[x-Music Lab 21春] 音楽について考える&身体の動きから紡ぐ音楽への可能性

Miki Kanda
x-Music Lab
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18 min readJul 23, 2021

*この記事は、慶應義塾大学x-Music Labの最終課題を兼ねた内容です。

初めまして。慶應義塾大学総合政策学部3年の神田美紀です。

1999年生まれ、タイ日本ハーフ。高校時から貧困支援の探求を行い、世界平和について考える。大学入学後は好き放題やりたい放題に活動。現時点での受動的な趣味は、DJ/作詞作曲。能動的な趣味は、モデル/茶道/アコギ弾き語り/幼少期から続けているバレエ。半年前に藤井進也研究会(x-Music Lab)に所属し、音が感情を動かすことに惹かれている。

x-Music Labに所属した理由は、SFCという環境が思い立ったらなんでも学ばせてくれる環境だったこともあり、なんでもいろんなものに手を出して好き放題過ごしてきたのですが、そろそろ何かについて深く学ばなければいけないなと思ったことがきっかけでした。振り返るといつでも自分の生活の中に音楽があったので、音楽について研究する環境の中に入りたいと思いx-Music Labを選びました。

目次

  • 「自分の中の “x” を知る」ワークショップ
  • x-Music Lab “synthesize展” に向けて
  • 最後に

「自分の中の “x” を知る」ワークショップ

このWSは、私がx-Music新規生として毎週取り組むもので、第一週〜第四週までありました。音に対する気づきが沢山あり、音楽への解釈が広がり、音楽に対する考えと感覚の基盤を作り上げてくれたような気がしています。それぞれの週で変化があるので、それについてまとめたいと思います。

※WS概要

◎ 第一週「聴く (Listening)」

このWSを通して気づきとしては、音は響き方によって印象が変化すること、目を瞑っても音だけで空間の違いが案外わかること、聞こえてくる音は自分の経験や想像を元に聞こえているかもしれないということです。

そして、意識によって聞こえてくる音が違うので意図的に聞く必要があり、場所や文脈によっても音に向ける印象が変わるということから、私たちは音に対する先入観があることがわかりました。

しかし実は、聞いてる時に「音楽」と思った瞬間はありませんでした。そこで「音楽とは?」という問いが生まれたのですが、音のある自然の環境の中では、それぞれの空間の違いやそこでの音の変化に楽しさは感じ、そうしたことを考えるとそれ自体が「音楽」なのかもしれないと思いました。

※研究会内発表資料

◎第二週「自分の中のXを知る vol.1」

お題が、「ギリギリ音楽として聴けるかもしれない、自分の中でのギリギリな境界の音」ということだったので、とにかく日常の音に耳を傾けていました。なんとも広く大胆なお題だなと思っていたので、見つけられるか心配でしたが、自然と見つけられる瞬間がありました。それは、自分がDJとして出演していたクラブの中でのトイレの音です。どんな音かというと、以下の通りです。

以上の通り、トイレの中の音というのは、トイレが流れる音などいうことではなく、トイレについている換気扇の音でした。聞こえづらいかもしれませんが、注目して欲しいのは、いわゆるクラブで流れるdance musicの部分ではなく、それに影響されて断続的に振動が生まれどこからか音が生まれ響かされて鳴ってしまっている換気扇の中の部分の音です。私はその音が聞こえてしまった時、ものすごい興奮が襲ってきて、トイレの目的を忘れ換気扇の音を聞くのに集中してしまいました。なんだか愛着が湧いてしまって「換気扇ちゃん」と言いたくなったのですが、それほどなんだか面白くてワクワクしてしまう音だったのです。響いている感触がものすごく心地よくて好きでした。

そんなことを通して、自分が定義する音楽は「その音が、何らかの感情を呼び起こすこと。音が感情を生み出し、それは言語化できなくても良い。」ということでした。

ただ、自分が定義した「音が感情を生み出す」ということを考えると、警告音などの人間がなんらかの信号であると感知できる音に関しては音楽と言えるのかという疑問も生まれます。しかし、感情を呼び起こすという面では一種の音楽であると呼べそうですが、危険信号などとして一般的に認識されているものに関しては、これはある意味、ことば/言語であると考えられます。

