魅惑のクラシックカー、その文化的価値と投資資産としての可能性(前編)
その趣味性の高さから、多くの人々を虜にしているクラシックカーの世界には、人生を楽しむ大人の遊び心や、文化財への投資など、様々な側面が見て取れます。今回はイタリア・フランス車のスペシャルショップ『コレツィオーネ』代表の成瀬さんとWealthPark研究所の加藤が対談。クラシックカーの楽しみ方、資産としての魅力、その世界へ足を踏み入れるためのアドバイスなどをお聞きしました。
株式会社コレツィオーネ 代表取締役 成瀬健吾:NATS(日本自動車大学校)を卒業し、自動車整備士の国家資格を取得。その後、インポートディーラーにメカニックとして入社。専業店にて営業職を経験し、株式会社コレツィオーネを設立。現在は第24期目となる。日本自動車大学校評価委員。
WealthPark研究所 所長 加藤航介(かとう こうすけ)‐ プレジデント/インベストメント・エバンジェリスト:「すべての人に投資の新しい扉をひらく」ための研究、啓発のための情報発信を行なう。2021年より現職。
“キャブ車好き”が高じてラリーに参加するまでに
加藤:本日はイタリア車・フランス車のスペシャルショップとして有名な『コレツィオーネ』代表の成瀬さんのカーギャラリーをお訪ねして、クラシックカーの魅力とその資産価値というテーマでお話をうかがいたいと思います。
『コレツィオーネ』は来年、創業4半世紀を迎える老舗ショップであり、成瀬さんご自身も自動車整備士の国家資格をお持ちのプロフェッショナルです。私はこれからクラシックカーの世界に足を踏み入れたいと思っており、今日の日を楽しみにしておりました。
成瀬:ありがとうございます。
加藤:クルマは人間に「移動の自由」を与えました。また科学技術の結晶であるだけでなく、様々なデザインが詰まった芸術品であるとも思います。世界最初に生まれた自動車から250年以上が経つようですが、今やクルマと人間の関係は切っても切れないものといえます。
そして、その使用価値こそ新車の時点から落ちていきますが、クラシックカーという文脈においては、逆に資産価値が時間と共に上がっていくという面白い世界でもあります。そんな魅力あふれるクラシックカーの世界に、成瀬さんはどういう経緯で入っていかれたのでしょうか。
成瀬:もともと整備というか、機械いじりが好きだったんですね。中でも昔のクルマに使われていたキャブレター(エンジンの燃料供給装置)が特に好きでした。そこで、まずは自動車整備の道からスタートし、中古車ディーラーで経験を積んだ後に起業し、現在に至るという流れです。
クラシックカーとの出会いは、自動車評論家の徳大寺有恒氏からいただいた言葉がきっかけです。まだ新しいクルマばかり扱っていた頃に、「新しいものを勉強すると同時に古いものも見て勉強したほうがいい」と言われたんですね。ちょうど私の好きなキャブ車(キャブレーターを搭載したクルマ)は古いクルマばかりだったので、興味をそそられながらクラシックカーへの探究がはじまりました。その後、起業から7~8年経って、今度はお客様から「自分でもクルマを持ってイベントに出たほうがいい」と助言をいただきました。幸運にもクラシックカーのイベントに出ていたクルマを譲っていただいたことで、ラリーにも挑戦することになりました。
加藤:メカニックから入って中古車ディーラーへ、そしてご自身でも所有することになったんですね。ラリーを初めて体験されたときの感想はいかがでしたか?
成瀬:今でも忘れられませんが、「すごい世界だな」と感動し、自分自身でも気持ちが高揚しているのがわかりました。クルマっていろんな楽しみ方がありますよね。ピカピカに磨いて飾っておく趣味の人もいれば、くたびれた個体を買ってきて時間をかけて仕上げていくのが好きな人もいます。手に入れるまでの段取りや、そのプロセスそのものが好きな人だっています。そうした多面的な楽しみ方に触れていくうちに、私自身は購入するだけ、飾るだけではなく、やはり走らせることでクルマと対話し、クルマと一緒に楽しい時間を過ごすのが合っているな、と感じるようになりました。
加藤:なるほど、クラシックカーには、飾る楽しみ、直す楽しみ、走る楽しみがあるということなんですね。さらに買うまでのプロセスにおいても、選ぶ楽しみがあるのでしょうね。かつて量産されていた車種も、年月を経て数が減っていく。となると、そのクルマとの出会いを逃したら次は2度とないかもしれない、なんてこともあるわけですね。まるで男女の恋愛のようにロマンチックですね(笑)。
特にイタリア車、フランス車は色も形も個性的でバリエーションも豊富ですから、自分の好みの一台と出会うプロセスの楽しさは、今、お話ししているギャラリーの個性豊かなクルマたちを見ても伝わってきます。さて、そうしたイタリア車やフランス車の魅力について、成瀬さんはどう捉えていますか?
