ありきたりの学生だった僕が学生パパになるまで#7
「お父さん、娘さんを僕にください!」ってやつ?
僕はスーツを着て、約束の2時間前くらいに会場近くの公園のベンチに座っていた。公園では常に2家族くらいいて、3人くらいの子どもが遊んでいた。
のどかな休日を代表するような絵だったが、その公園に2時間もスーツを着て僕は座り続けていた。はたから見れば、完全に怪しい奴である。
初めの10分くらいは、何を話そうかなんて心拍数を上げながら考えていたけれど、その後は不思議とそれほど緊張しなかった。
肘をかけ、足を開いて、楽な姿勢でしばらく子どもたちを見ていると、心は落ち着き、もう考えることはないと思えた。あとは話が始まったら集中しようと。
そのままリラックスを続けているとすぐに時は経ち、パートナーのMから「着いた」とLINEがきた。
僕は腰を上げ店の近くへ移動し、Mに一家が入店したのを確認し少し経ってから店へ入った。
店員さんに名前を言うと「お待ちしてました」と、予約していた個室へ通された。
「初めまして、私YTと申します。この度は多大なる心配をおかけし、Mさんのご家族の雰囲気を壊してしまい、誠に申し訳ございません。」
「本日はお時間をいただきましてありがとうございます。」
Mの父親に対してこういった感じで名乗り、詫び、頭を下げ、時間を設けてくれたことに対する感謝を述べ、手土産を差し出すも受け取ってもらえず、ものすごく睨まれた。
殴られるかもと思っていたが、殴られなかったので、なんと言葉を添えたかは忘れたが、もう一度差し出すと今度はいらない!と言われた。
Mもとても不機嫌で殺気立っていて「お父さん!」と言い放ちながら睨みをきかしていた。
父「本当は殴りたいところだけれども、そんなことしても何の生産性もないからな。」
僕「はい。」
ここから3時間、Mの父親と母親が怒りまじりに「〜についてはどうお考えで?」といろいろな質問をされ、僕はぶっ通しで話し続けていた。
会食の最中は、Mはほとんど一言も喋ることなく、外を見ているか、父母を”強烈に”睨んでいるかだった。
料理は懐石料理のコースで、とても綺麗で美味しかった。僕は話し続けだったため前にはどんどん料理が溜まっていき、ときどき急いで食べる、を繰り返した。
また、僕は必死に考えてきただけあって(今まで、こんなことしたことないが)、とても真面目な印象を与えられたように感じた。
「こう聞かれたらこう返すとか全部考えてきてるんでしょ?思っていることを本心で話しなさいよ」
「言葉が多い、そんなこと言われなくてもわかる。」
等のお叱りを受けた。
どのように話が進んだか詳細は覚えていないが、賛成されることは一度もなかった。批判や否定をひたすらされていたが、話は平行線というわけでではなく、話はゆっくりと進んでいき、時間は案外とあっという間だった。話のなかでの大事な点と、結論はこんな感じだった。
・経済的自立すらしていないのに子をどのように幸せにするのか。子を幸せにできないのなら産むべきではない。
・もがきなさい
・僕が塾のバイトに加え、薬局でバイトをすることを約束。(塾のようなバイトではなく、僕は旗振りのようなバイトを経験すべきだということで)
・大学継続の件
→Mの分はM両親が今後も負担してくれることに。しっかり学びなさいと言っていただけた。
・結婚について
→今回は認めてもらえず。しかし、父に「見えてなかった一面に気付くかもしれないので、同棲から始めなさい。」と言っていただけた。
・同棲について
お金がないため、お世話になっていたMの祖母の家か、僕のひいおばあちゃんの家に一緒に住むことを僕は考えていた。しかし、
「それでは意味がない。二人で実際にすべてを行ってこそ、生活する大変さ、親になる大変さがわかる。」
と言われ、僕が折れ、何とかしてできるだけ早く賃貸に二人で生活することを約束。
・留学について
→あり得ない。1人ならまだしもMがいく必要はない。ここは絶対に譲れない。
最終的に結婚、出産を認めてもらったわけではないが、
今後に期待している
と言われている気がした。(都合の良い解釈かもしれないが。笑)
「圧迫面接」のようなプレッシャーに満ちた面会が終わると、両親は先に帰り、僕とMはどこかへ向かった。(行き先は忘れてしまった。)
終わってから疲れがどっと出てきたが、言葉にできない達成感はあった。
最も嫌だと思い続けた日が、とりあえずは無事に終わって本当に良かったと思ったことを覚えている。
この時は、結婚したらこれからこのMの両親と付き合っていかないのかと思うと、気分が悪くなりそうだった。この時は。