[x-Music Lab 21秋]Sound-Observation 星の音を観測するということについて

Fushi
x-Music Lab
Published in
Feb 4, 2022

慶應義塾大学x-Music Labに所属している環境情報学部2年の佐野風史(Fushi Sano)です。
今回は、秋学期に制作した「Sound-Observation」についての記録を残します。
(この作品は学部4年のMiku Fujimotoさんと一緒に作りました。)

1. 本作品の制作に取り組んだ背景

Fushi SanoとMiku Fujimotoはともに「宇宙」が好きでした。二人で談義を繰り返していった結果、共通点として観測というキーワードが浮かび上がってきました。そこからインスピレーションを得て、この制作に至りました。

2. 観測とは

観測とは、いったい何なのでしょうか。

【観測】
① 天体・気象など、自然現象の変化を観察し測定すること。「気象―」
② ある物事を観察して、そのなりゆきを推測すること。「希望的―」
引用元:旺文社国語辞典

辞典にあるように、観測とは何かの変化を観察し、測定・推測することです。
今回の制作ではいわゆる星のソニフィケーションを行っていますが、観測という体験はそれだけでは作り上げることができません。私たちはこの観測という行為の重要なポイントとして「主体性」という点に着目しました。

過去にも星のソニフィケーションの例はいくつもありますが、そのほとんどが受動的です。何かしらの星の情報を音に変換してそれを聴く、という体験ではありますが、そこには主体性が欠けています。

3. システム

そこで今回私たちは、以下のようなシステムを用いて主体的に音を観測することを試みました。

ZIGSIMというスマートフォンのアプリを利用して体験者の姿勢情報を取得します。その情報をUnityに送り、あらかじめ用意した天体の情報と照らし合わせます。体験者の向いている先に星があればその星の持つ情報をMax for Liveに送ります。Max for Liveで星の情報をもとに音のマッピングを行い、それを体験者がヘッドホンで聞けるようにしました。
ハードウェアとしては頭頂部にスマートフォンを装着したものを使用しました。

天体情報

Unity上に用意した天体の情報について記します。今回はヒッパルコスの星表データを使用しました。ヒッパルコスの星表データとは、位置天文衛星ヒッパルコスによって集められたデータのことです。私たちはその中の星座線構成データという690個の星のデータを用いました。これを以下の画像のようにUnity上で天球にプロットしました。

また、リアルタイムに星の動きを反映させられるようにもしました。日周運動・年周運動から1秒ごとの回転を計算し、日時・時刻と照らし合わせることで、仮想的ではありますが、星の位置をリアルに動かしました。それにより、1日という規模や、季節という規模で観測することのできる音を変えることができました。(昼に聞こえる星々と夜に聞こえる星々では組み合わせが異なるということ)

4. サウンド

Max for Liveで行った音のマッピングについて記します。今回使用した情報は4つです。「距離・明るさ・温度・スペクトル分類」の4つを使用しました。中心からの距離はリバーブのパラメータとして用いて、空間の表現を。温度と定数と大きさをかけたものである明るさは音量を。熱さ・冷たさなど分子の動きを表す温度を音程に。電磁波の種類を分割したものであるスペクトル分類を波形に対応させました。

5. デモ

6.考察

音を観測するという行為は場所・時間・視力などの様々な制限から解放されることがわかりました。星を感じることができない室内だったり、壁の向こうだったり、太陽の出ている時間だったり、肉眼では見ることのできない星の存在を感じることができます。さらに、観測者・星が動くことによって自分は星に「包み込まれている」と認識することができます。これらは、普段見るだけでは意識することのできていない星々に意識を向けることができるきっかけになると考えられます。(もっといろいろな人に体験してもらう必要はありますが。)

また、主体的に音を聴く体験を作ることができました。春夏秋冬・朝昼晩で異なる組み合わせになる音を、体験者それぞれが聴きにいき、それぞれの視点から音を紡ぐという、変化を観察しながら音楽をつくりあげていく体験をつくることができるかもしれません。あるいは、既存の星座という概念を脱した、あらたな星との関係性を生み出すことができるかもしれません。

7.今後の展望

音を観測する試みの今後の展望としては2点あります

① 音のバージョンアップ
今回の制作を通して「主体的に星から音楽を紡ぐ」という体験に面白さを感じました。
現状ではサウンドデザインがプロトタイプのレベルに過ぎないため、さらに「観測」という行為について考えを深めつつ、音を作りこみたいです。

② ハードウェアの作り込み
今回はヘッドホンにスマートフォンを取り付けるだけの簡単なつくりでしたが、ヘッドホン単体で体験できるようなハードウェアを作りたいです。

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