checkr, Flexport, Gusto、ゲーム領域のMachine Zone、ソフトウェア領域の Rappi, Wave, and Strikinglyが挙げられています。

いかがでしたでしょうか。個人的には、サムがいうところの「指数関数的成長を遂げるテクノロジー企業の時代」の中で、YCが育成対象としているようなシードステージのスタートアップが今後どのように戦略を描いていくべきか、またそのためにYCはじめとする育成機関や投資機関がどのように介在すべきかというのが、大きなテーマになると感じました。

YC Blogにて直近batchであるYC W17のチーム紹介もはじまっていますので、そちらは別の機会にまとめて紹介できればと思います。

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