スタートアップの失敗から学ぶ、やらないを発見するワークショップ

降矢康平
workshop design project
9 min readAug 24, 2020

浜松ラボとオンラインワークショップデザインプロジェクトについて

私たちは、浜松ラボ2期生である。私たちはプロジェクトを通して社会の課題を発見、そして社会に価値を提供する実践的な活動を行っている。そのプロセスが理系の研究室に似ていることからラボラトリー、略してラボと自称している。

浜松ラボに所属する3年生はプロジェクトの一つとして4月より、オンラインワークショップデザインプロジェクト(online_wsdp)を開始した。各自興味のある分野を選択し、チームとなって、7月に実施するオンラインワークショップを作り上げる。今年実施したWSの分野は地域活性化・経営戦略・スタートアップ・人間行動・食・情報発信の6つである。自分たちの発表する内容についての本をいくつか熟読し、それを基に発表した。

参加者に価値のあるワークショップ

活動を開始し、まず課題となったのがスタートアップという参加者(大学生を想定)になじみのないテーマをどのように価値あるものにしていくかである。スタートアップについて詳しく語ることで、参加者がスタートアップ企業を起業したり、スタートアップ企業へ就職することになるのだろうか。おそらくそうはならない。そこで私たちは、スタートアップ企業にありがちな失敗、サービススタートまでの過程を講義したうえで、参加者の活動に生かしてもらうワークショップを企画することとした。その名も「やらないを発見するワークショップ」である。

インプットからリハーサルまで

私たちは、知識のインプットから入ることとした。インプットに使った書籍は田所雅之氏の企業の科学(日経BP社)である。中でも1章、2章を中心にインプットした。内容は難しく自分たちの中で咀嚼し、理解するだけでも苦労した。一方でスタートアップ企業だけでなく私たち大学生、そして社会人にも活用できる内容だと感じた。本のインプットをした後、資料の作成に取り掛かった。本の内容がしっかり伝えられるように、参加者に分かりやすいよう、実例も踏まえたスライドを作った。また、各章の内容を説明した後にワークも用意した。

リハーサルでの失敗

6月24日、ラボの時間内にワークショップのリハーサルを行った。参加者は約45名、全員ラボの関係者であった。45分間のリハーサルを行った後、参加者からのフィードバックをいただいた。フィードバックの内容は、内容が難しく、理解するのが大変だった。項目が多すぎて、何を伝えたいのかわからなかった。というものだった。これを踏まえ、私たちは内容を少なくし、本当に伝えたいものに絞ったワークショップにすることにした。

ワークショップ本番

ここでワークショップの内容を実際のスライドを交えて紹介する。
これはスタートアップのみならず、あらゆる場面でも応用が効くものである。

スタートアップの失敗理由トップ5

事業に失敗したスタートアップ101社を対象とした事業の失敗理由は42%がマーケットのニーズがなかったことである。これは、サービスの開始前に本当に困っていることは何か、本当に存在する課題は何かを特定できていなかったのが問題である。また、アイデアにニーズがあるのかを検証することなく進めてしまったという失敗もよくある。このように課題の特定やニーズの確認をしないと、本当に着手すべきことを実行せず、無駄なことをしてしまいがちである。そして事業の失敗してしまう可能性が高い。
ボランティア団体がカンボジアへ井戸を掘りに行った話はこの失敗の例と言える。現地の人が腹痛・嘔吐・不衛生に苦しんでいる状況に対し、ボランティア団体はきれいな水を一刻も早く届けようと思った。ボランティア団体の努力によって現地に井戸が出来、綺麗な水を届けることに成功した。しかしその翌日、井戸は衝撃的な状態になっていた。バラバラに壊されていたのである。現地の人が井戸を分解し、部品を売りに出していたのである。なぜこのようなことが起こってしまったのだろうか。それはボランティア団体が本当の課題を理解していなかったためである。本当の課題というのは、現地の人々がきれいな水の価値を理解していなかったことである。現地の人は生まれた時から汚い水を飲んでいるため、当たり前だと思っていた。ボランティア団体がするべきだったのはきれいな水の重要性を伝え、その上で井戸を作ることであったと言える。この例では、課題をしっかりと特定しなかったことで、井戸の作成にかけた「想い・時間・資金」を無駄にしてしまったのだ。

失敗しないための方法論

質のいい、課題を発見するために、課題のブラッシュアップをすることが重要である。その上で解決方法のブラッシュアップをするというプロセスをとらなくては、失敗する確率は大幅に上がる。