さらに同時に、こんな疑問も生まれました。ことばは音楽になり得るのか?ということです。これはSFCにて藤井さんの授業「音楽と脳」でもあったのですが、同じことばが繰り返されると不思議と音楽に聞こえてくるという研究があったことを思い出しました。ことば/言語については、そこにプラスで一定のリズムがついているものが「うた」であると考えられますが、さらに、それが知らない言語で自分の中で意味として認識できない場合、音楽のようにも聞こえることに気づきました。例えばコーランなどです。日本にも似たお経というものが存在しますが、発されていることばが意味として認識できない時、それが心地よく、メロディーのように聞こえてくる気がしています。

そんなこんなで、音楽の定義を考えるといろんな方向で疑問が生まれてきました。当たり前かもしれませんが、改めて気付かされたこととしても「音楽は、聴覚で音として認識できるもの」ということも音楽の定義として考えられました。音楽は自分の中で定義を繰り返しても良いという話もあったので、自分が音楽を好きでいて何かしらで関わっている限りは自分の中での音楽の意味を再定義し続けたいです。

◎第三週「自分の中のXを知る vol.2」

研究会内の話の中でよくあったのですが「音楽は主観性が強い」ということも新たな知見としてあったので、第二週のWSで私が猛烈に好感を得た「換気扇の中の音」を聞いた時の感覚に近いもの意識して探してみることにしました。換気扇/トイレ/ホース/ドラム缶/パイプ… など、生活の中での “ 響く” 媒体です。

そこで見つけた「xな作品」として研究会で一番に紹介したのは、洗濯機の作品です。

3:40~ , 5:59~, 9:40~, 15:50~, 32:00~

フィードバックでいただいたこととしては、洗濯機は「回転/周期性」がポイントで、そういえば換気扇も「回転/周期性」があるということ。そして、洗濯機には特殊な響きがあり、回転が変わり水の一定のリズムが生まれ、水の跳ね方で毎回音の高さが違っているということです。

しかし問題意識としてあがったのは、洗濯機という意外性が面白く、洗濯機がバンドメンバーになるのはたしかにユニークな反面、なんの音か剥ぎ取った時にも面白いかどうか?ということです。

さらに以下のとおり、自分の好きな曲をひたすらリストアップして、自分が好きな音楽の特徴を探りました。※(00:00~)は曲の中で自分の好きな部分です。

“Surge”/DivPro (1:34~)

Static Friction/Dank Frank(0:27~1:47)

EPIPHANY/GEISHA(0:58~1:16)

Laughing Ears/Loki(1:38~)

これらの作品の共通点を考えての気付きとしては、自分は、さまざまな音が重なって一つの音楽となっている中でも、アクセントとなっている一音に一番心躍るということです。

そしてさらにそこから、その音のみが凝縮されているような作品を探しました。

Lunar convoy/mix(2:51~,11:30~,25:30~, 41:22~)

Lunar convoy/mix(0:18~, 43:30~)

ALL DOGS GO TO HEAVEN/SWAN MEAT(~0:34)

The Silver Key/Nophiizz

今回のWSを通し、新たに音楽の定義として考えられたのは「音楽は聞きいてしまいたくなる音の遷移の連なり」ということです。ちなみに、以前に定義した「その音が言語化できない感情を呼び起こすこと」というのは変わらずあります。

◎第四週「xな演奏をする。」

というのが最後のWS課題です。私はとりあえず、演奏の意味はっきり理解するために意味を調べることにしました。調べて出てきた演奏の意味は以下の通りです。※Weblio辞書より

演奏(えんそう):音楽行為の中で音を出す行為をいう。なお、「奏」の漢字を含んでいるが、演奏には楽器を奏でるばかりでなく、歌を歌う行為も含まれる。演奏には、原則として、録音されまたは録画された演奏を再生することや同一の敷地・建物内における有線設備を用いた演奏の伝達が含まれます。

この通り、演奏というのは「音を出す行為」のことだったので、私はとりあえず「音がでるものが欲しい!」と思いました。そこで今までのWSを経て、私は “響く” 感触の音が好きだということが判明していたので、とりあえずホームセンターへ行って、なにか好きな音が出るものはないかと探しに出かけました。そこで運命的に出会ったのがこちらのバケツです。

ホームセンターを探し歩いている時、軽く指や爪でトントンカンカンしながら歩いていたのですが、このバケツを手にした瞬間、一瞬でこれに決まりました。普段どうでも良いことにも優柔不断に迷ってしまう私なので、この時の決まり方は自分史に残る瞬間でした。

