中村智里
workshop design project
13 min readAug 21, 2020

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大学生がご飯のお供を商品企画してみたら??

ラボとは

東京にある成蹊大学の経済学部には数多くのゼミナールが存在する。その中で私たちが所属しているのは浜松准教授の通称「浜松ラボ」である。なぜゼミナールにもかかわらず“ラボ”と呼んでいるのか。それはほかのゼミナールとは違い、密度が濃く時間をかけた内容に取り組んでいる様子が理系学生の研究室活動に似ているためだ。そんな浜松ラボでは、自分の興味のある分野で課題を見つけ解決し、社会に価値を生み出す「プロジェクト」を行うことを推奨している。

ワークショップデザインプロジェクトとは

浜松ラボに所属する3年生は毎年ワークショップ(以降WS)を一から創り出し実施する「ワークショップデザインプロジェクト」を行う。各自興味のある分野をいくつか挙げ、同じ分野を選択した学生がチームとして自分たちなりのWSを創りあげるのだ。今年実施したWSの分野は地域活性化・経営戦略・スタートアップ・人間行動・食・情報発信の6つ。どのチームも7月中にWSを実施し、8月には記事を発信している。

なぜ食を選んだのか

紹介が遅れたが私たちは前項の6つの分野から食を選びWSを実施した3人組である。当初私たちはそれぞれ食の中でも違うテーマに興味があった。それは純喫茶やカフェの調査、製菓やスイーツの開発、食品パッケージの色彩というものだった。ここで初めて食分野の領域の広さに気づき、WSテーマの決定までにたくさんの時間がかかった。しかし私たちには共通点があった。それは食べることが大好きだということだ。そこから新型コロナウイルスの流行も相まってどんな状況でも食は生きる上での楽しみであり、欠かせない大事なものという共通認識ができたのである。また、日本国内で白米の消費量が減少しているという問題を知り、白米の消費量増加へのアプローチを図りたいという思いも一致した。そのため私たちはWSの実施を通して食の大事さと白米のおいしさを伝えることにした。

WSとは

ところで皆さんはここまでたくさん登場した「WS」という言葉をご存じだろうか。参考文献(1)によると「創ることで学ぶ活動」である。「WS」の語源は“workshop”であり、物が作られる場所を示す言葉から派生したものだ。WSの利用目的はさまざまだがどんなWSでも創り出すことと学習することの2つが行われている。

WSには基本構造がある。それは導入、知る活動、創る活動、まとめという流れだ。導入では参加者に向けて実施するWSの概要を説明しアイスブレイクなどを行う。知る活動では新しい情報や知識の提供を行い、創る活動では学んだ知識をもとに課題解決のためのグループワークに取り組み考えたことを発表する。最後にまとめでは参加者の発表に対しフィードバックを行いWS全体のまとめをする。この流れはどのWSにも共通している。

またWSをデザインする過程として企画・運営・評価の3つがある。企画ではWSのコンセプト生成とWSのプログラム生成を行う。運営ではWSの広報と当日のファシリテーションを行う。評価ではWSの内容がどのくらい参加者に伝わったか、どのくらい取り上げた課題が解決に向かったかを評価する。長期間のWSではこの流れを繰り返し行うことによって質の高いWSが開かれるようになる。

7月に開催した私たちのWSでは、WSとは何かを知ったうえで本題の商品企画や思考法に触れていった。

チームを結成してからリハーサルまでの流れ

私たちはチーム結成からリハーサルまで、様々な困難に直面した。その中でも1番大変だったことは私たち3人が納得できるWSのテーマに出会うことだった。最終的には今回のWSのタイトルでもある「ご飯のお供選手権」というテーマに辿り着いたのだが、それ以前は和菓子の商品企画についてのWSを開催しようと考えていた。しかし新型コロナウイルスの影響もあり、オンラインだけでは和菓子屋さんにアポを取るのは難しいと判断し、また残り2ヶ月という短い期間で和菓子の商品企画をするのは難しいという考えになり断念した。その後3人で何度も案を練り直し、たどり着いたのがご飯に合うお供の商品企画を考える、という今回のWSのテーマだった。

また、リハーサルまでに浜松ラボのLA(ラボラトリーアドバイザー)の方々にもZoomで相談に乗っていただき、自分たちだけでは気づくことができてなかった問題点や、本を読むだけでは理解できなかった商品企画についてなどを学ぶことができた。アドバイスをくださったLAの方々には、感謝の気持ちでいっぱいだ。

「ご飯のお供選手権」というテーマに辿り着いてからは週に2〜3回ほどZoomで会議をし、インプットした本の共有・実際のWSの内容・食パンデモンストレーション(ご飯のお供選手権の食パンバージョン)について・リハーサルについて・今後の予定・次回までにやるべきことなどについて話し合いを重ねた。

