ワクワクする社会への投資(前編)

株式会社WAKUWAKU 代表取締役 CEO co-founder 鎌田 友和(かまた ともかず):国内外にグローバル展開する総合不動産企業にて、13年のキャリアの中で通算5,000件以上の不動産取引に関わる不動産のプロフェッショナル。2013年6月に株式会社WAKUWAKUを創業し、「パーソナライズ化された自分らしい豊かな暮らし」の実現のため、産業構造の課題を解決するビジネスモデル「リノベ不動産」を展開。住宅のみならず、くらし・働き方・経営・文化・従来の考え方そのもののリノベーションを目指す。

WealthPark研究所 所長 加藤航介(かとう こうすけ)‐ プレジデント/インベストメント・エバンジェリスト:「すべての人に投資の新しい扉をひらく」ための調査・研究・情報発信を行っている。

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無個性な住まいが当たり前になってしまっている世の中を変容していく

加藤:本日は、中古仲介+リノベーションのワンストップサービス国内シェア№1の「リノベ不動産」プラットフォームを展開し日本の中古マンションのリノベーション業界をリードされているWAKUWAKU社の代表取締役である鎌田さんと、「ワクワクする社会への投資」をテーマに、不動産業界の意義などを考えていきたいと思います。かつて、住宅の絶対数が足りない時代においては「量」の提供が優先課題でしたが、住宅数が十分に満たされた現在、人々が不動産に求めるのは「自分らしさ」などの「質」ですよね。御社は、そのような時代の要請に対応した「中古購入+リノベーション」という事業モデルをいち早く確立させ、全国展開をされています。お客様一人ひとりの暮らしに向き合われるWAKUWAKU社のビジョンについてもお伺いできたらなと思っております。実は、私自身も過去に都内のマンションを購入して、フルリノベーションを行ったことがあり、妻と一緒に当時の自分達のライフスタイルや価値観を反映させた住まいをデザインできたことは、非常に楽しい経験でした。不動産は大きな買い物ですから、暮らし方、働き方、子供の教育や老後資金といった、人生や家族の大切なトピックを改めて考える良い機会になりますよね。そうした思考を通じて自分の価値観を発見していく人々のワクワクを事業にされていらっしゃるのだと理解しています。

鎌田:おっしゃる通りで、不動産を買うという行為は、お客様一人ひとりの人生やご家族に向き合うことだと思います。ですが、多くの方にとって「家を買う」とは新築住宅の選択肢のみがイメージされる時代が長く続いていました。まずは、住宅展示場や新築マンションのモデルルームへ行くという感じですね。特に土地価格の高い都市圏では、自分で設計までを決める注文住宅を作るとかなりの高額になってしまうので、大量生産型の建売住宅や新築マンションから選ぶことが多くの方の事実上の選択肢になっていました。しかし、「衣食住」という生活に欠かせない3つの要素を考えてみてください。服を選ぶ時は自分の体型を意識しながら、気候やこれから会う相手のことを考えながら、自由にコーディネートしますよね。食事だって、季節に合わせて、食べる仲間に合わせて、自由にセレクトします。つまり、「衣食」に関しては、主役は常に自分であり、幅広い商品やサービスから高い自由度を持って選択をしている。それなのに、なぜか住宅の購入だけは、画一的に建てられた「箱」に自分が合わせるケースが多く、主役が自分ではなくなってしまっている。

ある10階建の新築マンションでは、上から下までまったく同じ間取りの部屋が10室並んでした。人はそれぞれ、生まれ育った環境、性格や趣味趣向、価値観が異なるのに、なぜに似たような部屋に住まなければならいのか。これは、単に業界にとって都合の良い商品を押し付けられ、住宅はそういうものだという固定観念が個人に植えつけられてしまっているだけなんですよ。確かに、住宅が不足していた時代は、画一的なローコスト住宅を大量生産することは、消費者にとって利点がありました。しかし、住宅の数が十分に満たされた現在、不動産業界に求められているのは多様化したお客様のライフスタイルやニーズに応えていくことです。WAKUWAKU社は、日本の画一的で無個性な住宅で暮らすことが当たり前になってしまっている状況を変えて、人が主役となる住宅を提供するお手伝いをしたいと考えています。

「リノベーション」が現実的な選択肢になってきた背景

鎌田:これは私が総合不動産会社に勤めていた時代の笑い話ですが、あるお客様に住宅の引き渡しが終わった夜、そのお客様から電話がかかってきました。こんな時間にどうしたのかなと電話を取ると、玄関の鍵が壊れているのかドアが開かないとのこと。新築物件の鍵が壊れていることはそうそうないので、理由もわからず、右往左往しました。結局、鍵が開かなかった理由は、開けようとしていたドアはご自分の家ではなくお隣の家だったことが判明しました(笑)。その住宅は続きの何件かの外観も車庫の位置も全く同じで、お客様に少しお酒も入っていらしたこともあって、見分けがつかなくなってしまったんです。35年ローンで一生に一回の高い買い物をしてもらったのに、私はお客様の本当のニーズに寄り添えているのか、自分の仕事に強い疑問を感じた瞬間でした。

加藤:なるほど。そうした鎌田さんの経験上の疑問から端を発し、業界都合を脱却して「暮らしの民主化」を実現するために生まれたのが、「中古購入+リノベーション」という新たなビジネスなんですね。ところで、多くの方はリノベーション物件を買うというプロセスを経験されていないと思います。まず、リノベーションについて、解説していただけないでしょうか?

