ある日本のゲームプレイヤーの旅路

Ayuha Nakamura
Twitch Japan
Published in
8 min readJan 10, 2017

先日。アメリカのプロゲーミングチームに加入した、日本のプレイヤーがいる。

これは雲の上の話に見えるかもしれないが、実は彼自身プロゲーマーなんぞ夢にも思わなかった時期がある。小さなゲームシーンから、ここまでに繋がったプレイヤーの轍を観ていきたい。

それは、競技のみならず、Twitch や SNS を利用したマルチメディアな側面があった —

https://twitter.com/Luminosity/status/784871356966002688

Abadango(あばだんご)は「大乱闘スマッシュブラザーズ」シリーズ(以下「スマブラ」)のゲームを主にプレイするゲーマーである。

2009年、スマブラシリーズは世界で最も大きな大会でも、参加者200名規模ほどのコミュニティシーンであった。Abadango が競技としてスマブラを始めたのはその頃。Wii版のスマブラ「X」の時代である。

2014年

そして来る2014年。彼はこの時も、ただゲームプレイで結果を残そうと思っていた。

日本では飽き足らず海外遠征にも目を留めたのは、新作「大乱闘スマッシュブラザーズ for 3DS / Wii U」発売後初期(2014年9月)。使用ファイター:パックマンが、使用率が低いながら本当に強いと信じていたからとのこと。Abadangoは即決し、自費にて飛行機券を買った。アメリカ開催のApex2015(2015年1月)は斯くして出場決定し、結果はベスト8。大健闘であった。

転換点

そして、2015年夏。Twitchでの配信を通じて新たな遠征の機会を得る。

(現在の Abadango 選手のTwitch風景 twitch.tv/abadango

ラスベガスで開催されるマルチ対戦格闘ゲームイベント:EVO2015(7月)にて、スマブラ「for Wii U」が種目採用された。EVOはオープントーナメント。渡航する理由が出来た。そこで Abadango は ドネーションを EVO2015 目前に導入。視聴者からのサポートで無事遠征費が揃い、渡航することが出来た。

本ドネーションは渡航することを約束してファンに目標額を呼びかけるものであった。今回に限らず、ドネーションはどの目的であれ、ライブストリームであることを活かしたクラウドファンディングである。配信ソフト上での設定をすれば、ドネーションを贈ったファンは名前が配信画面にポップアップし、贈った人物の履歴もローテーションで表示される。ファンにもメリットがあり、相互作用が生まれる。

渡航した結果、成績は、4位と相成った。
「結果として、EVO2015に行ってよかった。ここで結果残していなかったら何もなかった。」
と語っている。

しかし「この頃はまだプロの意識は無かった」と言う。

登竜門

とはいえこの大会直後、にわかに Nairo, ZeRo, Dabuz といったアメリカを舞台に闘うライバル達のプロゲーマー化が発表。EVO2013以降のスマブラ「DX」種目採用、そしてEVO2015の「WiiU」「DX」双採用により、シーンは指数関数的に拡大。スマブラ専用の大会も膨張していた。単独で3500名規模の大会も出現。

そして Abadango 自身もプロ志願者に旗揚げする。

Twitch 配信・ならびに大会の Compedium 制度で旅費を工面。招待されることもあった。北米・欧州に渡り結果を出し続けた。それのみに非ず。Twitterのフォロワーは2014年に1,000以下であったに対し、2016年12月現在は22,000を凌ぐ。日本語での発信も増えたが、海外での交流に伴い英語での情報発信も増えた。

昔は英語のツイートは無かった事に対し、今ではすっかり板に付いている。

振り返ると、この2年での遠征回数は数え切れないほどになった。自分からの情報発信は欠かさず、単独で諸チームへの参入志願を直談判して回ること幾度。

Pound2016優勝時のAbadango (Tischから)

果たして2016年10月、Abadango 選手の Luminosity Gaming 加入が発表。プロ化である。

Twitch を始めて

プロと成った今、旅路にも一段落。ここで、彼にTwitch で発信することのメリットを訊ねた。

「Twitch のフォロワーを、提示できる。」

と話す。Abadango 選手は、プロゲーマーを目指して “プロ就活” をしていた。その際、交渉先に Twitter/Twitch を共に数字の資料として提示出来るのは大きいとのこと。現在Twitchのフォロワーは11,000以上である。

また、親密な海外ファンは大幅に増加。「Twitchで配信していないプレイヤーとは(海外ファンとの親密さに)差がある。実際マジで。」と述べる。

熱心なファンは長いことTwitchでAbadangoへスポンサー登録をしている。最長は既に1年半連続スポンサーに当たる。Abadango選手にスポンサー登録をする海外プレイヤーが、日本のコミュニティ大会に来てくれたこともあり、日米の橋渡しにもなっている。

サポートに関して余談であるが、Twitch には元からスポンサー登録(Subscribe)機能がある。そして2016年12月、グローバルにて Cheering機能 / Bits を導入した。Twitch パートナーを直接サポートする新しい方法となる。詳細が気になる方は、こちらのリンクから参照されたい。

プロ化

プロゲーマーとなった今も、変化した点・していない点がある。

試合に対する姿勢の変化は無いと言う。「プロになる前は、プロになるために結果をださなきゃいけなかった。今は、プロだから結果出さなきゃいけない。」とのこと。

しかし、周りの目は変わったそうである。ゲームに関係ない周囲からの目は殊更である。「世界大会で結果が出ていても、内心では鼻で笑っている奴はいただろうけど、収入があると流石に変わってくる。」と述べている。短くも潔い彼の口調は、畏くもプロの重みがある。

そして本人の視点は変わったと言う。「アメリカライクのファンに支えられるようなプロゲーマーになりたい」…今となっては上述の Nairo, Dabuz といった海外プレイヤーのTwitchを観るそうである。

以上、

彼は特別饒舌という訳でも無く、先人のモデルがあった訳でもない。しかしゼロから始めた彼の道程は、日本のゲーマーには広く規範となる影がある。Abadango の道のりが、自らたのむところ篤い日本のプレイヤーの露払いとならんことを切に願う。

Abadango とは

東京を拠点とするプレイヤー。「大乱闘スマッシュブラザーズ for Wii U」を始めとしたゲームをプレイする。
「大乱闘スマッシュブラザーズ for Wii U」では Pound2016 優勝を始め、EVO2015 4位、EVO2016 5位。また、CEO「ポッ拳トーナメント」5位 など、海外での大規模大会に於ける安定感が売り。使用キャラも時代の一歩先を行く選択をする。
Abadango Twitch : twitch.tv/abadango

Luminosity Gaming とは

カナダのトロントを拠点とした、北米の名門esportsチームである。
チームのツイッターフォロワーは20万を超える。
2015年発足ながら成績は目覚ましい。2016年 MLG Major Championship 優勝(CS:GO)、CoD World League Championships 9位、Overwatch Open 9位 はじめ、HS, Smite, LoL など複数タイトルで活躍している。Abadango 選手加入に伴い、スマブラ部門を新設した。
Luminosity Gaming Twitch : twitch.tv/team/luminosity
Luminosity Gaming Website : http://luminosity.gg/

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