Google Grassハンドレスでメッセージ機能やカメラを使えるなど画期的な製品のように見えた。しかし約17万4000円という価格や、見た目の奇抜さから思ったように売り上げが伸びず、2015年1月に販売終了してしまった。この失敗は技術者が作りたいもの、自分の技術力を見せつけられるものを作ってしまったのが原因だと言える。
これはあらゆる場面で起こりうる。なので、何か行動するときに、「誰のどんな課題か」、「課題解決の代替案はあるか」、「代替案で十分でないか」「それは痛みの大きい課題か」など対象とする課題に徹底的にフォーカスすることが必要である。その上で課題を解決するアイデアが考えるというプロセスをとるべきである。それを行うためにペルソナ設定をすることが重要だと言える。

Google Grassの失敗はこのペルソナを考え直すことで成功へつながった。Google Grassは手が離せない状況の多い、産業用途でのニーズを発見した。そこでペルソナを一般人から製造業、物流関係者へ、スマートフォンの代わりとしての用途から手の離せない仕事中のデバイスへと変更し、マニュアルや画像をハンドレスで確認できる、Google Grass Enterprise Editionを発表した。

本番を終えて

リハーサルの失敗から、内容を大きく作り直し、本当に伝えたいことが伝わる形に変更して本番を迎えた。フィードバックでは、リハーサルと比べて言いたいことがしっかり分かった。自分たちの活動に役立つと思ったという意見をいただいた。リハーサル後に変更したことでいい方向へ修正されたと感じた。

ワークショップの準備、開催してみて重要に感じたことは3つある

①本当に伝えたいことを絞って伝える

知識のインプット、資料作成を終えてリハーサルをした際、問題だったのが情報量の多さであった。参加者のフィードバックを見ると、本当に言いたいことがわからなかった。情報を詰め込みすぎて退屈だった。との意見が多かった。私たちは、インプットした情報は有益だからとにかく多くの情報を伝えたいと考えていた。しかし、それが逆に伝えたいことを伝えられない状況を招いてしまった。本当に伝えたいことは何か。これだけは覚えてほしいと思うことは何か。よく考えた上で、本番の資料作成をした。結果として本番では、分かりやすかった。伝えたいことが伝わってきたというフィードバックをいただくことができた。就職活動やプレゼンテーションなどをする機会は今後増えていくし、またオンラインで話をする機会もあるだろう。そういった時にも本当に言いたいことを絞るという心がけが相手を退屈させず、心に響かせるために必要だと感じた。

②インプットに間違いがないか確認する

私たちが取り扱った内容は、難しいものだった。本を読んでみて、自分でも理解できているか心配な部分があった。それを人に伝えるのはもっと難しいと感じた。私たちはインプットした情報を何度もチーム内で確認した。理解したつもりだった箇所に間違いがあれば、もう一度読み直すように心がけた。この繰り返しをすることでインプットが深くなり、しっかりと伝えたいことを伝えられるようになったと感じている。ワークショップでは、参加者に間違った情報を伝えてしまうことだけは避けなくてはならないと思う。そのために内容の確認、再インプット、再確認は必須であると感じた。私生活でも、すでに間違った認識は持っていると考えられる。間違えを見つけたとき、再インプット、再確認をしていきたい。

③チーム内で意見を言える関係値を構築する

私たちのチームでよかったと思う点が、気軽に意見を言い合える関係値を構築できたことだ。短い期間にチームとして動く際、相手の事が気になって思ったことを素直に言えないものだ。特にダメ出しをするのは勇気がいる。しかし意見を言い合うチームこそいいチームだと言える。部活動の仲間との関係がわかりやすい。部活動中に意見を激しくぶつけあったり、時には喧嘩をすることもあると思う。しかし、激しく言い合っても、信頼関係が崩れることはないであろう。時がたてば普通に接することができる。私たちはこの関係値を構築するために積極的に関係のない話や雑談をするようにした。またお互いの価値観など深いところまで話すこともあった。それにより、チーム内での壁はなくなり、お互いの意見に対して素直に思ったことを言える関係地を構築できた。そして全員の納得できるワークショップを開催できたと思う。いかなるチームでもこの関係値を築けば、よりよいチームになると感じた。

今後について

私たちはこのワークショップを通じて様々なことを学んだ。知識として学んだ以外にも、チームとしてどう動くべきか、ワークショップの構成はどうするか、どのようなスライドが伝わりやすいかなど様々なことを考え抜いたプロジェクトだったと思う。夜遅くまで会議をしたり、スライドの作成をしたりと、大変でありながら楽しいとも感じた。そして本番のワークショップをやりきって非常にうれしく感じた。この経験を、私たちは次の活動に活かしていきたいと思う。どんな活動にも生きる経験ができたと思っている。

参考文献

田所雅之(2017)『企業の科学 スタートアップサイエンス』日経BP社

--

--