実践躬行 プロジェクト運営のすゝめ

ゼミと「ラボ活動」の違い

Daiki Norigami
workshop design project
14 min readSep 10, 2019

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皆さんは経済学部のゼミと聞いて、どのような活動をイメージするだろうか。私たちゼミの活動は、もしかしたら皆さんのイメージとは少し異なるかもしれない。というのも少数の学生が特定の分野に対して勉強を行うゼミナールとは少々異なるのだ。「プロジェクトを作る」という実践を通してその分野に関する学びを深め、深めた学びからプロジェクトの内容を構築する。そしてそのプロジェクトの完成に向けて自ら行動することで、新たな価値を生み出すことを主として活動しているからだ。なのでどちらかというと理系の研究室のようなものに近いと言える。故に私たちは自分たちの活動を「ラボ活動」と呼んでいる。

我々ラボの先生。第一回目の活動にて。

教えることを通じて学び、加えて他者からも学ぶ”WSDP”

そんなラボ活動の中でも、ラボメンバー全員が今後のプロジェクトにおいて必要だと思うスキル(例えば情報分析やマーケティング、ロジカルやラテラルな思考力など)を挙げ、関心のある人が集まって学び、それぞれワークショップ(以下WS)を開催する。教えることで自らの学びをより深めるとともに、他のメンバーが学んだ内容もWSを通じて学ぶことができるというものである。これは「WSDP(Work-Shop Design Project)」と名付けられ、前期のラボ活動の核とも言える非常に重要なプロジェクトであった。

私のグループは「対人スキル」に関するトピックを選んだ4人が集まり、ひとつのチームを作った。対人スキル」と一口に言っても、チームビルディングや第一印象の4分5秒でいかにして良い印象を与えられるかの心理的ノウハウ、またごますりの方法など、かなり多くの要素を含んでいる。当初これら全ての良いとこどりをしたWSを検討したが、いまひとつ方向性が定まらず、行き詰ってしまった。そこで我々は原点に立ち返り、なぜ「対人スキル」に関心を持ったのかメンバーで話し合ったところ、「対人関係面での自信のなさ」が根底にあるという共通点を見つけることができたのだ。そこからチームメンバーで「対人関係への自信のなさ」をどう克服するか考えたところ、まずは自分への自信をつけることが重要だという結論に辿り着いた。ここから自信をつけるには人を褒め、そして人に褒められるというサイクルを作り出し、徐々に自己肯定感を高めていくことで対人関係に前向きな気持ちを持てるのではないか、という考えをチームで導き出した。そこで、「褒め」をテーマとしたWSを開き、新たな価値を提供しようという私たちの「WSDP」が始まった。

しかし、我々は「褒める」ことを他人に教えられるような実績はなく、また専門家のようにトピックに関する造詣が深いというわけではない。仮に「褒め」を学びたいという人が多数いたとしても、我々のような学生のWSに参加してくれる人はいないのでは、という壁にぶつかった。そこで我々は専門家にインタビューする、チームで褒めるに関連する100冊の本を読むなどの目標を立て、WSに参加してもらえるような実績作り、知識収集を始めた。インタビューに関しては心理学や組織論の専門家の大学の先生に依頼をした。インタビューを通して、褒めることは押し付けではなく相手への助言であるということを意識することが重要など、相手の気持ちを汲み取る大切さを学んだ。やはり、普段からコミュニケーションを大切にされているおふたりだからこその説得力があるお話を頂くことができ、WS完成への光が広がった。そして今回100冊読むことができず、およそ30冊ほどしか読めなかったが「褒める」に関する本を読むことで、どの本にも共通して述べてられているテクニックや効果を発見することができた。正直褒めるに関連する本自体が少なく、30冊でも充分すぎるほどであった。そしてその共通項を一番上手にまとめている本が齋藤孝先生の『ほめる力』(筑摩書房、2018年)であると我々は判断し、その本の内容と自分たちが実践して得た経験を基に今回のWSを構成することにした。

チーム会議のホワイトボード。これを機に「褒め」へと舵を切ることに

「褒める」こと

「褒める」には、モチベーション向上、良い信頼関係の構築、話のきっかけ、自己肯定感向上など様々なメリットがあり、それが組織や個人のコミュニケーション能力において重要な要素になりうる。

中でも我々が「褒める」ことにおいて最も重要だと考える力は「観察力」である。

まずあなたが相手を褒める立場にいると想定してほしい。仲の良い友達や家族など付き合いが長い方々の場合は、良いところをたくさん知っていて、いろいろな褒め言葉がすらすらと出てくるかもしれない。しかし、これが初対面の人だったらどうだろうか。外見からわかる褒めなどは、正直既に他の誰かが褒めているだろうし、当てずっぽうに相手を褒めてしまうと、かえって機嫌を損ねるような結果になる恐れもある。もしかしたら発した安易な「褒め」に実はほろ苦い経験があったり、この人も自分のここにしか良いところを見出せないのかと、呆れられてしまうなどが想定できる。なので褒める際には相手に誤解されることなく褒めなければいけないのだ。そのためには、いくつかのポイントがある。

