ブルネレスキ、空間の等質・反転的な展開性
Inverting Homogeneity in Brunelleschi’s L'Ospedale degli Innocenti
オスペダーレ・デッリ・インノチェンティ(捨子養育院)。教科書に必ず載っている、よく知られているのはこんなファサードの写真(↓)。
しかし岡崎乾二郎『ルネサンス:経験の条件』(今年、研究室のサブゼミで再読)では、アルベルティ的な視点場を定めた固定的な遠近法的統合ではなく、等方・等質に世界に浸透し、あるいは内外に反転的に展開しつづけるようなブルネレスキの透明な空間把握の異質性が強調されている。
言うまでもなくコロネードの存在が重要だ。列柱・半円アーチ・エンタブラチャー、上部壁面とそこに穿たれた開口 ── これらが構成する面の背後に控えるヴォールトの反復。こういった構成が、ブルネレスキの教会では身廊・側廊をつくり、オスペダーレでは広場に面したファサードにも、中庭のまわりにも、同様にあらわれる。
その性質は周囲の建物にも波及し、それぞれの建物の中庭にも現れる。内から外へ、外から内へと転写的に反復されていく。
そしてこの(↓)連続平面図! ちょっと怖い。ブルネレスキ的空間がフィレンツェに浸透していく── 。
写真(↑)右上は Basilica della Santissima Annunziata という教会で、ミケロッツォ Michelozzo di Bartolomeo Michelozziの設計。ブルネレスキの20才くらい後輩。
さて、(どの建物でもよいが)軽快な正円アーチのコロネードは、ピアッツァ(広場)では奥行きの浅いギャラリー状の独立建物を付加することによって、またコルテ(中庭)では下屋を付加することによって、つくられている。下の写真は、オスペダーレの南ブロックの細長い中庭廻廊で、やはり下屋。
同様に見るならば、サン・ロレンツオ San Lorenzo やサント・スピリト Santo Spirito の側廊は、身廊の細長く背の高いボックスに差し掛けた下屋である(当たり前だけど)。
ブルネレスキにおいて、教会の堂内は中庭の反転的な室内化であり、中庭は教会の反転的な屋外化なのである。