DAppsゲームのゲームデザイン上の課題

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14 min readSep 7, 2018

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「ゲーム」とは何か。

私たちが愛してやまないゲームというものに対して、即座に答えることができる人はそう多くないでしょう。 しかし、ゲームというものが遊びとして広く受け入れられているのは周知の事実でもあります。

では、遊びとして受け入れられているものにはどういったものがあるのでしょうか。 有名な議論として、フランスの社会学者ロジェ・カイヨワは人間の遊びに対して、4つの分類を行いました。
それらを私たちが愛して止まない「ゲーム」に当てはめて考えてみるとどうなるでしょうか。

  1. Agon — 競争
    多くのもので私たちは人と競争し勝利者を決めています。直接的なものでないにしても「スコア」という数字で誰かと比較し競えるものが提供される事例も多くあります。
  2. Alea — 偶然
    思念や能力とは全く関係のない偶然・運によって結果が変わることもあります。またはそうした運の結果に応じて、意思決定を変えるといった局面も多くあるでしょう。
  3. Mimicry — 模倣
    車を運転してみたり、街づくりを経験してみたり、私たちはコンピューターの画面の中で現実世界の様々なものを再現できるものもあります。
  4. Ilinx — 眩暈
    コースターに乗っているときの目まぐるしく景色が変わるような場面もゲームは数多く存在しています。最近で言えばVR技術の発達によってより現実の眩暈に近い感覚をゲームで得られるようにもなりました。

こうしてみるとどれもこれも当てはまるものばかりのように感じられます。

それでは、私たちが関心を寄せているブロックチェーンという技術、DAppsゲームという新しい境地は、いったいゲームの世界に何をもたらしたのでしょうか。
DAppsゲームに対して「ゲームとしてはまだまだ面白くないよね」といった声が少なくないのは、皆さんご存知のとおりです。 ただし、それはDAppsゲームというジャンルがまだ黎明期であることに起因しているものも多いはずです。

現在のDAppsゲームは、仮想通貨という投機のブームの延長線上にある話として語られがちです。 そのためどうしてもDAppsゲームというものに対しても投機性が求められ、強調するようなシステムを設計していくのも頷けます。

ただし、重要なのはこれから起きる、起こすことのできる変化でしょう。 「ゲームとしての面白さ」というのは、この文脈に置いては本質的な課題ではありません。 なぜならゲームとしての面白さとはDAppsゲームという文脈とは関係なく行える独立した議論だからです。 私たちはブロックチェーンを意識してもしなくても、いつでもこの話を行うことができるでしょう。

では、DAppsゲームというのはこれまでの「ゲーム」に対して何をもたらすのか。そこに触れてみることから始めてみましょう。

Decentralizedがもたらす「楽しさ」とは何か

DAppsゲームというものが登場するよりも前から、e-sportsの興隆から通じる「ゲームを遊ぶことで収益を得る時代」という話はありました。
ゲームというのはこれまで単に「娯楽」の一つでしかなく、ゲームで生計を立てようという発想は(少なくとも日本においては)あまり出てきてはいませんでした。

ブロックチェーンの技術を用いると、改ざんが困難なシステムを構築できます。 これをゲームに組み合わせることでゲーム内のアイテムを「資産」として取り扱い、さらにその資産の所有権の移り変わりなどがきちんと扱える、ということになります。
また、ブロックチェーンの世界ではこうした「資産」が勝手に複製されたりすることも防止できるため、いわゆる「レア」なカードが本当に「レア」である、ということを保証することができます。
こうしたゲームのアイテムを仮想通貨を用いて売買ができることから、「ゲームを遊びながら収益化することもできる時代がきた」という形で注目を浴びています。

こうした特徴を活かしていくと、ユーザーのモチベーションというのは次のようになります。
「持っている資産の価値が高まることで、別の資産的な価値を持つものと交換できるようになる」

現在主流のDAppsゲームというのは、運営によって発行される資産の数を限定し、その資産の用途が後から増えていくことでその資産に対する需要が増し、資産的な価値が高まっていくということを中心としています。 ただし、これだけですといわゆる「楽しいゲーム」といった文脈とは異なり、「楽しい投機」をする対象にゲームのアイテムを利用する、という話に着地してしまいます。 こうなってしまうと現在のゲームユーザーが考えているものとは全く異なるものとなってしまうため、ユーザーを集めることができません。そうすると資産に対する需要が拡大する、という部分の実現も難しくなってしまいます。