リハーサルのフィードバック

WSのリハーサルに参加してくれた方に実施したアンケートの中で良かった点と改善点が見つかった。

良かった点は2つあった。1つ目は「楽しかった!」という声が多かったことだ。WSを楽しんでもらいたいと考えていた私たちにとってこの感想はとても嬉しいものだった。2つ目は、スライドの上部に今どこの説明をしているか分かる図を入れていたため、「今どこの説明をしているのか分かりやすかった」「スライドが見やすかった」という声も多かった。

一方で改善すべき点5つに気づくことができた。1つ目は参加者が商品企画シートに記入する内容が重複しているように感じる欄があったということだ。2つ目はグループ分けについてで、ペルソナが女子大生のため男子だけのグループはグループワークが少し大変だったというものだ。3つ目はスライドを進めるのが早くてメモを取るのが追いつかなかったとのことだった。4つ目はグループワークの内容についてで、味付けや商品の組み合わせなどをどこまでしていいのかわからなかったというものだった。以上の4つは参加者のアンケートから気づくことができた。またリハーサルをする中で、途中でスライドが動かなくなってしまうというトラブルも発生し、運営上の改善点にも気づくことができた。

リハーサルの反省を活かして内容をどのように変更したか

リハーサルから改善した点は、大きく分けて5点ある。1点目は、商品企画シートについてリハーサルよりも詳しく説明し、参加者が記入しやすくなるのを心がけたこと。2点目は、男女どちらもグループに入るように事前に参加者のチーム分けを行なったこと。3点目は、メモを取った方が良いスライドには星マークをつけ積極的にメモを取ってもらうようにし、ゆっくり話すことを心がけたこと。4点目はご飯のお供の商品企画において、組み合わせや味付けなどをどの程度行なっていいのかの説明をリハーサルより詳しく行なったこと。5点目は、当日の発表時にスライドが動かなくなるトラブルに備え、スライド担当者以外の2人もすぐにスライドを開ける状態にしておくこと。以上の5点を主に改善した。

ご飯のお供選手権を含む当日のワークショップの内容

当日のワークショップは、WS概要説明→アイスブレイク→商品企画とは→アイデアの出し方→ご飯のお供選手権概要説明 →グループワーク説明→グループワーク→発表→FB・アンケートという流れに沿って行った。時間は1時間半を予定していて、当日も時間通りスムーズに進めることが出来た。

商品企画

ここからは商品企画について少し説明する。商品企画は、参考文献(2)の本を参考にインプットを深めた。私自身今回WSを開催するまで違いを理解していなかったのだが、商品企画と商品開発は別のものだ。商品企画は、アイデアを出し合って新商品を企画していくもので、商品開発は商品企画のアイデアをもとに、実際に新商品を開発していくものだ。商品企画は、情報の収集・整理→ペルソナの設定→アイデア出し→企画にまとめるという流れに沿って行われる。もちろん、この作業だけではないがWSでは時間が限られていたため、この4点について詳しく説明した。ただ文字で参加者に説明するのではなく、図や写真を取り入れ例を使って説明をし、初めて商品企画に触れる人も分かりやすい内容になることを心がけた。

考え方について

私たちはWSで商品企画を考えてもらうためのツールとして

・ブレインストーミング

・オズボーンのチェックリスト

上記の二つを紹介した。

ブレインストーミングとは

集団発想法の一つで、複数人で1つのテーマについてアイデアを出していくものだ。「三人寄れば文殊の知恵」というように、あるテーマに向かって参加者がアイデアを出し合い、融合させることで、一人では思いつかなかったような斬新で質の高いアイデアを発見し、新たな解決策の創造につなげることができるのである。

ブレインストーミングを行う際に4つのルールと3つのコツがある。

ブレインストーミングの4つのルール

1 .他人の発言を批判しない

2. 自由奔放な発言を歓迎する。夢物語でもよい

3 .質より量を求める

4. 他人のアイディアに便乗する

ブレインストーミングの3つのコツ

1. 目的を明確にする

2 .競争感覚を忘れない(一番多くアイデアを出した人を目指す)

3. 役割分担を決める (司会進行、書記など)

オズボーンのチェックリスト

アイデアを考えていく上で煮詰まったときの考え方の指針になるものとして、オズボーンのチェックリストを紹介した。オズボーンのチェックリストは9つの項目があるが、これら全てを使う必要はなく、アイデアを考えたいテーマに合った項目を使う。

オズボーンのチェックリスト

1.転用したら? 現在のままでの新しい使い道は?

2.応用したら? 似たものはないか?真似はできないか?

3.変更したら? 意味、色、動きや臭い、形を変えたらどうなる?

4.拡大したら? 大きくする、長くする、頻度を増やす、時間を延ばすと?

5.縮小したら? 小さくする、短くする、軽くする、圧縮する、短時間に す ると?

