ワークショップの質を高めるには?

yoshihiro kadota
workshop design project
12 min readDec 28, 2019

ワークショップの実施を通して得た学び

1.はじめに
①「浜松ラボ」とは、WSDPとは?

ラボ活動の様子

2019年4月より、「浜松ラボ」1期生としての活動がスタートした。一般の文系の大学では「ゼミナール(ゼミ)」と呼ぶところ、私たちは 「ラボラトリー(ラボ)」として活動している。「ラボ」と聞くと、研究活動のイメージがあろう。実際に、私たちはプロジェクトを企画・実行することで、社会における諸課題を発見し、新たな価値を創造することを目的とした研究活動を行なっている。座学を通して勉強する一般の「ゼミナール」とは異なり、プロジェクトを通した実践的な活動の場があることから「ラボ」と呼んでいる。

ラボで取り組んだ最初のプロジェクトは、「プロジェクトを進めるためにどんなスキルが必要か」を考えることから始まった。調査、情報分析、プレゼンテーション力、チームワーク、対人スキル、ライティング力、思考法、リーダーシップ、マネジメントスキルなど、多様な意見がある中、関心が近いメンバー同士でチームを組み、それらの理解を深めることにした。それぞれのチームごとに学びを深め、「ワークショップ」形式で人に教えることで、自らの学びをより深めるとともに、他のメンバーが学んだ内容もワークショップを通じて学ぶことを、「WSDP(Work-Shop Design Project)」と呼んだ。

WSDPについて議論するラボメンバー

②なぜワークショップのテーマを思考法にしたのか?

私たちのチーム5人は、上記のスキルの中でも特に思考法 に関心が深かった。その理由として、1つはこれからプロジェクトを行っていくうえで必ず必要になってくる、企画を立案するためのアイデア出しの方法を学びたいため、またもう1つは、論理的な組み立てで話の飛びや検討はずれな答えをしないようにするためである。

③メロンパンで世界を救うワークショップ

メロンパンで世界を救うワークショップ

私達はお客さん(ワークショップ来場者)に何を学んでほしいか、どんな時間を提供したいかを考え、「ラテラルシンキングとロジカルシンキングの基本的な考え方」を、「楽しく学んでもらう場を提供したい」と結論付けた。ラテラルシンキング(水平的思考法)を身につけることで、アイデア出しの幅が広がる。ロジカルシンキング(垂直的思考法)を鍛えると、自分の思考が整理され相手にこちらの意図をもれやダブリがなく筋道たてて矛盾なく確実に伝えられる。例えば、「アイスのスプーンが道に捨てられる」という問題に対し、「ゴミ箱を設置する」のがロジカルな発想であり、「スプーンも食べられるものにする」のがラテラルな発想である。 またお堅いイメージがある思考法をいかに楽しんで学んでもらうかと考え、ワークショップのテーマを「メロンパンで世界を救う」とし、お客さんに非日常的で楽しい空間を提供しようと方向性を決めた。なぜメロンパンかというとメンバー全員の好きな食べ物であったからである。

2.内容ついて

①リハーサルからのフィードバック

リハーサル中の写真

「メロンパンで世界を救う」ワークショップのリハーサルを行ったところ、1つの問題点が浮き彫りになった。それは、今回のテーマである「メロンパンで世界を救う方法を考える」ではラテラルシンキングでアイデアを発散したものを収束させる手段としてロジカルシンキングは適さないということだ。なぜかというと、ラテラルシンキングはとにかくアイデアを沢山出していく手法であり、そのアイデアを出す過程で「なぜそれが言えるのか?(so what?)」つまり妥当性の検証というものをしない前提で議論を進めていく。そのあとに発散したアイデアを収束、つまり絞っていく役割をロジカルシンキングに期待した。しかし今回のテーマである、メロンパンで世界を救う方法のアイデアをラテラルシンキングで出してもらうと荒唐無稽な意見ばかりでてしまい、妥当性を検証すると全てのアイデアが実現不可能という判断になってしまった。そのため今回のテーマでは、ラテラルシンキングでアイデアを発散させてからロジカルシンキングで収束させるという流れは適さないという問題がリハーサルから明らかになった。

リハーサル中の写真

②リハーサルの反省点を活かして、内容をどのように変更したか

リハーサルから得た学びを活かし、アイデアを発散させた後、収束させるに適した思考法を再度考えることにした。メンバーの1人が「アナロジカルシンキングを使ってはどうか?」と提案した。ワークショップの専門家が実施されているワークショップを体験に行った際、使用していた思考法がアナロジカルシンキングであり、今回の私たちの問題解決に最適と判断したためである。アナロジカルシンキング(類推的思考法)は、似ているものから着想を得る思考法である。

例として10円玉を挙げると…。

仕様の類似

10円玉って丸い!丸いって他に何がある?→地球、みかん、ボールetc…

10円玉って茶色い!茶色いって他に何がある?→カレーライス、落ち葉、熊 etc.のように、目に見える見た目の類似と、

意味の類似

意味合いの面で、財やサービスと交換できるという点がある。他にこの機能を果たすものって何がある?→クレジットカード、icカード、プリペイドカード etc.のように目には見えない意味の類似の2種類がある。

しかし、アナロジカルシンキングの注意点として

連想はアナロジーとは違う

10円といったら、うまい棒のような連想はNGである。

③自分達より詳しい人、先駆者を見習うのが一番の早道

自分達のやろうとしているプロジェクトに対して、必ず先を行っている人たちがいる。その人達がどのような活動をしているのかを実際に体験してみると新しい気付きが得られる。

