[x-Music Lab 21秋] Clothes Synthesis/Invaded &Aided Presentation

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x-Music Lab
Published in
Feb 6, 2022

環境情報学部2年 柴田

2021年度秋学期、藤井研x-Music Labの一員としての活動の中で、とりわけ“Clothes Synthesis”と“Invaded vs Aided Presentation”の2つの作品制作について、記していく。

Clothes Synthesis

2021年11月16日(火)、 11月17日(水)の二日間、x-Music Lab主催で横浜大さん橋にて展覧会を行った。x-Music Labのメンバーと先生方で日々アップデートを繰り返しながら制作された、未知なる音楽の作品の数々を披露した。

私はこの展示会に向けて、神田さんと長瀬さんとの3人のグループで、先学期からClothes Synthesisという作品の制作を行っていた。

この作品は、身体運動によって擦れる服の音から生みだす音楽の即興パフォーマンス作品で、「身体運動×服×音」の関係性から、新しい音楽の可能性を探求したものだ。

展示会では、1時間に1度の間隔で約10分に及ぶパフォーマンスを行い、2日間で合計11回ほど演奏を披露した。

この作品では、パフォーマーの身体の動きは常に、身にまとった布によって制限されていて、その制限の中で生まれた動きによって布から音が生じる。生じた音はマイクに拾われて増大されると同時に、もう一人のパフォーマーによって即興でエフェクトをかけられてからスピーカーを通して出てゆき、会場の大さん橋ホールにその場限りの音を奏でる。布の形態はパフォーマンスの間に変化し、次の新たな動き・音が展開されていく。それぞれのパフォーマーは同じ空間で音と身体を通しコミュニケーションをとりながら、必然的・偶発的に音楽を奏でていく。

服の変化の構想
右から順に、第1形態に用いたメッシュ素材の布、第2形態に用いた伸縮性の良い布、第3形態に用いた透ける繊維の強い布

服の材質と形態は、先学期から本番直前まで、様々な布の音を聞いたり様々な動きを試したりする中で辿り着いたものを採用している。

布の音は、素材や音を拾うマイクの種類で全然異なって聴こえる。さらに同じ布を使っても、ゆっくり擦るか、素早く摩擦させるか、はためかせるか、爪で引っ掻くか、など、扱い方によって異なるピッチや音質に聴こえる。この作品内で布がどう動くかというのは、布を纏ったパフォーマーの動きに連動する。今挙げたような布の音の違いは、実際に布を色んな纏い方をしながら、色んな動きをしながら聴き分けていったものの一例だ。

布の様々な音に出会うためには、動きのバリエーションも必要だった。そこで私たちは動きを探求する際、「拘束」という手段を用いていた。試行段階では、布自体やゴム、紐、つっかえ棒などを用いて、関節を固定したり可動域を限定したりすることで、ある拘束をされた状況での“それしかできない”動きを見つけていくようにしていた。パフォーマンスのために作った服は、そこで得た新たな動きと音のパターンを再現できるような構造にしている。

「拘束」という手法は、この作品のコンセプトにも大きく貢献している。私たちはこの作品を通して、どのような服だとどのような身体への制限が生まれ、それによってどのような動きが誘発されその結果どのような布の音が鳴るか、という“必然的なパターン”のようなものを感じてほしいという思いが少なからずあった。そして、パフォーマーがどのようにでも動けてしまうと、動きと音の連動性が見出しずらくなってしまうという難しさがあったのだ。制限された動きと、その要因となってる拘束されてる様子をわかってもらうことで、その時々で音がどうであるか、3要素の関係性も伝わりやすくなると考えた。

結果、布テープでぐるぐる巻きにされていたり、如何にも動きずらそうな筒を通るセクションが有ったり、「拘束」されてる状態が見てわかるような服ができあがった。私たちが感じた、動き・服・音の“パターン”を探すことへの面白さも、少しは作品にのっていたら嬉しく思う。

ここで作品のシステムについて触れておきたいと思う。先ほど軽く述べたが、どんなマイクを用いるかはこの作品にとってかなり大きな問題だった。今回はコンタクトマイクを用い、ワイヤレスでインターフェイスに届ける方法を採用した。コンタクトマイクにした理由としては、主に、ハウリングを防げる、小さいためパフォーマーの動きに影響を与えずらい、純粋な布の音を採集できる、といった点が挙げられる。

コンタクトマイクはパフォーマーの頭部、片脇、片肘、片膝、片つま先の5か所に着け、外れないようにマジックテープで固定した。

テックライダー

コンタクトマイクで拾われインターフェイスに集められた音は、パソコン内のDAWでエフェクトをかけられる。そのエフェクトをかけるパフォーマーも、MIDIコンを用いて即興でパラメータを操作した。もう片方のダンサーを見、音を聴きながら、時に音を強調したり音色を与え、ダンサーの動きとセッションした。結果、より豊かで新鮮でその場限りの音楽が奏でられることになった。

Invaded & Aided Presentation

上記の展示会が終わった後は、2021年度秋学期の最終発表として披露することを目標に、星野さん、江村さんと共に新たな作品制作に取り組んだ。Invaded & Aided Presentationという作品で、催行が決まっていた研究会の今学期の最終発表のプレゼンテーションの時間をパフォーマンスに用いた作品だ。

