リスクを二元論で考える事のリスク

UeShun
UeSaku Diary
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5 min readNov 24, 2015
このポストイットの糊付けは致命的にミスってると思う

世の中には単純に白黒つけられないことが少なくありません。そしてそのような事象で無理に白黒つけようとすると、誤った判断に陥ることもあります。今回はそんな二元論で考える事の危険性について1つ具体例を出して説明します。

1.東日本大震災のガレキ問題

僕は3.11のおよそ一年後に、震災により発生した大量のガレキの未処理問題について大学のゼミで扱いました。

震災後、被災地で処理しきれないガレキについては政府により日本各地で処理する方針となっていましたが、放射線の測定値が基準値未満のガレキについても放射能汚染が怖い・住民の理解を得られないという理由で引き受ける自治体が少なく、何時まで経っても被災地に大量のガレキが放置され、住民の生活に影響が出ているままの状態になっていました。

この問題について博報堂や時事通信の社員さんのアドバイスのもとに東大生約30人なりに下調べをし、現地調査をしました。僕は宮古市や釜石市を訪問しました。最終的に我々なりの解決策をまとめた上で霞が関に出向き、当時の環境大臣・原発事故担当(細野氏)に報告しました。

その最終報告において、我々は問題解決を阻む課題を全部で11個にまとめ上げました。その中でも僕が特に注目したのは以下の2つでした。

  • プロセス及びリスクを開示せず、安全であることだけを強調した政府の情報発信
  • リスクを冷静に判断し、関わる力が国民のなかに育まれていないという現状

当時、「8000ベクレル以下(のガレキ)は安全!」といった数値を強調した断定的な情報発信が政府からなされている一方で、数値の意味がうまく国民に伝わっていませんでした。原因を探ってみると、基準値等を決定する判断に至ったプロセスやリスクの検討過程、社会的判断の根拠になった部分が見えにくく、そのため数字だけが独り歩きしている状況が明らかになってきました。

これだけ書くと政府が一方的に悪いように見えますが、どうやら国民側にも問題があるようでした。放射能汚染を初めとした「リスク」を冷静に判断し、関わる力が国民の間に育まれていないため、結果として「安全」なのか「危険」なのかという二元論でしか判断をすることができていない人たちが大勢いたと考えられたためです。

2.リスクを二元論で考える事のリスク

安全か危険か、という二元論で考える事がなぜ良くないのかということについて簡単に説明します。まず知っておいて欲しいのは、放射能に関する基準値は絶対的なものではないということです。つまり、「この基準値を超えたら絶対に危険で、低かったら何がなんでも安全!」という数値は放射能に関しては存在しないということです。

もちろん、事実や理論に基いて基準値とすべき数値の範囲を絞ることは可能ですが、最終的には社会的に適当(妥当)であると判断された数値が基準値として採用されているに過ぎないのです。

このように、基準(値)が絶対的なものではない以上、本来は国民としては発表された数値に加えて、決定までのプロセスや背景などをもとに最後は自分で安全性の判断及び評価をするしかないのです。

しかし二元論で考える人は有り得ない絶対的安全(=ゼロリスク)を求めてしまうため、政府としてもそのような国民が多いと「こんなレベルの国民に判断に至るまでのプロセスを見せても無駄だ……無用な混乱を防ぐためにも結果(決定した基準値)だけ見せよう」となるわけです。これでは国民は余計に数値それ自体に躍らされることになり、悪循環が断ち切れません。

そもそも、基準値が絶対的なものではないということは、よく考えると普段の生活からも容易にわかることです。自動車の速度制限(制限速度以下なら必ず安全なわけでもない)もそうですし、日々の塩分の推奨摂取量(超えても必ず病気になるわけではない)もそうです。こういったリスクについては白黒はっきりした基準があるわけではなく、あくまでグラデーション的に、アナログにリスクが増減する中において社会的に妥当と考えられる基準値があるだけです。

残念ながら、少なくない大人の人たちは当時の放射能関係のリスクや基準値についてあまり良い判断ができなかったようです。しかし中高で習う理科に関する基礎的な知識があれば、放射能や放射線といった用語やベクレルやシーベルトといった単位について把握し、放射能関連の基礎を理解することはおそらく可能でした。仮にそれらの用語や単位をもともと知らなかったとしても、上記の理科の知識があればネットやニュース等の情報から正しく捉えることができたと考えられるからです。(中高の授業は大事であるという前回の記事につながります)

そしてなるべく正しく自分なりに理解した上でならば、数値に必要以上に振り回されることもなく、より良い判断ができたのではないでしょうか。

もちろん安全が第一であり、数値などの情報を収集すること自体は当然大事なことなのですが、あらゆる情報をもとになるべく正しい判断をするためには正しい知識が必要です。

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UeShun
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東京大学大学院生。研究分野は化学及び生物学。研究以外ではEdTechや温泉、外国人向け観光案内に興味があります。