6.代用したら? 代わりになる人や物は?材料、場所などを代えられないか?

7.置換したら? 入れ替えたら、順番を変えたらどうなる?

8.逆転したら? 逆さまにしたら?上下左右・役割を反対にしたら?

9.結合したら? 合体、混ぜる、合わせたらどうなる?

今回はこの2つの考え方を用いて「ご飯のお供選手権」のグループワークを行ってもらった。

ワークショップ当日のお客さんの反応

WSには20人程の学生が参加してくれた。WSのテーマが「食」という身近なものであったこともあり、和気あいあいとした雰囲気で行うことができたと思う。ご飯のお供を考えてもらうグループワークでは、どのチームも盛り上がっており、最後に班ごとに発表してもらったアイデアは、私たちでは考えつかなかったアイデアばかりで、私たちが参加者の自由な発想に学ばせてもらった。

ワークを終えてのお客さんの声

WS後に参加者に回答してもらったアンケートには「とてもおもしろくて、楽しく学べるワークショップでした。食だけでなく、他の場面でも応用できる内容で良かったです。」との声や、グループワークがとても楽しかったです!!人の意見を否定しないで上手く乗ってみることの大切さに改めて気づきました!お疲れさまでした!楽しかったです。」などの意見があった。「ご飯のお供選手権を楽しめましたか?」の項目では回答者の100%が楽しかったと回答してくれた。WSを開催する中で目標にしていた「参加者に楽しんでもらう」ということが達成できた。WS開催までの準備は大変だったが、苦労が報われた気持ちになった。

審査会について

WS開催後、グループワークで出た案の審査会を行った。審査基準はWSで提示した通り、

1.商品企画シートの一貫性

2.ネーミング

3.新規性

4.実際に作れるか

5.ペルソナ・コンセプトに沿っているか

上記の5つであった。審査会はZoomで行い、教授やLAの方々にも参加して頂いた。アンケート項目の3・4・5は私たち3人が実際に参加者に考えてもらった商品企画シートをもとに調理して審査した。実際に調理することで、材料のコストや、調理工程の容易さを図ることができた。

審査の結果、優勝したのはライスムージーであった。実現可能性が高い点や、白米をスムージーにする新しさがありつつも、甘酒という根拠がきちんとある点が評価された。また実際に作ってみて、美味しく満腹になるものであった。このアイデアの改善点としては、ミキサーを用いるため、片付けに時間がかかってしまうという点があった。私たちがペルソナで指定していた朝時間がない女子大生の「時間がない」の部分を明確に参加者に伝えることができていなかったという反省点が浮き彫りになった。参加者の案をフィードバックしたことで、私たちの伝え方についての改善点も得ることができ、審査会では有意義な学びを得ることができた。

↓優勝したライスムージー

牛乳、雑穀ご飯、卵1個、バナナ0.5本、蜂蜜をミキサーに入れて調理した。味は想定した以上に美味しかった。下部にご飯が沈殿していて、腹持ちも良さそうだ。

感想

今回私たちは初めて、「自分達の力で1からWSを作り上げて開催する」ということを実践したのだが、これは想像以上に大変だった。コロナの影響によりオンラインでしかチームメンバーとコミュニケーションが取れないこと、WSとは何かを理解するまでに時間がかかったこと、集客がとても大変だったこと、WSのために時間を費やすこと、少し思い出しただけでも大変だったことは沢山ある。しかし、WSが終わった今となってはこれら全てのことが学びに繋がり、私たちの糧になったと感じている。私たちがWSを通して学んだことは沢山あるのだが、その中でも印象に残っている事が2つある。それは、知識をアウトプットする大切さとチームワークの大切さだ。なぜなら、1つ目の知識をアウトプットする大切さについては本を読んで得た知識をWSで参加者に教えることで、さらに自分たちの学びを深めることができたと思ったからだ。2つ目のチームワークの大切さについては、よりよいものを創りあげていくためには何でも言える環境が必要であり、かつ批判をしないことだと思う。どちらを欠いてもぎこちなさが生まれたり、中身のないものになってしまう。今回のWSはチームのメンバーで協力し妥協しないで来たからこそ参加者に楽しんでもらい、私たちにとっての新たな学びや発見ができた。ここまで一緒にWSを創りあげることができたチームのメンバーと、協力してくださった教授やLAの方々に深い感謝の気持ちを伝えたい。

参考文献

(1)山内祐平ほか(2013)『ワークショップデザイン論―創ることで学ぶ』慶応義塾大学出版会.

(2)富永朋信(2018)『デジタル時代の基礎知識『商品企画』―「インサイト」で多様化するニーズに届ける新しいルール』翔泳社.

(3)加藤昌治(2003)『考具 ―考えるための道具、持っていますか?』阪急コミュニケーションズ.

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