成瀬:イタリア車やフランス車の魅力に惹きつけられたきっかけは、フィアット・パンダというイタリアの大衆車です。整備士から中古車ディーラーの営業職にキャリアチェンジしたタイミングで出会ったのですが、排気量が1000ccにも満たない小型車です。それまでの私は、排気量が大きくて値段も高いものこそが良いクルマという認識でした。ところが、パンダは小排気量で簡素なつくりであるのに、運転していてものすごく楽しい。クルマを操る喜びが詰まっていたんです。
スポーツカーといえばライトウェイトでエンジンがよく回って、よく曲がり、よく止まる、というのが代名詞。それを小型車でも体現できているイタリア車やフランス車の奥深さに驚いたわけです。私の中では、完全に新しい発見でした。
加藤:メカニックにも精通されている成瀬さんだからこそ、「1000ccなのに運転していて楽しい」という気づきはより感慨深いものだったのでしょうね。私も特にイタリア車はフェラーリのイメージが強いからか、大きくてパワーがあって、エンジン音も目立つといったイメージを持っていますが、それは一面に過ぎないのですね。
成瀬:そうですね。小型で簡素なクルマは作りも簡素であると思われがちですが、フィアット・パンダなどの中身を知ると、すごく考えて作り込まれているクルマということがわかるんですよ。細部にこだわりがあって、至るところに手が込んでいるんです。ヨーロッパ車は作り手のアイデンティティが込められている個性の強いクルマが多く、その魅力は語り尽くせません。
加藤:以前、イタリアに旅行したときに現地でクルマを借りて2週間ぐらい旅行していたんですが、その国にあったクルマというものがあるのだ、と感じました。私が滞在していた町は本当に古くて、道幅も狭い。趣のある昔のお城に通じる道の途中に宿があったりしましたが、クルマが小さくないと走れないんですよね。
成瀬:わかります。ドイツならアウトバーンを早く正確に走る必要があるので、剛性や操作性、居住性に特化したクルマづくりになります。イタリアは道に起伏が多いし、フランスも石畳が多いから足回りをきちんとする必要があります。パリなんかもずっと水平に姿勢を保ったまま走れないような道が多いですからね。加藤さんのおっしゃる通り、その国にあわせてクルマづくりは行なわれているんです。
一点ものだからこそ好きなものを手に入れる
加藤:話が世界に広がってきましたね。私が前から思っていたのは、海外旅行が好きなクラシックカーのオーナーさんであれば、クルマに乗ることで日常的に海外とつながっている感覚を味わえるのではないかなと。クルマを起点に、異国へ想いを馳せるといったこともありそうですね。これは、人生を2倍にも3倍にも楽しめている感覚といいますか、とても素敵なことだと思います。成瀬さんにとっても、イタリア車やフランス車、クラシックカーを所有することで人生に訪れた変化はありますか。
成瀬:まず人との出会いが増えましたね。そのクルマを手に入れなければ出会わなかった人、行かなかった場所があり、一台のクルマを通じて人生が広がったと思います。
また、クルマは自分を表現する手段のひとつなんだと考えるようになりました。ですから、器やワイン、ファッションなどと一緒で、好きなもの、気に入ったものを手に入れることも大切にしています。もちろんクルマを単なる物流の道具として見る人もいますし、それぞれの考え方があっていい。ただ、せっかくなら自分の好みの一台を、こだわりを持って選んでほしいなとは思いますね。
加藤:なるほど、クルマを通じて自分を表現することは、人とのコミュニケーションの起点になりますし、新たな出会いにもつながるということですね。
成瀬:そうなんです。たとえば、犬を飼われている方って、よく公園で集まって、犬を遊ばせながら情報交換したり、共感しあったりして、愛犬家同士のコミュニティが自然と生まれますよね。クラシックカーもそれに通じるところがあるんですよ。所有するだけとか運転するだけではなく、愛好家同士で自身や相手の世界を広げるのにクラシックカーは向いていると思います。
加藤:確かに。さらにいうと、公園で犬が集まっていると飼い主はもちろん、犬好きの子どもたちも集まってきたりして、小さくも幸せなコミュニティができますよね。私、その雰囲気がとても好きなんです。クラシックカーとペット犬は同じ種類の楽しみをもたらしてくれているなんて、目から鱗でした。
数回、観衆として見に行きましたが、クラシックカーラリーもよく似ていますかね。置いてあったり走っている美しいクルマを見るだけでも楽しそうだなと興味をそそられるし、集合場所などに自分の知り合いや普段からよく見かける人がいたりすると、新たなつながりが生まれます。
WealthPark研究所では、株や投資信託だけでなく、ワイン・ウイスキーからアート、家具から音楽器まで、様々なものを投資対象としてリサーチしていますが、その中で見えてきたのが、オーナーはそれらの投資に金銭的なメリットだけを求めておらず、むしろ自分の人生をデザインするために投資に参加しているということです。これはイタリア車やフランス車、クラシックカーの世界にも通じるところがあるのではと感じました。
ここでいくつか素朴な疑問を聞いてみたいのですが、よろしいでしょうか。中古車とクラシックカーの違い、法律や年代の基準、車検などの制度はどうなっているのか教えていただけませんか?