一つ目は「相手を認める」ことだ。予備知識なしに最初から人を褒めるというのはかなり難しい。なので最初は相手のことを認めようという姿勢を持つことから始めると良いだろう。(参考 齋藤孝先生の『ほめる力』(筑摩書房、2018年))

そして二つ目は「短所を長所と捉える」ことだ。例えば周りの空気が読めないと感じる人がいるとする。一見組織においてマイナスな要因に思えるがこれをポジティブに捉えれば、自分の意見をはっきり言える人といえる。

短所は長所に変えることができる

しかし明らかな欠点を無理やり長所と捉えすぎるのは根本的な問題の解決に至らないため逆効果となる恐れがある。なので我々のアドバイスとしては、相手にこのことを伝えるとき、初めにプラスの側面を述べ、そのあとに改善してもらいたい点を指摘し、最後にプラス面を再度伝えてフォローを行う「上げて、少し下げて、上げる褒め方」を行うことをお勧めしたい。

三つ目として、良いポイントを具体的に褒める、結果よりその人の努力したプロセスを褒める、などの褒め方も有効だ。なぜならば結果は誰しもが褒める要素であって、そこを褒めてもワンオブゼムにしかならない。結果を得るためには、そこまでの努力や苦しい経験などのプロセスがあり、人はそこに共感を得てもらうと、そのプロセスも正しかったのかという達成感と安心感、そして褒めてくれた相手への信頼を抱くのだ。

しかし、これらのポイントを使いこなすことは容易ではない。相手がどんな人なのかよく観察しなければ、どこを褒めるべきかわからないからだ。そこで「観察力」が必要になってくる。観察力を向上させることで、相手の良いところを見つけやすくなったりする。相手が努力した部分を見つけやすくなったり、相手が褒めてほしいと思っている部分を見極められるようにもなるだろう。このように観察力は、「褒める」の基盤として、褒めの質を上げるのに一役買っている。自分のがんばったことを他人に認められると嬉しさを感じるし、それによって自己の承認欲求も満たされることとなる。つまり、「相手がどう思うか」ということを考えながら「褒め」を使いこなすことができれば効果的だ。加えて褒められた相手には、お返しをしなければいけないと感じる人間の心理(返報性の原理)が働き、自分も褒められやすくなる。それが繰り返されることで褒めの連鎖が生まれ、先述した良好な信頼関係の構築やモチベーション向上などのメリットも返ってきやすい。

「恩返し」の考え。特に日本人に顕著に現れる。

観察力を鍛える第一歩としては、砂漠や空などの何の変哲もない風景に対して、それの良い部分を見つけるというのが効果的である。観察力の中で重要なスキルであるまず対象を認めた上で、あらゆる情報の中から「褒め」の果実を見つけ出す力をつけるにはこのようなワークが良いとメンバーで話し合い、今回のWSでも荒廃した家屋の画像を用いて参加者の方々に褒めポイントを絞り出してもらった。他にも、すれ違う人を観察して褒めるという練習もすることも効果的である。観察力を鍛えると誰も気づかないチャンスを発見できたり、プロジェクトの 問題点にいち早く気づき、大きくなる前に未然に防げたりと、褒めること以外でもかなり役に立つため、非常に応用の利く力だといえる。社会に出れば重要な決断を自らの手で行う機会が増えてくるが、そんな時にも観察力の有無で大きく結果は変わるだろう。褒める力の向上に伴う観察力の向上は、組織において百利あって一害なしの非常に便利で重要なものであると言える、というのが我々のWSで伝えたかった内容である。

一例。ぜひこの風景からいい部分を見つけてみてほしい。

WSを通じて生み出した価値

今回我々はWSを開いたことでラボ活動の目的でもある「新たな価値」をいくつか生み出した。

第一に、上記で述べた「褒める」ことに関する知識を得るために、書物を読み、インタビューをし、読者の皆様に最適解ではないが、参考資料となるくらいの要約を作成したことだ。普段読者の皆様は褒めることに意識を置いているだろうか。もし特に意識したことがない、意識しようとしているが、どうすれば良いかわからないという方がいらっしゃればこの記事の有益と思える情報を実践していただきたいと思い記事を作成した。

第二に、プロジェクトをデザインする上で「すべてが思うほど上手くはいかない」という学びである。プロジェクトは数人で集まって行うものであるため、各メンバーの「時間」「キャパシティ」「得意不得意」の把握及び管理を行わないと、スムーズに進めることができない。特にコミュニケーションに関しては、適切な手段を設定し、積極的に機会を設け、メンバー同士で意見の交換を行わないとチームとしても個人としてもモチベーションが続かず、プロジェクト自体が硬直してしまうことを体得した。

