インドにおける精神病患者への人権侵害について、双極性障害を患う日本人が考える。

Photo: undefined by Giulia Mulè

私はインドとインド人を愛しています。

短期ではありますがインドに滞在した経験があり、インドの良いところを多く知る私には、わざわざ負の一面を大きくクローズアップすべきではないことはよく分かっています。しかし他国の実態を知ることは、日本で暮らす精神疾患の当事者が、より広い視野で物事を捉えるのに有益なのではないかと思い、あえて書いてみることにしました。


動物以下の扱い

これは1年くらい前に読んだ記事です。

Women With Disabilities Locked Away and Abused
 (障害を持つ女性は閉じ込められそして虐待される)

ご存知の方もいるかも知れませんが、この記事は2014年12月にヒューマン・ライツ・ウォッチ(HRW)という人権団体がインドにおける精神・知的障害のある女性への人権侵害の状況報告書をまとめたものです。

動物よりもさらにひどい扱いという名の報告書(160ページ)

この報告書ではインドの国立施設や精神科病院に強制入院させられた女性達が、ひどく不衛生な環境下において虐待の被害にあっている様子が生々しく綴られています。


驚くべき実態

この報告書には、驚くべき実態が書かれていました。

院内の衛生状態は劣悪で、ある施設では定員300人収容出来る所に3倍の900人が生活しています。ベッドが足りず床の上で寝ている人も多くいます。

他の病院では 1850人の患者に対し不衛生だけれどまともに使用出来るトイレはたったの25個、屋外での排泄が当たり前の状態だそうです。

多くの患者の頭にはシラミがわき、剃毛を余儀なくされています。入浴は週に2回、洗髪は2週間に1度、石けんが使用出来るのは週に1回という所もあります。インドの気候を考えると、決して十分とはいえません。

歯磨きは指に粉をつけて行い、タオルは一人一人には与えられていません。数十人に1枚というところもあります。

日に1度、大量の薬を飲まされ、拒否すれば看護師らによって無理矢理口の中に押し込まれます。また紅茶やバナナの中に混入させられることもあるそうです。

男性職員に暴行され妊娠させられる女性もいます。暴力を与える職員もいます。 患者の同意なしにETCの罰を与えられることもあります。

薬を服用しなければETCの部屋に連れて行くと脅す看護師もいるということです。


自主的入院はほぼ皆無

Photo: undefined by Vinoth Chandar

ほとんどの女性が強制入院で、自主的に入院した女性はほぼ皆無だったそうです。

意思に反した入所や施設内での人権侵害をめぐり、救済措置を無事利用できたという女性は一人もいません。調査に応じた人の大半が、救済措置の存在さえ知らなかったといいます。

ある女性のインタビューでは夫が女性と離婚したいが為に、女性を騙して精神病院に強制入院させました。予防接種と偽った職員に鎮静剤を打たれ、気付くと有刺鉄線の張られた窓のある部屋に閉じ込められていました。

その後母親に見つけ出されてそこを抜け出すまで7年の間、無理矢理ETCの治療と言う名の虐待を受け続けて来たのだそうです。本人がそれがETCであることを知ったのはずいぶん後のことだったといいます。


2011年の国勢調査では、統合失調症や双極性障害といった心理社会的障害者はわずか72万2,826人(総人口の0.05%)であったとされていますが、インドの保健家族福祉省は実際にはインド総人口の6〜7%(7,420万〜8,650万人)が「精神障害」を、そして1〜2%(1,240万〜2,470万人)が「深刻な精神障害」を患っていると主張しています。

WHOの統計によるとインドには3500人の精神科医がいます。これはインドの総人口に対し34万3000人に1人の計算になります。34万人に1人って。。。


アグラにあるマザーテレサハウス

こちらの記事は日本人女性が北インドのアグラという町の孤児院と精神科病院を訪れた時の感想です。インドとも精神科とも関係の薄い人が初めてこんな現実を見たら、誰でも同じような衝撃を受けると思います。

