葛藤が生む未知の音楽を

PANICSMILE インタビュー

Wishkah Editor
WISHKAH WEB
8 min readJul 22, 2018

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photo: Keiko Hirakawa

PANICSMILE
吉田肇(g/vo)を中心に1992年結成。福岡を拠点として、94年に自主レーベルheadache soundsと月刊イベントCHELSEA-Qをスタートさせる。98年上京。2000年以降はより実験的な方向に舵をきり、『GRASSHOPPERS SUN』『MINIATURES』『A GIRL SUPERNOVA』などのアルバムをリリースした。2010年に大幅なメンバーチェンジを経て、GUIROなどでドラムスをつとめる名古屋の松石ゲル(dr)が加入。さらに2013年には吉田が福岡に再移住し、メンバーが各地に散在した編成でアルバム『Informed Consent』を発表した。結成25周年の節目を迎える2017年には、元eastern youthの二宮友和(b)と、前年よりサポートで参加していた久留米の雄IRIKOの中西伸暢(g)が正式加入。現編成を始動させる。

……以上がPANICSMILEの、ごくごく簡潔なバイオグラフィである。とはいえ、一度でも彼らの音にふれたことのある人ならば、こうした年代記の行間をみたす試行錯誤がどれほど濃密だったのかを汲み取れるだろう。現体制では初の福岡公演となる2017年7月15日の福岡UTEROでの企画では、いびつなアンサンブルが不思議とひとつの巨大な渦を生み出し、不可解さにまるのみされた観客たちはちぐはぐに熱狂しつつ身体をゆさぶりあっていた。本公演直後に行ったこの取材では、つねにメタモルフォーゼを続けるPANICSMILEのここ数年の動きと、幾度の過渡期を経てもなおブレない彼らの主軸がどこにあるのかを探った。

※以下は紙版WISHKAH第1号に掲載されたPANICSMILEインタビューの抜粋版です。

───二宮さんは、イースタンを脱退した段階ではベースを今後も続けるかよく分からない状態だったのでしょうか?

二宮 よく分からない。次何しようってのをあんまり考えずに。ベースもサポートを頼まれれば弾いていましたが、全然練習してなかったです。

───PANICSMILEに誘われたのはいつごろでした?

二宮 去年(2016年)の秋ぐらい?

中西 それこそ、ニノさんが決まったのはここ(※インタビューを収録した福岡UTERO近くの居酒屋・鳥屋台)ですよね。CRYPT CITYがUTEROに出たあと(※2016年9月22日の“Chant” release tour 2016”。共演にLOSTAGE)の打ち上げで、(中尾)憲太郎さんと小松(正宏)さんと吉田さんが、ミステイクさんの後任について話をしていて。お二人が「二宮さんヒマしてんだろ」「二宮さんに連絡しようや」と。

吉田 ははは、それで小松さんが勝手にメールを打ったんです。

二宮 小松くんからいきなり「パニックスマイルでベース弾いてよ、吉田くんに電話して」って。こっちはミステイクさんがやめることも知らないから、意味が分からない……。CRYPT CITYが一緒にいるっていうのも知らないから。でも、とりあえず電話して状況も分かったし、「やろうか」ってことに。

photo: Keiko Hirakawa

中西 ぼくは仕事終わりで打ち上げの後半戦に合流したら、憲太郎さんや吉田さんたちから「ベースが決まりそうです」と。まさか憲太郎さん!?と思ったら「二宮さんが……」って言われて(笑)。もともとイースタンは聴いてましたし、二宮さんの最後のツアーをDrum Be-1に見に行ったら(※2015年4月10日のeastern youth福岡公演)、そこで吉田さんにたまたま会ったりして。

吉田 そうそう、Be-1の上にあがったロッカーのところで。

中西 そのときは、まだ吉田さんともそんなに絡んでなかったんで。まさか自分も二宮さんものちにパニスマのメンバーになるとは……

───さらに松石さんはこうした経緯を名古屋で知るわけですね。

松石 信じられなかったですね。初めて二宮さんが東京から高速バスで豊田まで来たとき、「本当にくるのか?」と思いつつぼくが一人で迎えに行って。うわあ!eastern youthの人だ!どんどん近づいてくる!と(笑)。

二宮 そんなかんじだったんだ、ふつうにニコニコしていたのに……
松石 もうド緊張しまくりですよ、車の中で。

───いざ新体制で動き出そうにも、吉田さんと中西さんは福岡、松石さんは愛知、二宮さんは東京と、みなさん各地に散ったままですよね。ライヴにあたっては、まず過去の音源を共有して各自がアレンジを練るところから準備を始めるのでしょうか?

