意味論的転回 #11
抄読会: UXKYOTO STUDYで取り上げる書籍「意味論的転回」の7章前半部分(p237~p263)をまとめました。
デザインのための手法、研究、科学
意味論的転回は新たなアイデアであるがデザインの一面として昔から同様の考え方があった。以下の3例である。
- 多数の利用者に認識をもたらす公共空間(街やハイウェイで道を探す、建造物の目的を認識するなど)は利用者の注意や行動を導くための手段を提供するものと認識される。これに関する知識は批評家や歴史家に限定されたが意味論的転回はこうした事象を体系的な考察のためにデザインのための科学へ道を開く。
- 新しいメディアはグラフィックデザイナーとプロダクトデザイナーの領域をあいまいにする。人々が人工物をどう扱うかというデザインの関心ごとと知識を認識ようになることがこの境界を解消するがこれは意味論的転回による。
- 美術館やステージなどのデザインを考えた時にこうした公共の場はコミュニケーションの問題として扱われ、グラフィックディスプレイによって解決される。これはマルチユーザーシステムのデザインと言え、(意味論的転回は)選挙システムやファッションラインといったデザイン領域へ拡大を行う。
これまでの章で示した意味論的転回は単なる素描であり、これはデザインの境界を書き直すことで人間中心的な考えを採用しデザイナーが対等な関係で他の専門家と協議できるようにするレトリックの研究を推奨する。
デザインのための新たな科学
意味論的転回はこれまで見落とされ無視されてきた探求のための余地を生み出す(こうした余地への入り口として人工物、インターフェース、UCMステークホルダーやそういった類を意味する新たな語彙が存在する)。またこれはデザインのためのディスコースを提供し、新たな質問を科学者ではなくデザイナーに尋ねることを可能にする。
こうした質問は他の分野では扱われないため、デザインにおける意味論的転回は新たなデザインのための科学を要求する。
- デザインの科学: 科学の方法論でデザインを理解
- デザイン科学: デザインに対する科学的アプローチ
- デザインのための科学: 成功したデザイン方法論の集成
デザインのための科学はステークホルダーにとって説得力のある正当化をもたらすツールを提供しなければならず、自然科学の全連に従うことができない。
デザインのための科学が認め、デザイナーが取り組まなければいけない5つの特徴がある。
- デザイナーは存在せず自然に生まれてこない人工物、製品、慣行に関心がある。デザインのための科学にとって変りやすさ(行動が将来に影響をおよぼす余地)を探索することが重要な役割である。
- デザイナーも(変りやすさと同様に)どのような将来が進歩となるのかどういた時間の枠組み内にあるか、どのような努力によるものかといった感覚を持つことが必要。こうしたビジョン(言葉で語られる)をステークホルダーと共有するためにもデザインのための科学は実現性についての言葉を語らなければならない。
- ステークホルダーの理解の理解がどのようにデザイン決定に情報を提供できるかが問題となる。
- デザインのための科学の重要なコンポーネントはデザイナーに対して彼らのデザインのために行う主張を実証する方法を提供することになる。
- デザイン論はそれ自体を吟味し誤解を修正し、デザインの成功を増幅し、継続的にその語彙を拡張しなければならない。デザインのための科学は境界の内部からデザインを探索し、デザイン集団に信頼できる概念、方法、知識を供給する一方で、自身のロンの実行可能性を維持しなければならない。
未来への可能性の余地を創造する手法
<ブレーンストーミング>
参加者が互いに発信したことを尊重しあう理想的な会話を利用し、急進的なアイデアの創造に寄与する環境の提供を目的とする。
会話を抑制するものを環境から排除しようとする手法。
ブレーンストーミングの最高の成果は思いもよらないようなたくさんのアイデアもしくは刺激的なプロセスが評価に値するそのアプローチである。
<リフレーミング>
ブレーンストーミングに似た手法であるが、複数の筋道に焦点をあてて扱いにくい状況を理解しようとする。
リフレーミングはある特定の表現メディアが隠しているものを視覚化し、解決し、理解可能にする。
- 既知のものを変形する
- 代わりとなるメタファーを利用
- 与えられた状況の類似を探す(AとBに対するCとDの関係)
- いろいろな論理的視点を用いる(他の分野の視点で考える)
- さまざまなステークホルダーの概念の枠組みを引き出す
- 問題やデザインを概念化するためにさまざまなメディアへ翻訳する
<組み合わせ論>
組み合わせ論はそれなしでは想像出来ないような組み合わせの可能性を生み出し、1つずつ評価することでデザイナーの仕事を助成する。
数千もの特許を分析し理論化したゲンリッヒオルトシュラーによると革新のレベルは以下の5段階に分類出来る。
- 人工物の単純な改良
- 技術的な矛盾を解消する革新
- 物理的な矛盾を解消する革新