鎌田:もちろんです。まず、「リノベーション」という言葉が使われ始めたのは、我々の創業より少し早い15年程前で、それより前は「リモデル」や「リフォーム」という言葉が一般的でしたね。その頃でも既に中古物件を購入して自分達のテイストでリノベーションしている方達は少ないながらいましたが、一般の方にとっての身近な選択肢ではありませんでした。

その理由は複数ありますが、理由の一つとして、当時は銀行がリノベーション物件に対しての住宅ローンが商品化されておらず、新築のローン審査の方が圧倒的に通りやすかったことが挙げられます。仮に物件価格の部分に住宅ローンを組めたとしても、リノベーション費用の部分は住宅ローンとしては借りられず、多額のキャッシュを用意する必要があったんです。

現在では、銀行においても「リノベーションは資産価値を高める」という概念が当たり前になり、リノベーション物件においても新築と同等の条件でローンを組める様になりました。こうして、かつては手が出しにくかったリノベーションが、一般の方の当たり前の選択肢になってきたんです。

また、物件探しから資金計画、設計、施工まで、リノベーション物件購入の全てをワンストップでディレクションする事業者の登場も、この市場が広がる後押しになりました。過去は、中古物件を買ってリノベーションをしたい場合には、物件を探す不動産会社、リノベーションを計画する設計会社やデザイン会社、施工をする工務店など、複数の業者と一斉に話をしなくてはならず、消費者にとっては大きな負担でした。

複数の業者に依頼がまたがると、資金計画も複雑になります。物件の購入をしたのは良いが、リノベーションの予算が足りなくなってしまった、なんてことも起きやすかったのです。これでは、銀行も融資を出しづらいですよね。しかし、全てのプロセスをワンストップで対応する業者がいれば、トータル予算の中で、物件とリノベーション価格のバランスを考えた計画を手間なく実行できます。

実際に、物件を見つけることが得意な不動産会社は建築のプロではないため、お客様の希望に沿ったリノベーション施工が実際にいくらでできるのかという、対象となる建物の構造上の観点からの計画には長けていない場合が多いです。一方、ワンストップサービスを提供する会社は、物件の購入前に建築のプロの目利きによって、お客様の思い描いたリノベーションが幾らかかるのかを短期間で算段してくれます。不動産の購入においてはスピードが求められます。リノベーション費用の算出に時間がかかりすぎると、他の人に物件を買われてしまうこともあるので、物件購入の判断に必要なリノベーション費用をスピーディーに見積もり、お客様に情報開示できるかが非常に重要なんです。

住まいや暮らしにおいて、自分らしさの追求こそが「ワクワク」する部分

加藤: リノベーションについて、丁寧に説明していただき、ありがとうございました。確かに、7年前ぐらいになりますが、私が中古マンションを買ってリノベーションした時は、リノベーション部分はキャッシュで支払いました。当時は、まだまだ制約があったんですね。しかし、こうやってお聞きすると、ワンストップでのサービス提供というのは、お客様の立場からすると大切ですね。

鎌田:そう思います。住まいや暮らしに限らずですが、人は自分らしさを追求できる自由があること、そして自分自身を発見したり表現することで「ワクワク」できると思います。そのためには、業界都合をなくし、カスタマーファーストに考え、お客様が「自分らしい暮らし」を実現できる事業モデルを新しく作り上げることが大切だと思いました。

お客様の視点では、家を買うという行為にあたって、不動産業界、建築業界、設計業界、デザイン業界、インテリア業界と別れている事は関係のないことです。日本の不動産業界には、囲い込みといった業界の仕組み由来の問題もあって、お客様が不動産会社10社に相談しても、10社それぞれの会社にとって収益が最大化する物件しか紹介されないといったことが、昔も今も起きています。住みたいエリアの選択肢がすべて紹介されないなんて、顧客を無視していますよね。そうした悪しき慣習も見直して、業界を顧客ファーストに変えていかなければならないんです。

加藤:カスタマーファーストで、業界の都合や垣根を取り払っていくというところに、非常に共感を覚えます。WealthParkの軸足も徹底的なカスタマーファーストにあり、市民・社会に根ざして、様々な仕組みを再定義していくことを目指していますので、御社と同じような思想で世の中を便利に、そして豊かにしていきたいと思っています。

「暮らしの民主化」という視点で改めて振り返ると、無意識のうちに住まいに関する固定観念や業界都合を植えつけられてきたことは、少なからずあるのかもしれません。例えば、私が都内の中古物件をリノベーションした時に、当時の銀行や不動産会社の方が、「個性あるものに変えてしまうと、資産価値が下がる」と難色を示されたんですね。人が個性のないものを好むという日本社会の考え方を残念に思ったことを覚えています。

私は、その前は海外に約10年暮らしていて、イギリスでは築100年以上の19世紀に建ったヴィクトリアン様式の家に住んでいたのですが、そこは何度も改築工事がなされ、庭も数回フルリノベーションされていました。そうした不動産の歴史や個性を楽しんできた経験もあって、日本に帰国して、自分達が住む家として、中古物件をリノベーションするという選択を取りました。なお、今ではそのリノベーション物件は賃貸に回していますが、入居者さんにはそのリノベーションの個性を気に入っていただいており、そのエリアの相場には負けない金額で契約も頂いているので、消費者目線での自分の当時の判断は間違ってなかったな、と思っています。

後編へ続く

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WealthPark研究所は、「すべての人へ投資の新しい扉をひらく」ための、今までは語られてこなかった投資についての情報発信や、それに関わる幅広い活動を手掛けていきます。そして、個人が投資を通じて素晴らしい経験を得ていく、そして社会がより豊かさを得るという新しく素晴らしい世界を、皆さまと共に考え、創り上げていきます。