#03 「中間地域」の特徴を見出す 現地調査編

ユノ
What is the city, region and town?
8 min readFeb 3, 2018

1年間の調査は概ね、以下の形で進行した。

前回掲載した3つの調査方法による結果は、以下のようになった。

巡回

・テープの更新
観察していたベンチ及びブランコに対しては、使用できないそれらに対し立入禁止のテープを巻くという処置をとっていた。しかも、それらのテープは1年間に2〜3回、更新しているのが見てとれる(下図のうち、黄背景になっているのがテープが更新された月)。

卒業論文資料より一部抜粋・改訂

無論、テープを巻いたことによって得られる効果は、ベンチやブランコが「使えないものである」のを明示することだ。更に言えば、「これらのモノを使えないと認識している人の存在」…使えないベンチの存在を、今ベンチを見ている私以外も認識しているということを示している。これは、古いベンチを新しいものに交換するのとも、そのまま放置して朽ちさせていくのとも明らかに異なる、いわば「使えないモノを、使えない状態で維持する」状態にあるといえる。

・プランターの更新
閉店しシャッターが下ろされた酒屋前に並べられるプランター。こちらの花を替える頻度は、偶然にも前述したブランコやベンチと同じくらいだ。

卒業論文より一部改訂

植えられた花は基本的にそのまま伸び放題に成長するか枯れてしまうかのどちらかで、プランター植物らしく適度な規模を保っているわけではない。そのため、花を株ごと替えるとき以外に花の手入れをしている様子は感じられない。

・電柱ビラの更新失敗
電柱に貼られているのをよく見かける「犬探してます」ビラを記録した。同じビラが付近の電柱にも貼られているが、1箇所だけを記録し続けた。

卒業論文より一部改訂

すると、途中でビラが剥がれ去っているのを確認した。他の電柱には相変わらずビラが残っていたことから、これは犬を発見した飼い主によって剥がされたわけでも、電柱への張り紙を禁止する電気会社によって剥がされたわけでもない。ただ自然と剥がれてそのままになったのだと推察される。その後も何ヶ月か観察を続けたが、ビラが再び貼られることはなかった。

ものづくし

・ごみ集積所
調査対象地は、ごみ集積所のバリエーションが多い(他地域でも実はバリエーションがあるのかと気になり、時折チェックしているので別件として後日投稿しようと思う)。特に、土管型のごみ集積所は初めて目にした。また数歩歩けば集積所が見つかるくらい高頻度で見つかるので、実際に数と分布がどうなっているのかを歩いて調べた。

筆者作成卒業論文より

上図の通り高密度で分布する。数は計84個だ。ごみ集積所の設置基準は条例により定められるが、調査対象地の条件をみると「およそ30世帯に1個」を目安にするよう提示している。これを調査対象地のおおよその人口で割ると24個。つまり、24個が適正個数である場所に84個もの集積所が置かれていることになる。本来の予定の実に3倍だ。地図で見ると同じ種類のごみ集積所は密集せずに分布していることから、同タイプの集積所を設置した人の都合だけで設置され、他の集積所の配置は考慮に入れていなかったのではないかと思われる。

・巨大プランター
80cmくらいの高さを有する巨大プランターは、そのサイズもさることながら、道のど真ん中に置かれている点に特異性が認められる。路地に対する車の進入禁止を企図するものと思われるので、同様の意図を感じさせる柵と併せてマッピングを行った。

筆者作成卒業論文より

上記の通り、5つの小道に対し11個のプランターの設置が確認できる。小道の大通り側にプランター、住宅街側に柵が設置されていることが興味深い。

単探索

・桜の名札
調査対象地は線路と土手で囲われている。その土手沿いに広がる桜並木には、桜の木と一緒に植樹者の名前が書かれた札が立てられている。町主導で行われた桜の植樹によるものらしいが、地域の繁栄を願うものよりむしろ、植樹者の個人的な願いやお祝い事を記したものが多い。

筆者作成卒業論文より

・車優位の都市設計

歩車分離の歩道が、調査対象地には3本しかない。前述した巨大プランターで防がれた小道以外全ての道に、車が入れるにも関わらず、だ。

さらに、横断歩道も2箇所に限られている。歩車分離の歩道が交わる場所には横断歩道があって然るべきではないかと思われるが、図の②と③の歩道の交点には無い。

結果考察ー個人的手入れと組織的手入れ

調査を行った結果、調査対象地は「手入れ」ー自分が生活するまちの状態を良くしたいという思いから行われる、まちへの善意の介入ーのやり方によって特徴づけられるのではないかと考えた。

「手入れ」には、組織的に行う大掛かりなものと、個人的に行う小規模なものがあるだろう。私は、前者のようにみえる手入れを「組織的手入れ」、後者のようにみえる手入れを「個人的手入れ」と称する。実際に手入れを行っている主体がどうであるかではなく、手入れされた結果からどのように「みえる」かをここでは判断基準とする。

強い「個人的手入れ」

巡回で見たテープ及びプランターの更新は、その更新頻度の低さと規模の小ささなどから「個人的手入れ」が強くはたらいていると考えられる。もしここに「組織的手入れ」が強かった場合、ベンチ・ブランコは新しいものに取り替えられ、酒屋前プランターはそもそも酒屋ごと撤去されるか、新たな店舗が入るかすると思われる。実際には、これらの場所は交換ではなく維持…すなわち、「使えないものを、使えない状態で維持する」状態が続いているのだ。

また、単探索で確認した桜の名札も、町の景観を良くしたいという組織的設置意図に反し、実際の設置者は極めて個人的な動機で植樹に参加していることが見てとれる。こちらも、組織的手入れよりむしろ個人的手入れが強い例として挙げられるだろう。

弱い「組織的手入れ」

調査対象地は個人的手入れの強さを感じる地点が目立つが、むしろ組織的手入れが弱いと感じられる事例も発見されている。ごみ集積所等はその典型だ。組織的手入れの力が強ければ、条例に従って設置個数が抑制されるはずだった集積所は、実際には条例の3倍の数が発見される。組織的手入れの力がはたらかず、アパート等の小規模集合住宅を建てるたびに戸数に対する入居者数の「見込み」で集積所を作っていった結果こうなっているのではないかと推測される。

また、巡回で見た電柱ビラも、同様の路線で考えられる。「組織的手入れ」が強ければ、マメに張り替えられるか、全ての電柱に貼られたビラが一斉に剥がされるかのどちらかだろう。そうではなく、自然に剥がれるまで放置されている状態になっているのは、「組織的手入れ」の弱さを表しているように見える。

「組織的手入れ」跡との折り合い

調査対象地が住宅地として整備された時期は、高度経済成長期と一致する。そのため、短期間で効率的な都市計画が実行されたと思われるまちの様相が見つかる。車優先のまちづくりというのがそれだ。

調査対象地の道はほぼ全て、車が入れる。車が立ち入れない道を作ろうとしても、「組織的手入れ」が弱い現在の調査対象地では、道を引き直すことは難しい。そこで、巨大プランターの設置という「個人的手入れ」によるアプローチによって、必要最小限の車止めを設けているのではなかろうか。「個人的手入れ」は、まちをより現状に合った、住みやすい環境に変えたいと考える人びとが現在この場所でとれる唯一の手入れ方法なのかもしれない。

このように、調査対象地、「中間地域」は「個人的手入れが強く、組織的手入れが弱い地域」であるということができるだろう。

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ユノ
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