- 新たな地平を開く画期的な技術を実用化する革新(例: 真空管 → トランジスターの変化によって軽量化と信頼性の向上)
- 既存の技術をより高度なレベルに推し進める構造的な新しい事象の想像(例: ENIAC、最初の動作するコンピュータ)
オルトシュラーと共同研究者は技術開発の40の方法を明らかにした。これらのほとんどは組み合わせ論が元になる。
- より軽量に、小さく、速くする…
- 機能追加で機能性を拡張する(鉛筆に消しゴムをつける)
- 技術の融合によって新しい人工物にする(いろいろできる携帯端末)
- 人工物の構造を唯一の状況に適合させるのではなく多様な状況に適応可能にする
- 反復運動を連続プロセスにする
- ユーザーがやりたがらないことを自働化し、適切な機能の背後に隠す
組合せ論、リフレーミング、ブレーンストーミングは技術に関するステークホルダーの声を聞くための場作りに利用される。これらが一時的理解の限界(人工物の技術的な問題を解決することに限定される)というのは手法の構造的欠陥によるものでなくエンジニアにとって魅力的な数理的な由来による。
ステークホルダーの考えと自発性を調査する方法
デザインがうまくいくためには必要な資源を得て、必要な社会的支援を集めなければいけない。この二次的理解の幾つかのレベルから得られるものがある。
- ステークホルダーが望む、技術が導くと信じてる未来を(または避けたい未来を)理解する
- ユーザーが人工物に接する際に抱える考えや意味、慣れてることや自信を理解する
- 人工物のインターフェースがどのように進化するか、ユーザーが学び、想像し、集団の慣行に埋め込もうとするのはなにか抵抗するのはなにかを理解する
<理想的な未来についてのナラティブ>
小説家や空想家の言葉に登場したアイデアは創造可能な未来を創りだした。こうした未来に生きることを理解できる人は子暑い興味を生み出すことができ、これらの未来を実現できる。これはこうした未来へ導く人工物をしようすることで始まる。
<サーベイおよび体系的なインタビュー>
サーベイや体系的なインタビューはステークホルダーの考えを洞察するに最も不向きな方法である。調査は常に調査研究者の考えを具体化したものであり、被験者は選択肢の中から合致する場合のみ調査に影響力を持つ。また被験者は調査者が聞きたいことを予測してこたえる傾向があるといった別の偏りも生む。
<体系的でないインタビュー>
型にはまったインタビュアーによる押し付けを避けようとする方法。インタビュアーは的を絞りながら被験者を自然な会話へ引き込んでいく。予想外の回答を受け入れる余地を残しながらインタビュアーの目指す会話へ向かう。人々が人工物に抱いている問題に関する問題はもっとも有益である。被験者が自分の失敗を曝け出せるようにインタビュアーは信頼を得なければならない。
<フォーカスグループ>
フォーカスグループは市場調査において製品開発者が彼ら自身や彼らの競合製品だどう理解されているかを理解するために行う。8〜10人のステークホルダーを招き進行役が(体系的でない)議論を誘導する。こうした2,3時間の議論を録音を聞いたりマジックミラーごしに観察することで内容を分析する。
<観察手法>
サーベイやインタビューと違い言語操作をメインにおかない。観察者はさまざまな方法で観察を行う。(紙と鉛筆、音声やビデオテープ、URL履歴、メールの履歴など。)デザイナーは無意識の習慣や言葉で表現できない行動、行動における概念モデルなどへの洞察を得られる。
例: コンピュータ導入の仕事場をビデオカメラで観察することによって予期せぬ洞察を得た。
<プロトコル分析>
実験中に被験者は言葉に出して考えるよう強いられる。これ発話データを取得することでユーザーが理解し考えた発話内容と分析者が観察した相互関係の記録を得られ、これはユーザーの操作の意味を把握できる。しかし行動について詳細に語ることは必ずしも容易でなく、時に動作に支障をきたす。
<エスノグラフィー>
エスノグラフィーの実地調査者は調査地で長い時間を過ごし、そこで観察する人々との関わりは協働的であり、彼ら同士の中で発展した関係に依存する。民族誌学者の重要な責務はその環境に居住する人々の視点から人々や彼らの人工物、文化的慣行、環境を説明することであり、それは二次的理解を提供する。エスノグラフィーがデザインに出来る最大の貢献は既存の文化的関連事項についての記述を超えること、人々が進んで放棄するもの、新しさの機会がどこに存在するか、克服すべき抵抗はなにかなどを調査することである。
<手法の三角測量>
手法を組み合わせることで効率的に洞察へアクセスする。
一つの方法ではデザイナーがステークホルダーについて知りたいことすべてを把握することは出来ない。
例: 助産士と妊産婦とのやりとりをテープに記録し、このテープを調査主導者が分析するのではなく、助産士にテープについて解説してもらった。
<デザインプロセスへのステークホルダーの参加>
- 同時進行の市場調査
- 企業内のユーザビリティ研究所
- 外部のコンサルタント
- ユーザー支援デザイングループ