Liberal Radicalism要約-QVを使った公共物の最適提供

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11 min readMay 11, 2019

Vitalik Buterin, Zoë Hitzig and E. Glen Weyl著作 Liberal Radicalism: Formal Rules for a Society Neutral among Communities

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40ページとかなりいい量あるのでチャプター毎に簡単な要約を行いました。筆者は経済学メジャーではないため数式や詳細などはなるべく避けて解説しています。間違ってるところあればご指摘お願いします。

別記事「Web3.0時代に政府は必要か」ではこのペーパーで取り上げられている問題をさらに拡張し、Ethereumをはじめとする、クリプトエコシステムの自律組織実現について議論しています。

0. 概要

ペーパーの目的を一言で表すと、「公共財である分散型、自己組織化エコシステムの(ほぼ)最適な提供を可能にするための、慈善的または公的資金による播種を提供すること」です。これを聞くとDAO(自律分散型組織)を思い浮かべますが、その違いは公共物の最適提供を可能にする慈善的な方法をカバーしているかそうでないかだと言えます。

このアイデアはGlen WeylがRadical Marketで提唱したQuadratic Voting(以後QV)を公共物の資金調達メカニズムとして拡張しています。QVは従来の一人1票や定量購買法とは異なり、投票者が購入する票の数の2乗ずつ値段が上がります(例:1票が100円、2票が400円、3票が900円 )。QVにより、多数決ではなく、最も関心の持たれていることに投票されるため、最適な公共物の提供が導かれるという考えです。

Liberal Radicalism(以後LR)は従来のマーケットのリニアーなファンディング原理とは異なり、貢献者による貢献の平方根ルートの合計の2乗です。

後半には金融、ニュースメディア、オープンソースプロジェクト、都心公共プロジェクトなどへの応用例や、中立的で非権威主義的な規則を提供することによって、政治哲学における古典的なリベラルコミュニティー主義の解説についての議論を行います。

1. 序章

著者がQVを使って解決しようとしている問題は大きく分けて以下の3つです:

  1. フリーライダー問題による不公平性、資金不足の問題。
  2. 一人1票ではプロジェクトの重要性に基づいた選択がされない問題。
  3. マッチドネーションの非効率性。

フリーライダーとは公共物を貢献などのコストなしに利用する人や組織を指し、経済学上での公共物とはnon-excludableかつ、non-rivolourious である — つまり個人の利用を妨げたり、誰か一人が利用することにより他の者の利用を妨げることはできない特徴を持つサービスやモノを指す。i.e. 国防や公園。

マッチドネーションは企業が従業員の寄付をあらかじめ決められた上限までスポンサーするシステムです。例えば従業員Aが寄付$100すると企業から$100のスポンサーを受けるため、合計$200の寄付をしたことになるということです。従業員Bが$1000寄付した場合は合計の$1100が寄付されます。ここでの問題は、従業員による寄付金とスポンサー額の割合が従業員Bだと小さいため、大きな寄付をするインセンティブを適切に与えられていません。よって任意の限度額や割合を決めるシステムの採用が必要です。

まとめると、このペーパーでは、(1)と(2)の問題と、(3)の問題を解決する価値が最大化される最適な任意の限度額を決めるデザインについて議論します。

LRを採用することにより、貢献度の最も高い人の優位性を最小限に抑え、貢献度の最も低い人には貢献のインセンティブを与えることができます。よって最も重要と考えられる公共物がより多くの資金を供給され、かつ一人1票の問題である多数派意見の優位性、少数派意見の抑圧を解決します。

2. 背景

このチャプターはフリーライダー問題に関する言及から始まります。個人が自己中心的な利益のみを追求した場合、他のエコシステム参加者を除くその個人のみが受益者となるため、資金調達総額は受益者の数に比例して増加しません。

国防やインフラは国の徴税によって運営されているじゃないかと考えられますが、ここで焦点を当てられているのは、公共物として浅い歴史をもち、限られた資金のみしか提供されていない公共物です。

第一に、公共物は固定のものではありません。オープンソースソフトウェアやビッグデータに始まり、ジャーナリズムや公共物として認められた方が価値が増加する産業も公共物となるかもしれません。

さらに、小さなコミュニティにのみ価値が認められているもの(資金調達の自伝であまり知られていない、誤解されているなどの理由より)は、大多数のコミュニティからの資金を得ることができません。つまり少数派のコミュニティは民主主義から資金を受け取りにくいです。これが少数派コミュニティが一人1票よりもチャリティや資本主義により資金を受けることが多い理由となります。

以下は従来の資金調達方法による問題点です:

一人1票

・大多数の意見に基づき、頻繁に価値の最大化に反する動きを促進する

・少数派の抑圧

・費用がかかる

個人の使用に対する排除

・非効率であり、潜在的ユーザーを排除する

・市民の最低価値が供給レベルを決める

・費用がかかる

チャリティ

・動機に依存するため共通のメリットと一致しないことが多く、相反する動機の影響を受けやすい

QV単体ではある「一定の選択肢とコミュニティ」での一人1票による非効率を解決することができるが、柔軟性(flexibility)の問題を解決することができません。柔軟性は資源をどの公共物に割り振るかを決めるために中央集権組織が必要となるかどうか。中央集権的主体なしには、社会から自然に誕生しない公共物(例:ゴミ収集など)があるため、中央集権政府が必要となります。このペーパーの目的は新しい資金調達の方法(QV)に加え、分散型自律組織でのこのような制限を議論することです。

