立ち漕ぎできたよ!
Sちゃんは年中さん。
3月生まれもあって身体も小さく、舌足らずなおしゃべりが可愛らしい男の子。シャイな性格だけど芯はしっかり持っています。
ひとりでブランコに乗れるんだけど、揺れるのが怖くて立つことができません。本人も立ちたいんだけど立てず、乗ろうとするとブランコで正座してしまいます。
こんな時はいくらワイワイ言葉で「立って」と言っても、乗り方がわからないのでできません。
本人に少しでも「やりたい」と言う気持ちが見えたので、
ちょっと乱暴な教え方をしました。
「いっしょに立って乗ろう!」
「え〜、こわいからやだ」
「大丈夫だよ、しっかり捕まえててあげるから。」
そう言ってまずしっかり支えながらSちゃんを立たせて、後から私も立って乗りながら小さな彼を膝でしっかり挟んで乗り込みました。
ゆっくり漕ぎ出すと「こわい〜」と固まり状態。
様子をみながらそれでも続けていると、次第に大丈夫なことが分かってきたのかちょっと余裕が出て来ました。
横で心配そうに見ていたママでしたが、Sちゃんが大丈夫な様子を見て
「そうやったらいいんだ〜」
そう呟くと、
「すごい!立ってのれてるじゃん」
そう言ってブランコを押してくれ始めました。
Sちゃんもちょっと満足そうに立って揺られていました。
身体で覚える、体感する、立って漕ぐことを私の身体を使って伝えることで、大丈夫だと感じることが出来たようです。
しばらく揺られていましたが、さすがに緊張からか「つかれた〜」と言って降りました。
その後どんぐり公園にどんぐり拾いに行きました。
山のようにどんぐりを拾って満足な気持ちで帰ってくると、またぶらんこの横を通りました。
すると、すーっと何気なく自分からひとりでぶらんこに立って乗ったのです。そして膝を曲げたり伸ばしたりして少しずつ揺らしていました。
「わー!ひとりで立ち漕ぎできたやん!やったね!」
ママに喜んでもらって、とても満足そうなSちゃんの笑顔。
その昔、私たちは大人からではなく、ちょっと年上の友達から遊びの中でいろんなことを教わりました。
いっしょに遊びながらきっと、ブランコも棒登りもジャングルジムもゴム縄飛びも、教えてもらったり手伝ってもらったり、近くで見ながらマネしたり。
砂場で力を合わせて大きな砂山を作り、バケツで水を運んできて川を流し、泥だらけになって傑作を作りました。
今は公園の砂場に水を持ってくるのは汚れるから禁止だそうです。
けんかもたくさんしましたが、けんかしながらルールもコミュニケーションも身につけてこれたのだと思います。
その遊びの伝承には欠かせない大切な子ども同士のコミュニティが、自由に遊べる遊び場がなくなったり、子どもだけで遊ぶのが危険だということでできにくくなり、ブランコひとつ乗ることに苦労する時代です。
以前、生徒さんの保育園の運動会について相談されたことがありました。年長さんの出し物に棒登りがあるのだけどうちの子出来ないんです、困り顏のママさん。
保育園や公園に棒登りできるところはないの?と聞くと、全くないのだそうです。ママは途方に暮れていました。
学校の校庭や幼稚園に当たり前にあった遊具がなくなり、練習することも出来ないのに、運動会の出し物は以前からのプログラムを遂行する園側の認識の無さにも驚きました。
できないのではなく、体験する機会がないのではと考え、なんとか棒登りの体験をさせてやりたいと思いました。
ホームセンターで物干し竿を購入して狭い教室に設置しました。
そして棒登りの体験です。
はじめは手足の使い方がわからない子どもたちでしたが、棒があれば登りたい、が当たり前の子どもの心理、あっと言う間にみんな登れるようになりました。
そんな経験もあり、環境さえあれば子どもは当たり前にチャレンジするのは分かっていました。だから新しい教室には子ども達が身体を勝手に使う工夫をしたかったのです。それが今のスペースにつながりました。
子ども達は来るたびに壁登りにチャレンジします。
失敗しても、今すぐ出来ないとわかっていても、何度も何度も、壁に飛びついてチャレンジします。そしてある時出来るようになるのです。
それは小さな小さな体験のひとつでしかありません。
でもそれが子ども達には大事なんです。そしてそれが未来を担う子ども達の心と身体の成長に、とても大きく影響していくのです。
『小さな入り口』
そんな場所が街のあちこちに出来ることが私の夢です。