オンライン上で、プレゼンテーションの音声がエフェクトによって歪められ、また戻されることにより、言葉の伝達と非伝達の狭間を生み出すパフォーマンスになっている。

プレゼン者が台本を読み上げ、その音声が聴取者に伝わるまでの過程に、2人の人間が介入している。それぞれ阻害者と修繕者という役割が与えられており、その目的に従いサウンドエフェクトを操作している。音声の変容と修正がせめぎあうことで、言葉は意味と音の狭間を彷徨う。最後に載せる台本に、その仕組みが詳しく書かれているので是非読んでいただきたい。

システムとしては、TeamViewerというパソコンのリモートコントロールアプリと、AbletonLiveというDAWを用いている。

Abletonには3つのトラックが用意されていて、それぞれのトラックに、異なるエフェクトのセットがあらかじめ挿入されている。エフェクトのいくつかのパラメータにはキーマッピングを施していて、設定したキーを押せばエフェクトのあるパラメータの機能をオンオフさせたり数値を上下させたりすることができるようになっている。そこに、リアルタイムで読み上げられた音声が入ることで、音声を操ることが可能になっている。

台本

みなさんこんにちは。環境3年の星野良太朗と、環境2年のマイケルこと江村泰真と環境2年柴田莉莎子のチームです。私たちは、”x-Michel”というチーム名で、約1ヶ月作品制作をしてきました。

さて早速、この一ヶ月作ってきた作品の紹介をさせていただきます。作品名は、「Invaded & Aided Sentences」です。この作品は、台本の読み上げとその聞き取りの過程に注目し、それを利用、改変することによって、言葉の伝達と非伝達の狭間を目指すものです。その狭間に挑戦するために、実際に私たち自身が読み上げを妨害、そしてそれを修繕する人に分かれ、パフォーマンスを行います。それぞれ読み上げ担当は星野、妨害担当はマイケル、修繕担当は柴田です。

私たちが台本の読み上げについて注目した理由について説明します。 台本の読み上げを聞く体験、たとえば朗読を聞くなどは、その体験自体はありふれたものですが、文字を目で見て理解することや、日常的な会話を聞くことと比較すると、不思議な体験だと捉えています。その理由は、文字を目で追うよりも多くの情報が付加されていることや、朗読で使う言葉が日常的な会話で使う言葉と異なるからだと考えています。

その違和感を表すべく、読み上げが聴衆に伝わるまでの過程を図にすると、このように示すことができました。

まず、台本を書いた原作者がいて、その人が文字情報としてまとめあげた台本があります。そして、その台本を読み手が読み取り、さらにその読み取ったものを読み上げ、音声にします。そして、その読み上げられた音声が、環境を伝わって聴衆に届きます。台本の読み上げには、このような過程があると考えました。 原作者から読み手、読み手から聴衆という過程ごとに、伝達される情報は変換されます。例えば、読み手が台本を読み取り、そして読み上げる過程では、文字情報を解釈し、それが音声に変換されます。 そして、その変換の最中には、必ず何かしらの改変が起こります。例えば文字情報から音声情報での変換では、抑揚や声の調子といった要素が付加されます。その付加要素は、情報の印象を拡張したり、新しい印象を加えたりするような効果を持ちます。 また、話し言葉と書き言葉という観点に立つと、台本の読み上げはあいまいな変換とも捉えられます。台本は話すためのものですが、文字情報であり、書き言葉の表現に引っ張られ記述されることがあります。それがそのまま読み上げられると、普段聞き慣れている話し言葉の音声と異なるものとなります。こういった改変やあいまいな変換こそが、読み上げにある違和感の謎だと考えています。

今回の作品では、台本の読み上げにある違和感を利用し増幅することを試みました。そしてそのための手法として、読み上げられた音声が聴衆に届くまでの間を利用しています。このようなオンライン発表では、音声がマイクに入力され、それがzoomを通して聴衆に届いています。その間をハックし、音声にさらなる変換を加え、またそれを戻すことで、伝達と非伝達の狭間を目指します。

さらにこの作品の特徴として、音声の変換を、人の手によってリアルタイムに行なっていることが挙げられます。実際に、私はプレゼンの台本を読み上げ音声にし、阻害者と修繕者は、聴衆の届く前の音声を改変・復元しています。阻害者と修繕者による音声の改変と復元は、せめぎ合いの即興です。

なぜ人が即興で音声の変換を行うかというと、人間の認識や反応といったものが、あいまいな変換を生み出すことがあるからです。人間による音声操作には、視覚と聴覚で音声の変化を認識し、どのエフェクトのパラメータが影響を与えたのかを判断し、手を動かしてキーボードを打つという過程があります。その過程で生じた時間や、判断・操作のミスは偶発性を含んでおり、操作の掛け合いという要素とも相まってその場限りの改変を起こします。

即興の結果、朗読された言葉が音声として完全にみなさんに伝わることはありません。時には音声が聞こえ、時には音声が聞こえない中、言葉はみなさんに認識されたりされなかったりします。そしてすべての言葉が認識されずとも、断片的な意味が伝わったり全体的な内容が伝わったりしています。

それが、私たちの表現する言葉の伝達と非伝達の狭間です。

以上で発表を終わりにします。ありがとうございました。

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