その他LRのキーポイント

・参加者は、リストされているプロジェクトから好きなモノを選び、1ヶ月など定期的に自分の資金を貢献できる。

・参加者は、いつでも新しい組織をシステムに含めるように提案することができる。

・参加者は、それぞれのプロジェクトの資金レベルを知らされる。

・ヘイトスピーチを支援するなど一部にとっての”善”は一部にとっての”悪”であるため、ネガティブな貢献を見逃す必要があるかもしれない。

3. Model, 4. Design and Analysis, 5. Variations and Extensions

ここでは今まで言及した社会内での公共物や個人の行動、趣向を表すモデルなどを数式を使って表しています。本記事ではカバーしないので、興味のある方はペーパーを読んでください。

6. 応用

Open source software コミュニティ

オープンソースプロジェクトは企業や階級的なガバナンスによりサポートされていることが多く、大部分の貢献者は時間的余裕がある特権を持ったギーク男性が多いため、公共物としては失敗と考えられています。これらの問題に対する解決策としてオープンソースコミュニティに人気なのは、暗号通貨とクラウドファンディングです。

クラウドファンディングは金銭的貢献の対価にトークンを発行することが多く、これは資本主義の慈善問題を再び引き起こしています。

ブロックチェーンのエコシステム(EthereumやZCashなど)は上とはかなり異なっています。通貨はエコシステムの価値を表し、大部分は財団が保持することにより公共物を支援するためのGrantsを行います。投資によってお金持ちになった投資家は比較的、慈善的でコミュニティの成功のために貢献する傾向があります。しかしgrantsが中央集権的な方法で行われているため、2つ問題が考えられます:コミュニティのニーズを的確に反映することができない;基礎のはずの分散化組織の思想と相対する。

ブロックチェーンとクラウドファンディングはLRの絶好のテスト環境であると言えます。ここでの課題は匿名性であり、LRは別個のアイデンティティに依存しているため、シビル攻撃の脆弱性を抱えています。

ニュースメディア

ニュースは個人の利用を排除する費用が極めて高いく、明らかな公共物の例であるため、LRにとって完璧な応用例でしょう。LRを使うことにより、従来より少ない資金で効率性を実現することができます。すると真に多様エコシステムから成る新しい革新的な報道機関を実現することができます。

7. 議論

ここではいかにLiberal Radicalismがリベラル政治思想の解決策になり得るかブループリントを提供します。

8. 結論

タイトルが”Liberal Radicalism"であるため、様々な意味に取ることができると思います。例えば、文字通りradicalな方法で公共物にリベラルな資金調達方法を提供;ビジョンが過激リベラル思想に繋がるものであること;根本的な資本主義や一人1票方式を変えることなど。

現状のリベラリズムの資本主義や一人1票の民主主義などは、一見中立で非権威主義に見えるが実は全く逆で独占や多数の専制君主を引き起こしている。”radical”はこれらのリベラリズムの根本を変革するという意味で過激であります。

LRはまだ未熟であるため経済論よりも上に、多くの哲学的、社会的、政治的課題や問いが投げかけられています:

LRは、資本主義的個人主義と家族階層に対するフェミニスト的批判をどのように反映し、それに対応することができるか。LRは社会的態度、相互作用、倫理基準をどのように変えるか。攻撃やハッキングへの対策として何ができるか。LRの下で政党や活動家組織はどのようにな形をとるか。もっと広く言えば、LRは共同体の形成を最適に奨励するか、それとも回避するために必要な規範や規則が必要だろうか。
そしてLRの仕組みを数学にあまり馴染みのない人々に受け入れさせるにはどうすればいいか。

現在チャリティによって支援されている活動をこのペーパーでカバーした方法を使って実験的に支援しようとする慈善家が多く現れることを願っています。

“オープン慈善事業”と”効果的な利他主義”への流れは、貢献者の裁量は慈善事業から可能な限り排除されるべきであるという哲学に基づいています。ランダムな比較実験や正確な測定で資金を振り向けることが難しい分野では、LRはこの哲学に非常に適しているでしょう。

補足

筆者も要約をしていてまだ咀嚼できていない箇所が遍在していますが、ここまで読んでいただければRadical Liberalismの大まかな概念は伝わったかと思います。

Radical Liberalismは特に暗号通貨のクリプトエコシステムに非常に相性がいいです。なぜなら:

・クリプトでお金持ちになった人は、新しい技術のアーリーアダプターであり、新たな取り組みに投資する傾向にある

・TRCやAragonなど新たなガバナンスや組織の仕組みが様々なところで実験されている

・ICOに取って代わる資金調達の方法が必要とされている

・Ethereumなど多くのプラットフォームで公平な資金配分の方法やフリーライダー問題などが急務の課題となっている

このペーパーは高レベル層の話と詳細の話が入り混じる内容のため、特に日本では多くの人に読まれることはないでしょう。しかしここにはこれからのWeb3.0時代で持続可能な分散型組織を市民の慈善活動で運営していくには非常に重要なヒントが散りばめられていると思います。クリプトエコシステムでは新たなアイディアを実装することに積極的な人が多いので、LRや他のガバナンス方法を実装してこの動きを現実世界にも広げたいですね。

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