Facebook Libra (フェイスブックのリブラ):金融業界に迫り来る変化

Benjamin Tsai
Aug 1, 2019 · 11 min read
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Original article in English: https://medium.com/wave-financial/the-great-wave-off-kanagawa-is-a-famous-woodblock-print-by-hokusai-from-early-1800s-44a4c81fb329

「神奈川沖浪裏」は、葛飾北斎が1830年代前半に制作した有名な木版画です。私はオリジナルの摺絵を持っていて、これをオフィスに飾っています。アセットマネジメントを提供する弊社Wave Financialの非公式ロゴのような存在です。この絵が何を表現しているかについては、いくつもの解釈がありますが、そのひとつが迫り来る変化です。ブロックチェーンや仮想通貨(暗号資産)の到来で金融業界に起こりつつある状況と重なります。

最近、フェイスブックの仮想通貨「リブラ(Libra)」、および管理団体のリブラ協会について取材を受け、複数のメディアからコメントを求められました。その記事とインタビューの映像は、ページ下のリンクからご覧いただけます。ブロックチェーンや暗号資産が衆目を集めているという事実は、喜ばしいことです。最終的にどんな結果になるにせよ、公に議論されることは好ましいことです。ただし、記事や放送で引用された私のコメントは、いずれも深く踏み込んだコメントではありません。そこで、このプロジェクトに関する私の考えを共有したいと思いました。

1. リブラは、サークル社のUSDC、ジェミニ社のGUSD、パクソス社のPAXといった他のトークンと同じ規制環境で導入できると、私は考えています。これらは、規制当局の監督下にある事業体が発行するステーブル・コインで、フィアット(法定通貨)との交換に際してマネーロンダリング防止および顧客確認(AML/KYC)のコンプライアンスが完全に保たれています。もちろん、これは、リブラ協会が何らかの事業免許を取得するか、または事業免許を有するパートナーを持つものと仮定したうえでの話です。米国だけでなくグローバルな標準になるのであれば、1つではなく4つの通貨にペッグするのが得策でしょう。これは一般にETFや有価証券ではありません。銀行規則の下で通貨と見なすことができるためです(証券取引規制の免除を伴います)。ステーブル・コインの構造上、配当を出すのは困難でしょう。AML/KYCの新たな確認が、すべての支払いに必要となるためです(私は法律家ではありません。ここに記載したのは、世界各地の法律の専門家と数時間にわたって話したうえでの私なりの解釈です)。

2. 「リブラ・インベストメント・トークン(Libra Investment Token)」は有価証券で、米国証券取引委員会(SEC)の規則が適用出来るはずです。レギュレーションDおよびSの下で少数の投資家に対して発行されるため、まったく問題はないでしょう。この構造では、保有者が常にトラッキングされるため(資本構成表に記載されます)、配当も普通に出すことができます。

3. キャッシュフローについての私の予想は次のとおりです。一般の人々は、フィアットでリブラを購入します。リブラ協会は、4通貨のフィアットを保有し、それに対して何らかの金利を計上します(ウェイトは発表されていませんが、年平均1%といったところでしょうか)。これは、リブラ協会の収益です。最初に支払われるのは、リブラ協会の経費で、要は人件費やオフィス賃料などです。次に、ノード・バリデータ(リブラ・ブロックチェーンを運営するノード)に何らかの報酬が支払われるでしょう。これには、ノードを運営するパートナーすべてが含まれます。これは、ノード・バリデータのコストを補填し、ネットワークやハードウェアの運営継続に導因を与えるものです。どのような金額になるかは、現時点では明らかではありません。最後に、残りを配当としてLibra Investment Token保有者に支払うことができます。保有者というのは、最低1千万ドルを払って、Libra Investment Tokenを購入した投資家です。

4. ガバナンスという点では、リブラ協会の加入メンバーがどこかの時点で100人を超え、その一部は有料メンバーかつLibra Investment Token保有者となるでしょう。非営利団体が加入する場合は、Libra Investment Tokenは購入せず、ただし議決権を持つはずです。すべてのメンバーが同じ割合で議決権を持つものと、私は推測しています。フェイスブックは、リブラ協会の設立後は1%以上の議決権を行使しないと約束しています。

5. フェイスブックは、カリブラ(Calibra)という子会社も設立しました。この子会社の提供するリブラ・ウォレットは、フェイスブック、インスタグラム、ワッツアップほか、フェイスブック傘下のプラットフォームで使用できます。傘下のプラットフォームが受け付けるのはカリブラのみで、他社のウォレットは取り扱わないと説明していますが、これは妥当と言えるでしょう。