今回のワークショッププロジェクトであれば、自分たちより十歩も二十歩も先を行く、プロが行うワークショップに実際に参加させていただいたことにより、運営面でもファシリテーション面でも大変参考になった。貴方が今やろうとしているプロジェクトに先駆者がいるのであれば、実際にその人のもとに行って体験してみると大きな学びが得られるかもしれない。

④ワークショップ当日のお客さんの反応

当日は学生の方16名、社会人の方1名の計17名の方に参加していただいた。アナロジカルシンキング のフレームワークを使用することによって、とても面白いアイデアが生み出された。テーマは近未来のメロンパン屋さんを考えるというもので、近未来のメロンパン屋さんの意味を以下のように定義した。

1.好奇心が湧くような​

2.新しい情報をもらえる​

3.知らない人と交流が生まれる​

これらの価値を実現している既存のサービスや似ているサービスは何だろうかという問いを参加者に考えていただき、その似ているサービスを構成している「意味」を考えていただいた。

好奇心が湧くようなサービスは、何が出てくるか分からないガチャガチャが、新しい情報がもらえるサービスは、YouTubeやテレビの広告が、知らない人と交流が生まれるサービスとして、Barや婚活サービスが挙げられた。それらをアナロジーの力で「近未来のメロンパン屋さん」に落としこんだところ、

簡単な質問に答えることで自分に合う最適なメロンパンを提供してくれる、マッチング自販機というアイデアが生まれた。

マッチング自販機

マッチング自販機とは簡単な問いに答えていくと自分の好みにあったメロンパンを提供してくれる自販機で、メロンパンを生成している待ち時間に自販機のディスプレイに広告が流れる。そして出来上がった後はイートインスペースで他のお客さんと交流しながら食べるという内容だ。

アナロジカルシンキングを使ってアイデアを発散した後、具体的な形に落とし込むことで、リハーサルで課題であった“収束の難しさ”を解決することができた。

⑤ワークを終えてお客様の声

ワークショップ終了後、参加者の方にアンケートを行った。「ワークショップで学んだことや発見したことがあれば教えてください」という問いについては、「メロンパンには食べる以外の魅力があることを実感した」、「新しい案を出すときにアナロジカルシンキングを使うことで普通では思いつかない案や需要のあるサービスを考え出せる可能性があると思った」、「日常に身近なことも思考法と結びついていることがわかった」等の意見をいただけた。

3.場所について

①場所の重要性

ワーク中の様子

「ワークショップを開催する場所をどこにするか?」これは費用という観点から見るのではなく、そのワークショップに来たいと思ってくれるかどうか、集客の1つの手段としてみることが大切だ。

貴方が何かイベントを開催するときも次のことを考えて欲しい。

「バイトを休んでも行きたい!」

とお客さんは思ってくれるだろうか?もし内容で上記の条件を満たせる自信がないのなら、「こんなすごい場所でイベントをするの?」と思わせるような魅力的な場所を選ぶことが一案となるだろう。

②えぇ!!と言わせる場所で開催するために

最初に目をつけたのはとある有名企業が運営するコワーキングスペースである。審査に通らなければ、そのスペースでイベントを開催することはできない。つまり、ここでワークショップを開催できるというのは、一定の基準をクリアしたことになる。また、普段利用することがあまりない非日常な空間であることが、この場所を選んだ理由である。

そこで、運営会社 に企画書を送り開催できるかどうかの連絡をしたところ「難しい」と言われてしまった。原因としては

  1. 先方のメリットを考えていなかった
  2. そこでやる必然性がなかった

上記の2つであり、私たちではその場所でワークショップをやる理由や企画との関連性を見出すことが難しかった。

その反省を活かして、私たちのワークショップとの関連性が高い場所を探し、さらに相手へのメリットをどう企画に盛り込むかを考えた。しかし関連性が高い場所はあげられるが、相手へのメリットがなかなか企画に盛り込めず悩んでいた。そこで相手へのメリットはないけれどお願いを聞いてもらえるような方法はないか?と考え、「相手への負担があまりないことをお願いする」ということに行き着いた。

この一件での反省から得た要素を考慮して、ある製パン企業に「空いている会議室を貸してくれないか?」というメールを行った。

なぜ製パン企業になったかというと、「2. そこでやる必然性がなかった」という反省を活かして、必然性を見出すべく、スーパーで売られているメロンパンを買い集めて一番美味しかったところに頼みに行こう!となり、メンバーで食べ比べたところ、その企業のメロンパンが一番美味しいという結論になったからである。

美味しいフジパンのメロンパン

③結果として

結果としては、「セキュリティーの都合上難しい」と回答された。ワークショップの開催場所は、学生が利用しやすいという理由から学生専用のコワーキングスペースを貸していただいた。

CAMPUS PLUSにてワークショップを開催

今回の場所探しのことで得られたことは、相手にメリットがあるかを考えること。また、そこでないといけないという必然性をあげること。そして、もしメリットがなければ相手に無理のないお願いごとをするように心がけることである。

4.最後に

参加者の写真

ワークショップの質を高めようとした中での学びは、ワークショップの内容から、アイデアを発散した後は収束させることができるフレームワークを選択すること、また自分がやろうとしているプロジェクトの先駆者がいるのであれば参加し、お話を伺いにいくと発見が得られるということである。

ワークショップをより魅力にするために場所の面で工夫し得た学びは、外部関係者に何かしらの交渉するとき、こちらが相手に提供できる価値から、相手へ妥当な難易度のお願いをすること、また相手とコラボする必然性を考えることによって成功する確率が高まるということである。

プロジェクトの質をあげたいと思っている人の一助になれたらと思う。

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