写真で見る限り、マザーテレサの孤児院は先ほどのインドの精神病院や施設に比べれば、衛生状態はずっと良さそうです。

虐待はあるのかどうかは内部のことなのでちょっと分かりませんが、たとえもしあったとしてもETCまではさすがに受けてはいないと思います。マザーテレサの施設ではそんなことは決してないと信じています。


皆の心の健康を皆の力で届けよう

そして最後はTEDよりインドの精神科医Vikram Patel(ヴィクラム・パテル)氏による「皆の心の健康を皆の力で届けよう」というプレゼンテーションです。

Vikram Patel: ヴィクラム・パテル:皆の心の健康を皆の力で届けよう

Vikram Patel氏によりますと、国で健康な人と精神疾患のある者の寿命の差は20年あるとのことです。途上国ではさらに大きく差が出るとも言われています。

ただ差を広げる大きな死因の1位は「自殺」です。これはどの国も同じなのだそうです。

WHOでは地球の人口の約4~5億人が何らかの精神疾患で苦しんでいると推定しています。その中の大半は十分な治療を受けてはいないそうです。

ヨーロッパのように医療資源が整った諸国でさえ、苦しんでいる人々のおよそ50パーセントが治療を受けられていません。 私が関わっている国々では、いわゆる「医療の需給ギャップ」はなんと90パーセントにも及びます。 ですから精神障害者に話を聞くと、彼らが生涯抱える心の苦しみや恥、差別などについて耳にすることになります。 しかしなによりも悲痛なのは、最も基本的な人権の侵害が日々起こっているということでしょう。
ー Vikram Patel

インドでは医師不足により、先進国と同じ高度なメンタルヘルスケアを供給出来ないことに彼はいち早く気付き、専門家が不足している医療分野があれば、その地域の人材を訓練して医療介入を行うという「タスクシフティング」を実現させてきました。

ある地域では訓練を受けた村人が精神療法を行えるようになったり、母体管理担当の保健師が「認知療法」を行い産後うつを改善させたり等々、地域の人材を掘り起こしそして教育し、低コストなヘルスケアを提供出来る人材を育てることで人材不足を改善させて来ました。

そうすることによって、人手の少ない精神病院で行われている人権侵害などの不正を改善し、精神疾患を持つ人々の生活を変えていくことに大きく役立つことが出来たのです。


筆者の感想

Photo: undefined by Ashok Saravanan .Ay

以上、校長先生の話みたいに少し長いですが、かいつまんで書きました。

HRWはインドについてだけの人権団体ではありませんので、もちろん日本の人権問題にも触れています。

差別はインドだけではなく世界中にあるので、この記事だけを大きく捉えてインドを非難することは決してしてはならないことです。

それは私達が精神疾患への差別はなくそうと言っておきながら、インドという国を差別しているのと同じことなのですから。

最後にインドの精神科医Vikram Patel氏が行っている、地域ぐるみでメンタルスヘルスケアを行っていくというシステム作りが、人権侵害の改善にもつながっているという話に、皆さんもほっとされたのではないかと思います。

皆さんの中には、絶えず偏見に悩み、軽く扱われることに不満を抱えている人もいると思います。

しかしもし生まれた国が先進国ではなかったら、今頃人権がどうとかいう話どころか、身の危険にさらされる日々を送っていたかも知れません。

だからと言って「日本に生まれてラッキー」とか「インドに生れてなくて良かった」という単純な解釈で終わって欲しくはありません。

私達は生まれた場所が違うというだけの同じ病気を抱えた者同士なのですから。

マルガリータで乾杯を

最後に、これはインドではタブー視されている障害者を描いた作品で、原題が「Margarita, with a Straw」と言います。

主人公はマルガリータをそのままでは自分で飲むことが出来ません。けれどストローを使えば皆と一緒にお酒だって楽しむことが出来ます。

障害があってもほんの少しの工夫をすることで、皆と一緒に人生を楽しめるという意味が原題に込められています。

昨年秋に日本でも上映され今年5月にはDVDが発売される予定です。主役のカルキ・ケクラン演じるライラがとっても可愛いので、興味のある方はぜひご覧ください。

マルガリータで乾杯を! [DVD]

Originally published at bipolar-disorder.blog.jp.

ブログ「双極性障害のコトいろいろ」

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