6. ミクロなレベルでは、行政が監督すべき最大の点は、カリブラがリブラへのアクセスとその管理において優遇されないよう確認することだと思います(前記の5点目とは反対の方向です。カリブラだけでなく他社すべてが平等にリブラにアクセスできるべきです。一方、私企業であるフェイスブックが自社のプラットフォームで受け付けるウォレットを制限することは認められるべきです)。優遇が行われないかぎり、フェイスブックは、リブラを使いたいと思う人全員と公正に競争していて、かつ利用者が多いことから来るメリットを維持できることになります。この種の制約は、通貨を立ち上げたいと考える事業体(JPモルガン、アマゾン、アップルなど)すべてに適用されるべきです。この「優遇なし」が具体的に何を意味するかは、今後定義されなければなりませんが、その際に重要なのが、導入後に意外な現実が見えてきた場合にも対応できる余地を十分に残しておくことです。

7. マクロなレベルでは、政府の経済統制力に影響しかねない通貨の創設を政府が認めるべきかどうかに関する根本的・哲学的な議論があります。リブラが広く使われるようになったならば、その通貨バスケットに含まれていない国はすべて、自国の経済に対する統制力を弱めたり制限されたりする可能性があります。これは、米ドルの使用を政府が禁止しているにもかかわらず国内で米ドルがデフォルトの通貨になっている一部の新興市場の問題に似ています。

8. この7点目の延長線上にあるのが、政教分離ならぬ「政経分離」の状況を作り出す可能性です。つまり、国家が経済政策の策定を担うわけではなくなるかもしれません。政教分離は米国や日本では馴染みのある概念ですが、世界の他の部分では必ずしもそうではありません。リブラ・コイン(や他の国際企業の通貨)によって政経分離が生じ、経済政策が政治ではなく経済によって決定されるようになるかもしれません。もちろん、国家が歳入と歳出の権限を放棄するとは思っていませんが、政府の打ち出す方向性や介入には依存しない、より独立した金融システムの可能性をもたらします。これがどのような影響を及ぼすかについては、さらなる考察と分析、そして議論が必要でしょう。とはいえ、私が指摘しておきたいのは、国際的な企業の通貨によってその可能性が作られるということです(ちなみに、フェイスブックCEOのマーク・ザッカーバーグ氏は、自社の議決権の60%を握っていて、さらに10%を他の社内関係者が保有しています。このことは、「独立した」金融システムという議論をやや難しくするかもしれません)。

9. 最後に、リブラがフェイスブックから発行されるという事実が、上記の議論を複雑化するさらなる負担となっています。ただし、米国議会で最近開かれたリブラに関する公聴会では、暗号通貨全般の現実をとらえる向きもありました。2019年7月17日の公聴会(2日目)でパトリック・マッケンリー下院議員が述べた冒頭陳述の引用をご紹介します。

「変化はすでに訪れています。デジタル通貨は存在します。ブロックチェーンは現実です。この新世界にフェイスブックが参入したことは、規模が異なるとはいえ、もうひとつの証拠にすぎません。サトシ・ナカモトがビットコインの論文で想起し、他の人たちが構築しつつある世界は、止めようのない力です。私たちは、このイノベーションを妨げようとすべきではありません。政府は、このイノベーションを止めることはできません。それを試みた人たちは、すでに失敗してきました。」

10. 他社もそれぞれのバージョンの通貨を導入していくでしょう。JPモルガンは、フェイスブックよりも前にコインを発行すると発表していましたが、議会から反対は出ていません。日本ではMUFGと三井住友が、いずれも日本円のコイン発行について語っています。アマゾンは、AWSでブロックチェーンをサポートしているのですから、独自の何かを投入したとしても驚きではありません。グーグル、アップル、そして他の国際企業も、こぞって参入を希望するでしょう。

これらが、現時点での私の見方です。今後12~24か月の間にどのように展開していくのか、非常に楽しみです。結果がどうなるにせよ、迫り来る変化であることは明らかです。

お断り:

この記事は、Wave Financialのオーディエンスを対象に、暗号資産業界の最新事情について情報提供することを目的としています。この記事に含まれるいかなる情報も、証券や他の金融商品の提供、もしくはそれらの売買や保有の勧告と解釈されるべきではありません。Wave Financial LLCは、投資アドバイザーとして米国カリフォルニア州で登録されています。州当局への登録は、一定水準のスキルやトレーニングを示唆するものではありません。Wave Financial LLCに関する重要な開示事項をはじめとする付加的な情報は、米国証券取引委員会(SEC)のウェブサイト(www.adviserinfo.sec.gov)をご覧ください。また、Wave Financialについての詳細は、弊社ウェブサイト(www.wavegp.com)でご覧いただけます。

ベンジャミン・サイは、Wave Financialの社長兼マネージング・パートナーです。ここで説明された見解は、企業、プラットフォーム、発行体、証券および非証券投資(以下、総称して「投資」)に関するサイの個人的な見解であって、Wave Financialの見解ではありません。サイの論評は、投資の提供、もしくはそれらの売買や保有の勧告と見なされることを意図したものではありません。サイの報酬は、ここに記載された特定の勧告や見解に直接的または間接的に関係しているわけではありません。ここで説明された業界の事情は、一般化されたガイダンスという位置付けのものです。この分析に含まれている情報はいずれも、投資のアドバイスや勧告、もしくは特定の資金・資本リソースへの紹介を意図したものではありません。

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