実際に我々のグループでも、皆の予定が会わず意見交換の頻度が下がった期間は、進捗状況が芳しくなくなっていたと感じる。つまりプロジェクトを運営する際は一人一人が自主性を持って自分から発言、提案をする必要があり、その声を受けたメンバーは、プロジェクトをより良いものにするために絶えず新たな意見や案、批評を加えるなどして、常にプロジェクトを稼働させ前向きに続けていく必要がある。プロジェクトにおいて止まることは「致命傷」なのだ。その「致命傷」を避けるためには、常に下方修正も考慮しながら行動し、いざ問題が起こった際に適切に対処できるようにメンバー間で準備を怠らないことだ。

第三に、WSのデザインに関する知識、ノウハウを得たことである。

・集客、会場確保、当日の役割分担、費用

挙げだしたらキリがないが、特にこの四つに関してはWSを運営したから得ることができたものである。

例えば会場確保についてだが、私は自分たちのWSを運営する上でのニーズを満たしてくれる会場を抑えることが重要であると考えている。

今回私たちの会場に対するニーズが2点あり、それが

・お金がかからない会場

・スクリーンがある会場

・大学以外

この3点であり、この3点を満たしてくれる場所というのは中々無い。そんな中秋葉原にある学生専用のコワーキングクペース、キャンパスプラスの代表の方に自分たちのお話を聞いていただいたところ、条件付きでならば無料で貸してくださることになり、無事上記の3点を満たす会場を確保することが出来たのだ。

キャンパスプラスにて

もし有料のコワーキングクペースを借りることになっていたならば、お客の方々から参加費を徴収しなければならず、その分自分たちのコンテンツを充実させなければならない。今回は会場を無料で使わせていただいたので、参加費をいただくことはなかったが、次回はコンテンツを充実させることができたならば、有料で開催し、よりプロフェッショナルな運営をしてみたいものである。さて、私たちがキャンパスプラスを確保するまでに得た教訓は、もし会場を確保したいと考えたならば、一度でもその場に行くなりその会場に従事する方とお話をして、しっかりと自分たちのニーズを満たすことが出来る会場なのか、当日の運営をしていく上で不自由なく行えそうなのかを見極めることが大切であるということだ。今回私たちは実際にキャンパスプラスに足を運び、会場のレイアウトを見たり、スタッフの方々とお話をさせていただくことで、当日若干のハプニングこそあれど、スムーズに進行することが出来たのだ。結局のところ、下準備はどのようなことにしても大切なのだ。

また集客についても勉強になることが沢山であった。今回私たちが行った集客方法は

・各自のSNSでの宣伝

・街頭でのチラシ配り

であった。

SNSに関しては知人に声をかけるようなものなので、ある程度の集客効果があり、SNS経由で来てくださる方が沢山いた。

チラシ配りに関しては私たちの準備、力不足ということもあるが、効果は薄いように思える。まず、チラシを街の道路で配る場合には警察で道路使用許可を得ないといけない。この許可を得るために2000円以上(場所の規模により上下する)払わなければならず、他の集客方法と比べてコストのかかる手段となってしまう。また道行く方々にチラシを見せて渡そうとするまでに、ほんの2、3秒ほどしか私たちに猶予は無く、その間に出来る限りの想いを伝えなければならない。それは正直難しすぎる。

私たちは秋葉原駅の昭和通り口広場の前で17:30–19:30の間、チラシ配りを行い、一応30部以上は道行く方々にお配りすることが出来たのだが、チラシを見たといって来てくださった方々は一人もいなかった。やはり2、3秒ほどしか会話もできず、チラシのみでしかWSの情報を取り入れることが出来ない方々が来るほどのインセンティブを与える力が私たちには無かったのだ。

もしチラシ配りを行う場合は下準備とターゲット層を明確にして、そのターゲット層がどの辺りに集まりやすいかなどの予測、分析を絶対にするべきである。下準備の大変さ、精神的負担、金銭面などを考慮するとあまり得策ではないかもしれない。

私は次回WSを別の題材で開催するとしたならば、まず発足時にメディアを作り、WSに関連する情報を発信し続け、ファンを獲得し、その方々にWSの宣伝をすることが今の時代の集客法の中で一番効果的であると考え、次回のプロジェクトではウェブやSNSを作ろうと考えた。

実際に配ったチラシ

第四に、「一緒にプロジェクトをする仲間」である。4人のチームメンバー以外にも、ラボの他のメンバーが客観的な視点で幾度となくアドバイスをくれたことで、我々のWSがかなり磨かれていったのは間違いない。だがとりわけチームのメンバーの力がとてつもなく大きかったと私は感じる。良いアイディアが浮かばないときはとことん一緒に考えてくれたり、褒めに関する情報収集の大部分をやってくれたり、困った時は必ず手を差し伸べてくれたりと今思い返すと一人では成功に到底辿り着けなかったと確信している。

今一度我々のチームのWSを振り返ると、動き出しの遅さやメンバー同士のコミュニケーション不足、集客力の不足など多くの反省点がある。しかしこれらの経験は一度プロジェクトを実行しない限り「絶対に」得ることはできなかったもので、ここで得た経験をフル活用して、次のプロジェクトを行うときには反省点を全てプラスに変え、より濃密で価値のあるものを提供できるよう努力していこうと思う。

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