また、ユーザーのモチベーション以外にもこれから解消しなければいけない課題が存在しています。 そのいくつかを今回は順に考えていきましょう。

希少性とゲーム体験

DAppsゲームの特徴として不正な方法による複製などができないことから、「本当に1枚しか存在しない貴重なカード」といったものを作ることができるのはこれまで説明したとおりです。 しかし、これをゲーム体験として考えてみた場合この話はゲームの体験とほとんど結びついていないことはすぐにわかります。 ユーザーは「本当に希少価値のあるもので得られる体験」に関心があるのではなく、「どのような体験が得られるか」ということに関心を持っています。

また、ほとんど(ここは「全ての」と言っても良いでしょう)のゲームデザイナーの考え事の中心は「ユーザーにどのような体験をしてもらいたいか」といったことであり、何かを作るときにも「体験に対してどういう役割のものなのか」といったことを考えています。

ここで重要となるのは、こうしたデザイナーの「提供したい体験」やユーザーの「得たい体験」を提供する手段に対して、希少性という概念はあまり相性が良くないと言ったことが挙げられます。 なぜかといいますと、ユーザーが「得たい体験」を実現するための方法に対して希少性が加わってしまうと、望みを実現できるユーザーの人数に非常に厳しい制限がかかってしまうからです。

これまでゲームというのは基本的にはユーザーに楽しんでもらうための娯楽としての側面が強かったため、ゲーム自体を購入すること・ゲーム内で課金を行うことでそうした体験を得られるように作られてきました。 つまり、理屈的にはそれを望んだユーザーの数だけ望んだ体験が提供される仕組みになっていました。
※ただし、一部のゲームにおいてはガチャやルートボックスといったランダム制を用いたものでその確率が非常に低くなっていたり投資を際限なく要求するようなケースがあったため、問題となっていました。

しかし、希少性を担保することを前提に設計をしてしまうと、それを望むユーザーの数と実際に実現できる人数に乖離が生じます。 投機の材料として考えた場合には、資産を望むユーザーの数が増え続けることは資産的な価値の向上につながるため望ましいものです。そのため、両者の溝は埋まらずに深まりつづけることになってしまいます。

では、ゲームの体験と資産的な価値を分離してみるのはどうでしょうか。
たとえば世界に1枚しか存在しない「伝説の剣」というカードと、ゲームの中のルールとしては「伝説の剣」と全く同じ効力を発揮する「伝説の剣’」というものが無制限に存在している、といったケースです。 この場合はユーザーは設定された投資を行うことで「伝説の剣’」が手に入るため、「伝説の剣」というものを持っていなくてもそれと同等の体験を得られることができます。
体験を主眼として投資しているユーザーにとっては「伝説の剣’」でプレイすることと「伝説の剣」でプレイすることに差異がなくなるため、「伝説の剣」を得ようとするモチベーションが高まらずに、資産価値の向上を阻害してしまう可能性が残ってしまいます。

開発者の収益とユーザーの収益

次に希少性を守ることによるメリットをどのように理解すればよいかということについて考えてみましょう。

たとえば、100枚しか存在しないカードを発行元が1枚あたり500円(実際のDAppsを考慮するとここは法定通貨ではなく仮想通貨として話をする必要がありますが、理解しやすくするために価格も固定される法定通貨を単位として利用します)でユーザーに向けて販売したとします。
もしカードの販売において何も手数料として取られるものがなければ発行元はカードの販売によって50000円を手にすることになります。 この時点で発行元は所持しているカードを全て手放したため、このカードによる今後の収益は0になります。 そのため発行元は別のカードを新たに発行して販売するか、販売されたカードに対して売買などで手数料設けて徴収をしないと収益が上がりません。
そこでカードの売買に対して都度1%を手数料として発行元が徴収する形にしてみましょう。そうすると、カードが再度500円で取引される、といったことを100回繰り返さない限り発行元がカードももう1枚追加したときの収益に追いつくことができません。

そして、ここで注意しなければいけないのはこのカードの売買を発行元が提供している(手数料を徴収する)マーケットで行う必要はないという点です。
手数料を徴収することは可能ではあるが、それは必然ではありません。 ユーザー間で売買が行われる場合、余計なコストは0に近ければ近いほど望ましい状態です。そして、それは不可能なことではないため発行元が収益源とみなすには不確実性がだいぶ残ることになってしまいます。

発行元はこうした不確実な手段よる収益と、そもそも枚数を制限せずに直接販売し続けたらいくらになるのかといったことを常に天秤にかけなければいけません。

透明性は何のため?

