ありきたりの学生だった僕が学生パパになるまで#3

運命を変えたメール

後日、教授からメールが届いた。

一件目 交換留学辞退の書類を差し止めてもらった旨の報告。

二件目 とても助けられたし大きな影響を与えられたメール。そのまま載せる。

昨日も忙しくしていたので,遅くなりましたが,書きかけた件を少し敷衍して書きます。
その1.留学を取りやめるのは得策ではない
このご時世,予定していた留学を取りやめてでも一緒にいてあげたいという意思を表明できる男性はそう多くないかもしれません。その点ではT(僕)の態度は立派です。しかし,今後きちんとした就職をし,家族を守っていくためには,自分自身を今のうち鍛え,精神的な成長やスキルアップを図っておくことが必要で,それは今しかできません。留学した経歴は,プラスになりこそすれ決してマイナスにはならない。妊娠を機に,すべてを放棄するのは無責任です。
交換留学をキャンセルしても,現行制度では次点繰り上げはありません。したがって空席ができるだけであり,行きたかったのに採用されなかった人に対して,非常に失礼なことになります。採用されたのなら最大限それを全うすることが採用された者の社会的責任ということです。
また DAAD の奨学金も,個人の問題のみならず,大学に対する推薦という性格のものでもあります。したがって,法学部からの推薦を受けるに際して,「理由の如何を問わず辞退できない」という条件が付いていたはずです。自由に辞退ができれば,これから応募しようとする後に続く人たちにとってマイナスになるからです。
さらに言えば,検査薬での反応でしかなく,きちんとした医師の診察を受けていない段階で,留学辞退の判断は早計です。
その2.子どもは祝福されて産まれてくるべきであり,妊娠は恥ずべきことではない
どんなことがあっても,子どもは望まれて産まれてこなければいけません。後になって「あの時○○できなかったのはこの子が生まれることになったせいだ」などと言われては子どもはたまったものではありません。子どもに罪はない。「留学できなかったのは」「大学に通えなかったのは」などなど,自分たちの行動の結果を子どものせいにしてはいけない。またお互いのせいにしてもいけない。
新しい命がこの世に生まれてくるということは,素晴らしいことであり,何も恥ずかしいことではない。ですから,Mが秋学期に在学しながらもそーっと大学から身を隠すというのは,果たして良いことなのだろうか。新しい命の宿った自分の身体で堂々と大学に来ればいいのではないか。
その3.インテンシブの君たち2人の子どもは僕やSさん(教授)の孫のようなもの,そしてクラスメイトたちにとっては甥・姪のようなもの
ドイツの大学であれば,女子学生がベビーカーを押して大学に来ることは珍しくない。Erfurt 大学にも託児所があったでしょう。もしもMが妊娠中に,また出産後に子どもを連れてインテンシブを含む(大学の)教室に来るなら,それは他の学生にとってもとても良いことでしょう。中でも,最も親しい仲間たちが,大切に思ってくれるという環境はインテンシブならではなのではないでしょうか? 僕には,再婚した今の妻の年齢のこともあって,子供はいませんが,インテンシブの学生諸君は,みんな僕の子供だと思っています。手のかかる子どもたちが毎年70人ずついるのです。だから,もし君たちの子供が生まれたなら,それは僕にとっては孫のような存在になるのです。こんな嬉しいことはない。
その4.今まで続けてきたドイツ語の習得をここでこそ活かせる道を考える
日本は冷たい国になりました。沖縄や福島に対してのみならず,弱者にも妊婦にも母親にも冷たい。「電車内のベビーカーが邪魔」「子どもたちの声は騒音」「保育園は迷惑施設」など,信じられない言説が跋扈しています。学生結婚や学生としての出産もレアケースではないため,大学も目下のところは対応の必要を特に感じてはいません。
それに比べて,ドイツの状況はどうか。学生には潤沢な奨学金があり,子どもがいれば生活支援があります。子どもは社会が育てるものと思っているから,交通機関でもみんなで協力して,ベビーカーの上げ下ろしを手伝ったりします。そうした社会的な待遇を考えると,日本にいるよりもこの状況での生活が容易であるかもしれません。
そういう中で,2人ともドイツ語ができるのだから,ドイツでの妊娠,出産,育児の状況などを実体験し,それを紹介する本を書くなどしたら,君たちが今まで積み上げてきたドイツ語の学びを妊娠,出産のために無駄にするのではなく,むしろ活かすことができるのではないでしょうか。そういう目標があったら,学んできたドイツ語とのつきあい方もポジティブに変わるのではないかと思うのです。
その5.結論:だからどうしたらいいか
本来,Tは5月末までに Bonn への手続きをしなければなりません。Mもその手続きを一緒にしたらどうですか。ドイツの大学への留学が,こうしたことをきっかけに降って湧いたというのは予想外なことかもしれませんが,ドイツの大学に Zulassungsantrag を出すことは誰でもできるのです。そして,妻が妊娠中で出産の予定があるというのであれば,交換留学の決まっているTに加えてMの Zulassung が一緒に受け入れられる可能性は高くなると思います。
Tは Bonn大学での奨学金まで受給できることになっています。何と恵まれたことか! その権利を放棄すれば,それはK(同じクラスの友達)に行くことになるので,それは嬉しいことではあります。しかし,この際,ちゃぶ台をひっくり返すようにすべてを辞退して,これまで計画してきたことをすべて放棄してしまうなら,今までやって来たことはいったい何だったのか,と疑わざるを得ないことになります。
その6.補足
ここに書いたことは,僕1人の意見ではありません。Sさんとも話し合いましたし,妻のNとも話し合いました。Sさんは,自分たちのためにもドイツに行けばいいのにと言っていましたが,Nも,インテンシブでドイツ語を勉強してきた2人なのだからドイツに行って出産すればいい,と即座に言いました。
最も重要なことは,双方のご両親の十分な理解と精神的・物的支援です。卒業するまではある程度経済的な援助をしてもらうことが必要になります。だからといって,それを申し訳なく思ってこれまでの計画を後退させるようなことはしてほしくありません。今だけではなく,2人のこれからの長い人生のために大切なことです。
もう1つ,しかるべき時期にきちんと医師の診察を受けて,所見をもらうことです。Mの年齢なら,健康な胎児を宿す可能性が高いものの,流産の可能性はゼロではありません。妊娠の有無だけではなく,そもそも自分が出産の準備ができる体なのかどうか,その際,何に注意すべきかなどの指導も大切です。6週目なら胎児の確認もできるでしょう。まずは早く信頼できる医師にかかることです。ご両親への疎明はその後です。
書き足りないことが多いので,本当は会って話したいところですが,新学期の忙しい時期なので,とりあえず僕をはじめSさんとNの意見を大まかにまとめておきました。
よく考えてくれることを願っています。

