2023年をふりかえる。

色々な意味で節目の年でした。

青井個人の色々を振り返って記録しておきます。2024年度も皆様どうぞよろしくお願いいたします。

【1月】ひさしぶりの単著『ヨコとタテの建築論:モダンヒューマンとしての私たちと建築をめぐる10講』(慶應義塾大学出版会,2023年1月)刊行。前年末の、小川重雄(写真)『沖縄と琉球の建築|Timeless Landscapes 3』(青井哲人=解説、遠藤慧=イラスト,millegraph,2022年11月)や『地域文脈デザイン ──まちの過去・現在・未来をつなぐ思考と方法』日本建築学会編,青井哲人・中島直人・篠沢健太ほか著,鹿島出版会,2022年11月)と、3月に刊行された下記の本をあわせると、長いものでは10年ほど前に始めたプロジェクトがたまたま集中してかたちになった。収穫の時期、という感じ。逆にいえば長いこと便秘みたいな状態が続いていたわけで、身体が軽くなる。

【2月】ウクライナの戦争がまる1年になる。この頃、HBH(生環境構築史)webzine では藤原辰史さん中心に軍事特集の制作中だった。戦争・軍事の本を漁りつつ、沖縄取材の準備を進めた。/台湾映画《流麻溝十五號》(英語タイトル=Untold Herstory/曹欽榮=原作/姚文智=制作指揮/周美玲=監督)の日本語字幕を妻とともに作成。緑島(戦前までは火焼島)の政治犯収容所「新生訓導処」を舞台とする、女性服役囚たちの物語。国民党政権による「白色テロ」が映画の題材にできる時代になった。今回はデモ版だが、映画字幕作成の経験はこれで3作目。パンフレット翻訳など派生的な仕事も色々ある。翌3月に微修正のうえ引き渡し、4月に日本での特別公開の運びとなった。

【3月】戦後空間研究会編『戦後空間史 ── 都市・建築・人間』(筑摩選書,筑摩書房,2023年3月)刊行。5年前から続けてきた戦後空間研究会(青井哲人・市川紘司・内田祥士・中島直人・中谷礼仁・日埜直彦・松田法子)の活動成果がついにまとまる。青井は「第1章 民衆・伝統・運動体―冷戦と復興、文学と建築、リアリズムとモダニズム」および「終章 引き裂かれる戦後空間」を担当。/3月2日〜7日、沖縄取材。太平洋戦争の最終局面のひとつ、いわゆる沖縄戦の「生環境」を訪ね歩き、かつそれにかかわる聞き取りと記録の運動を続けてこられた吉浜忍先生、それら運動の意味を今日的に捉え返しておられる秋山道宏先生にお目にかかり、お話をうかがった。/3月11日〜21日、約3年半ぶりの台湾旅行。東海大学など各地の友人たちに会う旅。彰化市で講演会をしたところサインを求める行列ができて驚く。彰化市内には『彰化一九〇六』の読書サークルができているのだという。みんな中文版同書を手にしているが、ある学生さんはコピーを綴じてつくった書き込みだらけの冊子にサインをと申し出た。おいっ!とツッコミを入れつつジンと来た。

【4月】勤務先・明治大学理工学部の執行部(明大では学部スタッフと呼ぶ)のしごとが始まる。信じられない数と時間の会議。/jia jia house(ジャジャハウス/加加好肆)竣工。設計は、藤田雄介+伊藤茉莉子+寺澤宏亮/Camp Design 青井哲人+青井亭菲。4月22日から住み始め、24–25日に引っ越し。段ボール箱は約400個。GW中に350個まで荷解きをして一気にひとをお迎えできるところまでこぎつけた。

