成長する組織と経営者を襲う「30人の壁」の正体

Shinichi Takano
tsukuruba
Published in
6 min readAug 30, 2017

マネジメントスパン

マネジメントスパンという言葉がある。簡単に言うと「組織(例えば課)の大きさは何人が適正か」ということなんだけど、実はこれには何人という正解はない。その組織の業務内容やミッション、リーダーとメンバーの資質や経験によって千差万別なのだ。

とはいえ、実際にはある暗黙の基準を持って組織人事が行われている。

その暗黙の基準とは「情報処理能力」。

僕が課長時代に受け持った最大のメンバー数24人

あるとき、課の編成の変更によって、僕の課のメンバー数が17~18人くらいから一気に24人になったことがあったんだ。その頃には、課長としての経験も積んで、自分なりのマネジメントスタイルもできてきていた。

ところがしばらくすると、ひとりひとりのメンバーの業務の進捗状況の把握が怪しくなり、それぞれの体調や精神状態、悩みや困りごともぼんやりとしてきて、誤った判断をするようになった。その病状が進むとメンバーは何とかして僕に情報を入れて正しい判断をしてもらおうとするので、いつも僕の席には報連相の長蛇の列ができてしまい、ひとりひとりの話をちゃんと聞く時間がますますとれなくなっていき、その結果、また判断を誤るという悪循環に陥った。

僕1人の情報処理能力を超えてしまったのだ。

リーダーは、業務を進めるために仕事をメンバーに割り当て、各メンバーの業務の進捗管理をする。それぞれの仕事の改善課題や目標を設定して、その進捗も管理しなくちゃいけない。現場で早く正しい判断が行われるためには、判断軸、判断基準が共有されていることが必要だ。そのために、企業理念やビジョン、中長期的な戦略、事業部や部の戦略目標、これらを達成するための課の役割や単年度目標などの情報を、組織の上から下へと繰り返し発信し、浸透させることも、リーダーの重要な職務だ。目の前の仕事を進めるだけじゃない。さらに、チーム全体の成果を高くするためにはチームワーク作り、いわゆるチームビルディングの仕事も欠かせないし、将来のことを考えて人材の育成もしなくてはいけない。

これらを達成するには、様々な情報が必要だ。全社の課題、部の課題、課の課題や目標は理解されているか。業務や課題解決はどこまで進んでいるのか。間違いや躓きはないか。壁に当たっていないか。みんなご機嫌で仕事に取り組んでいるのか。人間関係はうまくいっているのか。ひとりひとりの個性は?悩みは?成長したい方向は?

なんとまあ、多くの情報が飛び交っていることか。

リーダーは情報交換の要となり、組織の内外、組織内の上下左右に散在する情報を収集分析して、適時的確に判断したり、次の一手を指示したりしなければならない。

30人を超えると、1人ではムリ!

そしてこれらの情報は、メンバーの人数が増えると2次曲線のように急激に増えていく。

課長経験者には、業務内容を問わず経験的に「30人になると、1人ではムリ!」と言う人が多い。

マネジメントスパン=1人では適時的確に情報処理ができなくなる人数。

ここに初めて「30人」という数字が出てくるんだ。

ベンチャーの成長とコミュニケーション

創業者が1人で仕事をしているときは、自分で収集した情報をもとに、自分で判断して、自分で行動する。

事業が軌道に乗り、拡大し始めると、自分の仕事の一部を誰かにやってもらわないとそれ以上に事業が伸びない。だから自分の代わりに客先に行ってくれる営業マンを増やしたり、サービスの数値管理を任せるディレクターを採用したり、電話番や経理事務といったコーポレート部門が誕生したりする。

すると創業者は、社員に対して何をして欲しいか、どう行動して欲しいかを要望するようになるし、社員から判断を求められるようになる。このときには、これまでのように自分自身で収集した情報だけではなく、彼ら社員が収集した情報を2次的に収集しなければならなくなっているはずだ。簡単に言えば、「で、先方は何て言ってるの?」と聞かなきゃわからなくなってるはず。

だけど少人数の間は意識したコミュニケーションは必要ない。なぜなら四六時中、家族以上に一緒に時間を過ごすからだ。一緒にいる時間が長ければ長いほど、意識しなくても情報は交換されていく。

人数がさらに増えると、いよいよ意図的なコミュニケーションが必要になる。新たにjoinした社員へのビジョンシェアリング、目標とTo Doリストの共有、社員との定期的な面談、定例会議の設置、非定例会議の開催、社員旅行などのレクリエーションや飲み会、合宿などなど。

創業者も起業する前はサラリーマンだった人が多いから、多くの場合、その時の上司の課長がやっていたことを真似て手を打っている。

やってくる「30人の壁」

そしてついに人数が30人近くに到達すると、前述の意図的なコミュニケーションの仕掛けだけでは、もはやチームが機能不全を起こし始める。僕の課長時代と同じ症状だ。

ところが創業者はこれまでの延長線の行動をする。全部に目を通すなんて不可能なのに全員のTo Doリストを集め、会議と飲み会を増やす。社員面談の数は必然的に増えていき、それに費やす時間は人数に比例して増えて行く。

創業者は思うように事業の成長に時間が使えなくなり、自分の思い通りに動かないメンバーたちに苛立ち、時には声を荒げる。

だけどほとんど効果がない。

これがベンチャーの経営者が大抵ぶつかる「30人の壁」。

壁?

それなら解決方法は簡単じゃないか。

チームを分けてリーダーを増やし、1チームあたりの人数を減らせばいい。

ところが、それをやってもどうもうまくいかない。だからこそ「壁」なんだ。

うまくいかない理由

チームを分けてリーダーを増やし、1チームあたりの人数を減らせば、リーダーが処理しなければならない情報量は半分になるから解決だ!・・・おっとっと、忘れちゃいけない。全体で見れば、流れている情報量は同じなんだ。チームを小単位に分け、それぞれにリーダーを置くのは、情報の結節点を作るということ。そのかわり、全体に流れる情報を処理するために、結節点と結節点を結ぶ神経系を作る。それが「組織」だと、僕は考えている。

結節点と結節点を結ぶ神経系がレポーティングライン。これを整えないと、適時適切な「全体の情報処理」はできない。小さな組織でも、レポーティングラインをちゃんと考えて、決めて、各結節点の責任者がそれに適合した行動をしないと組織は機能しないんだ。

この整えをきちんとしていないことが、うまくいかない理由のひとつだ。逆に言えば、この整えがちゃんとできて、創業者も含む各リーダーがそれに適した行動をすれば、多くの問題が解決するはずだ。

チームを分けて、それぞれにリーダーを置くこと。それは、創業以来はじめての「組織化」、つまり「集団から組織への転換点」なんだ。

次回は、私の経験に基づいて、レポーティングラインを整えておかないと、あるいは整えていてもリーダーが自分の行動を変えないと、どんなことがおきてしまうのかということを起点にお話できたらと思います。

※本記事は旧ブログからの転載です。

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