ブロックチェーンの世界では高い透明性と、その透明性によってもたらされる公平性は非常に魅力があります。 ただし、もし高い透明性や公平性を示すためだけにブロックチェーンを利用するのであれば少し踏みとどまって考えてみる必要があります。

「ユーザーは透明性をいつ気にするのだろうか?」

たしかに開発者がインチキをしていないことを証明できるのは重要なことです。 ただしそれがどういった場面で要求されるかということを考えてみると、常日頃から意識されるものではないかもしれません。
もしユーザーがそれを気にしているとしたら、きっとユーザーは開発者たちを信頼できない何かを見つけてしまったときなのではないでしょうか。

別の切り口から見てみても、透明性を担保していたとしてもそれを全ての人が理解可能かどうか、といった問題が残ります。
ソースコードが公開されていたとしても、それが本当に採用されていることを確かめたり、そのソースコードが示している内容を理解するのにはリテラシーが求められます。
現実的な視点からしてみると、ソースコードの中身をすべてのユーザーが理解できる時代はまだ到来していないように感じられます。 もしそれが事実だとしたら、透明性が確保されていたとしてもそれが伝わるためには担保された透明性をさらに説明してくれる専門家、といったような人たちを信じるしかないでしょう。

実現したいことは技術によってしか解決できないのか、技術によって本当に全て解決することができるのか。ユーザーのことを考えると、かならずしも透明性が役に立つわけではないかもしれません。

一方で、透明性・公平性が非常に重視される場合ももちろんあります。 その最たる例がギャンブルでしょう。 本当の意味でオープンかつ公平なギャンブルを、胴元なしで実現できることには大きな価値があるでしょう。 実際、ブロックチェーンを用いたオンラインカジノのプロジェクトはいくつもあります。

Uniqysは何を目指すのか

このようにしてみるとDAppsゲームでなければならない独自の面白さ、といったものを追求するのには課題が多いことがわかります。 しかし、「DAppsゲームでなければならない独自の面白さ」を主眼としてサービスを設計する必要はないようにも考えられるでしょう。

なぜなら、普通のゲームが面白く、そうしたものを遊んでいる中で手に入ったものに対して、きちんと資産としての所有権を保持することはそれだけで十分に魅力があるからです。 「価値を高める」というものを主目的にするのではなく、ユーザーが遊んで「手に入れたもの」に対して権利を正しく行使することができる。 重要なことはブロックチェーンでは「価値が高まる」ことが実現できるのではなく、「運営者が価値を独占しない」仕組みが実現できるといった点にあります。

私たちも「DAppsゲームでなければいけない独自の面白さ」についてはまだ回答が出せていません。 しかし、ブロックチェーンを利用することでゲームユーザーとゲーム開発者の間で、一方的な価値の独占がない公正な関係値を築き上げることができるでしょう。

今回はDAppsゲームを考えるとき、衝突するであろう課題についていくつか紹介してきました。 批判的な意見が多くなってしまっていますが、DAppsゲームもブロックチェーンもまだまだ黎明期です。 しかし、こうした課題ときちんと向き合うことは、私たちが提供できる「楽しさ」を前進させるのには必要なことでしょう。

あなたが出会う最悪の敵は、いつもあなた自身であるだろう。

ニーチェ

私たちが提供しようとしているのは「技術」そのものではないはずです。 それによってもたらされる「価値」をどう活用できるようにしていくのか。

ゲームデザインをする上で忘れてはいけないポイントは常に「私たちはどんな「楽しいこと」を提供したいのだろうか」といった点にあるはずです。

そして、Uniqysプロジェクトでは、ゲーム領域にとらわれず様々な分野においてブロックチェーンを活用することのメリットを広めたいと考えています。 そのために、私達の最初の取り組みはDApps開発において障壁となっているものを取り除けるようなサービスの開発を進めています。

現状の課題についても、移行期間であるがゆえの問題が多くあります。 そうした時代的な背景が過ぎ去って、すべての人々がブロックチェーンの恩恵を受けられるような時代を迎えることができたならば、それはきっと今より素晴らしい社会であると信じています。

ブロックチェーンの価値をより多くの人に届けることができる時代に向け、これからも一緒に考えていけたらと思っています。

Uniqysプロジェクトについてはこちらをご覧ください。

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