【6月】jia jia house に同居のふたりが引っ越してくる。おとな6人拡張家族の実験的生活がはじまる。共同生活規約(憲法みたいなもの)を書面で取り交わす。そうそう、ネコもひとり加わった(規約にサインはしていないけど笑)。jia は「加」の中国語読み。あれから年末まで7ヶ月たったが、ほんとに驚くほど多くの人たちがこの共同生活に関わりをもってくださるようになった。従来的な夫婦+子供の標準家族が、子育て期間の終了とともに消滅する短期的で一代かぎりのものであることは誰もが承知しているのに、それを単位とする住宅がつくられ続けている。拡張家族は流動的・横断的であることによって持続する。動的な連続、というと抽象的だが、僕は様々なフィールドでの調査研究を通じて、いつもそういう視点を大事にしてきた。気づいたら家もそんな感じのものになっている。/6月10日、HBH(生環境構築史)webzine 6号 特集「戦時下の生環境:クリティカルな生存の場所」を刊行(特集担当=藤原辰史+青井哲人)。戦時下もなお人は生きる。その環境は、ある意味では平時の生環境を極限まで失いながら生き延びるヴェクトルと、また他方では軍事的目的のためにつくられた技術が平時に民生化されて日常の生環境をつくっていくヴェクトルがあって、要するに軍事を考えることは生環境をクリティカルな視点から捉え直すことにつながるはずだというのが編集の意図であった。

【7月】jia jia house が『新建築住宅特集』(新建築社、2023年7月号)掲載。感慨深い。同僚の門脇耕三さんが、抜き刷り頼めるよと教えてくれ、思わず注文(笑)。

【8月】8月10〜25日、じつに4年ぶりとなる学生を伴っての台湾調査。学生が合流する前にあちこち訪ねて講演など。台中の蘇睿弼先生のまちづくり拠点では、依頼されて jia jia house について話した。家族論は、文化圏が違うとうまく伝わらないので今後は工夫が必要。/調査は宜蘭。蘭陽博物館学芸員の蘇美如先生に、蘭陽平原に展開する散村について基礎的なところを教えていただき、翌日蘭陽博物館の充実した展示に学ばせていただく。調査中日にはフィールドオフィスアーキテクツ(田中央聯合建築師事務所)スタッフの田熊隆樹さんに宜蘭の作品群を案内いただく。黃聲遠さんにもお会いして事務所の内部と進行中のプロジェクト群について惜しみない説明をいただいて感激。フィールドオフィスはそれ自体拡張家族的であった。/『新建築住宅特集』8月号の月評で、前月号の jia jia house が話題に。とくに北山恒さんが jia jia house をみて「興奮」と書いておられ驚く。

【9月】先月中国語版の拙著『彰化一九〇六:一座城市被烙傷,而後自體再生的故事』(張亭菲訳,台湾・大家出版,2013年10月)の第3刷が決定していたのだが、なんと三刷決定は、彰化市内の本屋「南方書店」さんが、同店1軒で300冊を引き受けると版元と約束して実現したものという。それで同書店のFBを見ていたら、ごく短期間に300どころか500冊ほどを受注し、手際よく配送作業をこなす様子が連日紹介されていた。著者としてこんなに嬉しいことはないのだけど、それにしても信じがたい現象が起きている。/8月末から9月前半はほぼ毎日のように誰がjia jia houseを訪ねてきた。印象深いのは西田司さんが残していかれた言葉だが、ここには書かずに温めておく。/門脇研有志学生による勝手に月評ゼミ@jia jia houseなんてのもあった。門脇さんはトッド流家族類型の議論と、「暗がりの建築」という視点を提示してくださった。あと学生さんたちが同じ7月号に掲載されている他の作品と比べていただいたことで、僕自身 jia jia house の理解が少しクリアになった。あれから3ヶ月後に、ふと政治学的な空間論がひとつの必要(有効)な視点になると考えはじめている。

【10月】次第に jia jia houseの地域コラボが動きはじめる。

【12月】『新建築住宅特集』月評最終回(年間総評)で、北山恒さんが jia jia house を「未来を指し示す羅針盤」と評す。/jia jia house では12月18日、子育て支援に取り組むSpaceLanaの皆さんとテストイベント開催にこぎつける(SpaceLana@jia jia house)。まだまだ広がるよ。

2024年もボチボチ頑張ります。

jia jia house 内部
jia jia house 正面(夜)

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青井 哲人 AOI, Akihito
VESTIGIAL TAILS/TALES: aoi's journal

あおい・あきひと/建築史・建築論。明治大学教授。単著『彰化一九〇六』『植民地神社と帝国日本』。共編著『津波のあいだ、生きられた村』『明治神宮以前・以後』『福島アトラス』『近代日本の空間編成史』『モダニスト再考』『シェアの思想』『SD 2013』『世界住居誌』『アジア都市建築史』ほか