吉田 そうそう、もう自由に。「好きに弾いてください」って。

───そんな雲をつかむような状態から、どうバンドの音を組みたてたのでしょうか?

吉田 ハハハ……

二宮 …………困りましたよね?

松石 困りますよね……

中西 わはははは!

吉田 ニノさんからメールで「わかんない」って。ハハハ……

中西 それはおれも感じていたから「わかります」って。

松石 ぼくも思ってました。「何やねんこれは……」って。

二宮 聴くだけならきっちりわからなくてもいいじゃないですか。いざやるとなると、なんかね……

吉田 ハハハハハ…… もう、おれが答えられるのは「演奏してみたらわかります!」しかない。

松石 でも、それはほんとそうだったね。

二宮 うん。そうだった。

───歴代メンバーは、みんな「わからない」の壁を乗り越えてきたのでしょうか?

吉田 うーん、おれも流れに身を任せてるから……

───吉田さんすらハンドルを握っていない……!

吉田 「こうやってください」っていうのはないんで。みんなが出す音がいいかんじでまわりはじめればいい。

──拠点がばらばらな状態で、作曲はどう進めているのでしょうか?

吉田 メンバーに自分で弾いたギターとクリックだけが入った音源を送りつけて、ドラムとベースとギターをつけて返してもらうようになって。おれが福岡に引っ越して来てからつくった『Informed Concent』(2014)はそれで成り立ってる。今もそれしか方法がないです。

───ファイルをやりとりしていくなかでミスが起きたりは?

松石 します……。ぼくがみんなのファイルをまとめるときに、歌のデータを半拍ずらして貼り付けちゃった曲があって(※イアン・マーティン監修のコンピレーション盤『THROW AWAY YOUR CDS GO OUT TO A SHOW』に収録の新曲「New Old Estate」)。平謝りしたのに、みんな「おもろい」と。

───クリックに合わせたものをデジタルで切り貼りするから、きれいにずれるわけですね。

松石 そう。きれいに半拍ずれちゃってるから、合ってはいる。

中西 あの曲はちょうど、吉田さんが歌録りをしたあとに「いい曲だけどストレートすぎるからもうひとひねりほしいかも」と話していて。そうしたら、ゲルさんから歌だけ半拍ずれたファイルが返ってきて、吉田さんと二人で「ドえらいミックスを送ってきてくれたな……」と。

松石 そもそも間違いに気づいてなくて。ただ送られたものを貼り付けたつもりだったのに、「すごいの来たね!」っていわれて……。

二宮 おれはもとの歌を知らないまま、半拍ずれたミックスだけを決定版としてもらったから、てっきり意図的にやったのかと思って。大胆なことするなあ、と。

吉田 エラーですよ、完全に。

───なるほど、ファイル交換の時代だからこそ生まれるミスが。

松石 でも、ビートルズの時代から間違えて弾いたフレーズを採用したりはしていたんじゃないかな。教会で同じメロディを歌うべきところを、音を外してるやつがいて、そこから「これは響きが複雑になるぞ……?」と発想を膨らませてハーモニーが生まれた、という説もあるぐらいで。

吉田 「こう…なんじゃ……ない………かなあ?」という葛藤が新しい音楽を生むと思う。

中西 だから、ライヴ中でも「どうしよう?」って四人がガッと考える瞬間があって、笑ってしまうんですよね。「ゲルさんずれたまんま叩いてるけど、まあええわ……」とか。

松石 「さっきまで半拍ずれてたのに、こいつ急に合わせてきたぞ!」みたいな瞬間とか。笑えるよね。

※全文は紙版WISHKAH第1号で読めます。PANICSMILEの公演や企画COPY CONT ROLL等の物販でお買い求めください。

(取材・文 WISHKAH たかはし)

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