こんなに考えてくれる人がいて本当によかった。
最初の検診には笑顔でいこう!!と思った。

読んで、ものすごくスッキリした。

わだかまりの正体がわかった。

ただ全てを投げ出して、頑張る意思だけあれば立派なのか。否、自分は考えることから逃げていたことに気づかされた。

普通に考えたら留学など行っている場合ではない。でも、まだ全然もがいていないではないか。魚が大好きだから漁師もいいかな、と思っていたがもっと長期的に、自分は本当は何がしたいのか、どうしたいのか、深く掘り下げることにした。

全て叶えられるかはわからないけど、もがくことは大切だ。初めから叶えるつもりでいかなくては何も起きない。自分を鼓舞した。

為せば成る。

そう言い聞かせ、妥協のない理想を考えてみた。

産む。しっかりと良い環境で育てる。大学も卒業して就職する。留学も2人でする。つまりドイツで産んでもらう。

できたらなんて楽しいんだろう!

一度きりの人生、このくらいのことがあっても悪くないだろう。

もっと大変なことを乗り越えている自伝はたくさんある。

そんなふうに考えたと思う。

目標が具体的になったところでMにこのことを伝えたが、ドイツ行きへの反応はイマイチだった。

怖いと。お金もよりかかると。

でもとりあえずやれるだけやってみることには賛成してもらえた。

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後日2人の先生に、

留学との両立は考えたことがなかったが、できることならば是非ともやりたい
と伝えた。

何にも恥ずべきことではない。
君たちは立派な決断をした。
祝福されてしかるべき。
どうなるかなんてわからない。
自分の道を自分で作れる力をつけなければならない。
相談にはいつでも乗るから、頑張ってくれ。

こんなに励ましの言葉をもらった。

最初に打ち明けて本当によかったと思っている。

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