[x-Music Lab 21秋] Invaded vs Aided
sentences

TAISHIN EMURA
x-Music Lab
Published in
Feb 3, 2022

作りたかったもの

言語に焦点を当てて新たな音楽の創造を目的とした作品制作を行った。我々が着目したのは発声された言語が持つ「コミュニケーションツールとして意味を持っている」「音」という特徴。作品内ではこの特徴に対し、2人の人間の操作によって介入することで新たな音楽の創造を図った。

作品の構想過程

読み上げる台本
言葉の伝達と非伝達の狭間の音を模索するという作品内容に当たって、複数の台本を構想した。言葉自体の持つ特徴を抽出した作品のため、如何なる形式の台本(論文や物語、詩など)でも問題はない一方、どれも必然性がないために台本決定は難航した。そこで、アカデミックな場での発表を行うという点を利用し、プレゼン自体を作品に落とし込むという方式を採用することで作品としての強度を高めることにしたのだ。
結果として作品を通してプレゼンをハックすることに繋がり「作品でありながら説明を求められる」という学術発表の場に一石を投じることにも成功した、というのは聴取者からの考察を通して得られた新たな視点である。

言葉の音を模索
言葉による音楽作品の当初の構想は朗読にエフェクトをかけることで言葉と語り手の表現をハックすることを目的としたものであった。朗読の音声のみを利用しながらその臨場感を高める可能性を見出すことに成功したものの、音としては朗読に音楽や効果音を組み合わせたものに近づいてしまい既聴感が問題となった。
次に、読み上げる台本に介入し、文や単語自体を尋常でない形にすることで新たな音を模索したもののうまくワークさせることができなかった。機械音声のようなものを用いて崩壊した台本を問題なく読み上げさせるのかという台本ベースの考え、あるいは人間の読み手を使うことで崩壊した台本に対してのリアクションをさせるのかといった読み手ベースの考えなど複数の方法が構想され、さらにそもそもの崩壊の形にも様々な案が出たことで突き詰めきることができなかったことが原因だと考えられる。
そこで発想を変え、単に言葉を崩壊させるのではなく、逆に元に戻す役割を持ったエージェントを投入することで言葉の「意味」と「音」という二つの側面の境界を彷徨いその狭間を楽しむという新たな形式の作品を構想するに至ったのである。

作品における特徴 — 阻害者と修繕者

タイトルにあるように、読み上げられた音声に対して2人の人間がそれぞれ阻害と修復という対立した目的を持って介入を行う。

阻害者はサウンドエフェクトを用い、音声を変質させていくことで言葉の持つ「意味」を阻害してゆく。
反対に修繕者は阻害者が操作した同様のサウンドエフェクトに対し、元に戻るような働きかけを行うことで言葉の持つ「意味」を修復させていく。

阻害者の影響が強ければ言葉から意味は失われ、音としての特徴が大きくなる。逆に修繕者による影響が強ければ言葉は意味を取り戻し、聴取者は言葉の音としての特徴以上に、その意味を受け取るようになる。

この作品において、言葉の持つ2つの特徴は操作を行う2人のエージェントによって即興的に、常に変容させられる。意味と音の間の揺らぎ、2人のエージェントの反対方向からのアプローチによりその狭間を揺蕩うことで言葉による新たな音楽を聴取者に届けることが目的である。

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