成瀬:はい。クラシックカーの定義は国によって異なります。日本でいえば1975年製造までのクルマとされますが、アメリカやイギリスではまた別の定義になります。そして、すべてのクラシックカーは中古車の範疇に収まりますが、製造された年代によってざっくり区分けされているのが一般的ですね。
加藤:なるほど。対談の前に少し調査をして驚いたのは、1940年代、30年代、20年代のクルマもいまだに現役車としてレースにも出ているんですよね。50年代、60年代のクルマならまだわかるのですが、戦前のクルマが元気なのはびっくりです。一方で、あまりに古いクルマを自分が所有するとなると、買ったらすぐに壊れるのではないか、替えの部品はあるのかなど、気になりますね。
成瀬:それで言うと、昔のクルマほど構造も単純で、現在のような複雑な電子デバイスを使っていない純粋な機械ですので、替えのパーツについては、あまり心配しなくてもよいのです。もしパーツがなければゼロから作ったり、他の車種のものを流用したりと、何とでもなります。古い車は整備もしやすく、比較的維持しやすいんですよ。
ただし、現代の道路状況にあわせて走らせるのは大変ですね。昔のクルマと今のクルマでは速度域が違いますから。スピードが出ないクルマもあるので逆に安全なんて話もありますが、やはりいまの交通の流れに乗って公道を走るにはある程度の整備が必要ですね。
加藤:なるほど。昔のクルマがシンプルで整備や維持がしやすいというのは、思ってもいなかった新しい視点でした。そして、手がかかるからこそ、愛着が湧くところもあるのでしょうね。保管については、素人の目線ですが、直射日光が当たらない風通しの良いところで、というオーナーさんが多いのでしょうか。
成瀬:そうですね。基本的にクルマは金属とゴムを使ってできているので酸化は大敵で、高温多湿な環境はあまりよくないですね。実際、野ざらしで保管される方はいらっしゃいませんね。空調がきちんと管理された状態のガレージに置かれているケースがほとんどです。走らせないときは飾っている方もいますし、いつでも整備できるガレージに保管されている方もいて、様々ですが。
数はどんどん減っていき、価値はどんどん上がっていく
加藤:クラシックカーの資産としての面白さは、時間と共に使用価値は落ちるのに、文化価値や市場価値、すなわち価格が上がっていく特性を持つ財であることだと思います。成瀬さんの説明をお聞きして、過去時点の製造者の想いや、それまでのオーナーさんの愛情が込められていること、つまり人から人へ渡り継がれながら価値が上がっていくという姿も理解できました。これはそれだけで素晴らしいことに思います。さて、ここから先の時代において、クラシックカーの価格はどう考えればよいと思われますか。
成瀬:過去、長期的に見るとクラシックカーの価格がずっと上昇してきたのは、ご存じの通りです。この先も同じように確実に上がるという保障はできませんが、時代が進むにつれ、希少性が高くなるという特徴は、過去も未来も変わらないと思います。それぞれのクラシックカーの個体数が増えることはあり得ないですし、着実に少なくなっていく一方です。クルマを走らせていれば事故もおきますし、たとえば水害などの気象状況で個体数は減っていきますので。そうした背景や過去の実績から、自らが乗るとかラリーに出るための購入ではなく、投資対象としてクラシックカーを購入されるケースも非常に多くなってきていると感じます。
加藤:投資対象となるクラシックカーの価格帯としては、数百万円から数千万円が中心になるのでしょうか。
成瀬:そうですね。購入できる価格帯は、皆さんが思っているより広いですし、いまはどの価格帯でも基本的に価格上昇が続いています。ですので、投資に関する感度が高い方が資産として保有されるのはよく分かります。
加藤:私はこれからクラシックカーの世界に足を踏み入れる素人でして、知らないことばかりです。購入時のローン、車検代、税金といったお金周りのことも教えていただけませんか。
成瀬:もちろんです。買われる場合は、一括払いはもちろん、通常の中古車購入と同様にオートローンが使えますよ。頭金なしで120回までローンが組めます。また、最近は銀行でもマイカーローンが組めまして、銀行もクラシックカーを確固たる資産として見ています。昔とは大きく変わりましたね。
車検については、新車であれば新規登録から3年後に初回の車検がきます。そのあとは2年毎ですね。これは普通の中古車もクラシックカーも変わりません。どのクルマでもそうですが、車検に通すために、継続的な整備は必要ですね。
加藤:なるほど。それで言いますと、クラシックカーは毎日のように長距離を乗り回すものでもないわけですから、車検の期間を伸ばすとか、税金、保険の面でも優遇されていいように思います。
成瀬:一応、税制優遇もあるんです。1920年までのクルマは税金が安くなります。ただし相当古いクルマになってしまいますよね。もう少し若いクルマまで優遇枠を広げてもらえると、オーナーさんは助かると思うのですが。
なお、保険についてもヴィンテージカー保険やクラシックカー保険というものが用意されているので、そうしたものを活用されると良いと思います。
加藤:なるほど。知らないことばかりで、とても勉強になります。クラシックカーの世界にチャレンジしてみたいと意欲が湧きました。
(後編へ続く)