ベンチャーの経営陣がおちいる、”権限委譲”の危険な誤解

チームを分けて権限委譲する

ベンチャーでは事業が拡大すると、チームに分けてリーダーを置くようになる。大組織でいうと、課長が自身の職務が拡大してメンバーをチーム分けするときや、部長になって複数の課を持つようになるときとシチュエーションは似ている。
事業が拡大し人が増えた時、先輩経営者などに聞くとこう返ってくるだろう。「もっと現場に権限委譲しないとダメだよ」と。なるほどそうならば、と想像のままに”権限委譲”を試してみるが、そうは上手くいかない。
今回は、ベンチャーの経営陣がおちいる、”権限委譲”の誤解について2つの症状をお話しよう。

第1の症状 「口出し・手出し・頭越し」

今から20年前、僕は新米部長になったとき、ものすごく戸惑った。何をしたらいいのかわからなかったんだ。だって、課長になったときには
「現場仕事から手を離せ!」
と教えられた。
メンバーの仕事を奪うな、メンバーに権限委譲してお前は「課長の仕事(メンバーのマネジメント)」をしろ!という意味だった。
ということは部長になったら、
「課長の仕事から手を離せ!」
ということだろう。
課長の仕事を奪ってはいけない。それまでやっていた課長の仕事は後任の課長に引き継ぎ、自分は「部長の仕事(課長を通して行うマネジメント)」をしなくちゃいけない。でも何をしたらいいのか、どうしたらいいのかがわからない。辛くて苦しい毎日だった。今思うと、苦しみから逃れるために、課長の仕事を奪ってしまったようにも思うんだ。

僕が部長になったとき、部内には5つの課があった。僕は直前までその中の1つの課の課長だった。自分が課長だったんだから当然のことだけど、その課の仕事は手に取るようにわかった。そこには僕の後任の課長が着任していたんだけど、僕の方がよくわかっていると思っていたし、僕はメンバーに直接指示を出したくてウズウズしていた。ある日、メンバーのひとりがこっそり相談に来た。判断を求めに来たんだ。口出ししたくてもできなかった僕にとって渡りに舟だったように思う。僕は素早く判断してみせた。それ以来、メンバーは直接僕に相談に来るようになり、いつの間にか僕は直接メンバーに指示を出すようになっていた。権限委譲は行われず、課長は事実上、レポーティングラインから外れた。
こうなったのは誰のせいだろうか。こうやって客観的に書けば、僕のせいだということは明らかだけど、実際の現場では「課長に能力がないから」ということになっていたりするものだ。権限委譲をしていないんだから、課長の成長の機会を奪ってしまっている。これは「課長に能力がない」のではない。「僕が課長の能力を伸ばしていない」のだ。
同時に、レポーティングラインが崩れているんだから、組織としての機能は大幅に低下。その上、部内の雰囲気も悪くなっていく。「30人の壁」を乗り越えるために組織を作ったのに、こうして壁に跳ね返されてしまうんだ。

第2の症状 「丸投げ」

部長になっても自分が担当していた課の仕事に「口出し・手出し・頭越し」をしていたら、課長時代にやっていた仕事にほとんどの時間を取られてしまう。そうなったら、課長時代と仕事の内容は変わらない。それでは、部長になって広がった部分の仕事、自分が担当したことのない仕事はどうしていたのだろう?
僕は漠然とだけど、こんなことを考えていたような気がする。やったことのない仕事を今から自分が勉強していたのでは目の前の仕事が進まない、だからやったことのない仕事は担当の課長に任せよう、と。自分が新たなことを学ぶことよりも、目の前の仕事を進めることを優先してしまったんだ。その結果、僕はいつまでたっても自分がやったことのない仕事を経験できず、一向にできるようにならない。だからさらに課長に頼るようになり、いつしか任せっぱなし、丸投げになってしまったんだ。丸投げとはコントロールすることを放棄したことだから丸投げになっている課がひとつでもあったら、組織全体をコントロールすること=部長の仕事はできなくなってしまうというわけだ。

権限委譲は我慢

逆なんだよね。
自分がやったことがある仕事は、ちょっと聞けばわかるはずだから人に任せても大丈夫。ここでは「変化」だけに気をつけていればいい。どんなにやり慣れた仕事でも、変化してしまえば、やったことがない仕事になってしまうのだから。
一方、自分がやったことがない仕事こそ、部の責任者として少しでも早くキャッチアップしなければいけない。ここで必要なことは、知ったかぶりもせず、偉ぶったりもせず、部下だろうが、後輩だろうが、謙虚に接して学ぶことなんだ。

僕が経験から学んだこと。「権限委譲は我慢だ」ということ。
自分のやったことのある仕事には「口出し・手出し・頭越し」をしたくなる。自分がやった方が早いから。そこをグッと我慢できるか。
自分のやったことのない仕事は「丸投げ」をしたくなる。できない自分と向き合って謙虚に学ぶのが辛いから。そこをグッと我慢できるか。
我慢ができれば権限委譲ができ、権限委譲ができれば作った組織が機能し、組織が機能すれば「30人の壁」を乗り越えられる。

「30人の壁」を乗り越えるには、我慢が大切だと僕は思っているんだ。


※本記事は旧ブログからの転載です。

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