そうして運命のバケツを手に入れ、どう奏でようかバケツを叩いてみた時、一つのバケツでもさまざまな音が鳴ることがわかりました。この特性を生かそうと、すぐに思い浮かんだのがWS第一週目での自然の音が飛び交っていること自体が音楽かもしれないという仮説でした。

そこで私は、

バケツで自然の音を表現しようと試みました。

概要

自然の中で鳴っている音を分類し、それぞれの音のなり方をバケツで再現して最後に一つに合わせて一曲にする。

自然の音の分類

風/木/車/犬/烏/鳥1/鳥2

手法

1分間の中で自然の音の分類1つのみにフォーカスし、バケツにこきりこを使って全く同じように音で反応を返す。

こきりこ
※こきりこ

音の処理

音の入力はコンデンサーマイクで録音し、Abletonにて処理を行う。自然の音を表現したかったので、フィルターは使わず、そのままのバケツの生音を統合。

完成したのが、以下の作品です。

研究会内で発表した後、嬉しい感想や深く堀り下げられそうな点の意見などを沢山いただいたので、記録もこめて紹介させていただきます。

共有いただいた記事は以下の通りです。

そしてThe State of Things の動画を見て思い出したのが、これらの作品です。私はこういった、機械的な処理があまりされていないなるべく自然体な音が好きなのだなということに気付かされました。

自分の率直な感想として、一方的ではありますが自然とセッションをしているようでとても楽しかったです。今回はバケツでしたが、なにか音のなる媒体を通して、自然の音をもとに音楽を作る発想を得るというのは、とても可能性があると感じました。既にある手法かもしれませんが、魚住さんも「音楽は世の中に転がっているけど、顕在化していないだけ」などとおっしゃっており、今回身につけた感覚は今後にも良い影響をもたらしレてくれる気がしています。引き続き、自然の中から音楽へのヒントを見つけていきたいと思います。

◎新規生WS全体を通しての感想

感じた音を共有する中で思ったこととして、聞こえてきた音を言語化するのは難しいという壁が多くありました。しかしよく考えると、そもそも、言語化できないものを表現したものが音楽であると私は思いました。言語化できない感情の表現ツールが音楽ならば、そもそも言語化する必要もないなと、つまらないかもしれないことを思ってしまいましたが、この気づきは自分の中でとても大きな意味のあることでした。日常に転がるあらゆる音楽を素直に受け入れていくワークショップで、とても有意義な1ヶ月間でした。

x-Music Lab “synthesize展” に向けて

x-Music Labでは、2021年8月31日(火)、 9月1日(水)の二日間で横浜大さん橋にて展覧会を行うこととなりました。展示名はSynthesize。本展ではx-Music Labのメンバーが日々探求し、制作した未知なる音楽に関する作品を披露します。詳細は以下になります。

私もこのsynthesize展に参加させていただくこととなり、参加に当たって、 “synthesize” をテーマとし作品制作を進めることとなりました。チームメンバーは研究会新規生の中の3人(神田・柴田・長瀬)です。

作品の決定までにはさまざまな道のりがあり、何十個もアイディアとrapid prototypeを作り、魚住さんと田中さんのクリティークを繰り返し経て最終決定に至りました。

[WIP01]clothes sound synthesis(※現時点での作品名)

決定したのは、“身体の動きから生まれる音楽”という内容です。身体運動によって服が生み出す音から、新しい音楽としての可能性やアルゴリズムを見つけ、動きと服と音の関係性を追求します。

まだ、プロトタイプで進めている途中ですが、毎回気付きがあります。

prototype1

服の擦れる音を生み出すためにとりあえず踊って作ってみた。

effecter: reverb 右脚/左腕/左胸ポケット
effecter: resonator 右脚/左腕/左胸ポケット
effecter: 3effects 左脚/左腕/お腹

手法

身体のあらゆる部位にiPhoneを括り付けて録音し、服によってマイクが擦れる音を利用し、音楽を生成する。

録音

胸ポケット・右腕・左腕・右脚・左脚・お腹にiPhoneをくくり付け録音

音の処理

体の部位それぞれの録音を最後に統合し、それぞれの部位に違うエフェクトをかけた音バージョンと、身体の一部だけバージョン。

私服/羽織のような袖の広がった上着/裾の広がったパンツ

動き

コンテンポラリーダンス(coreo:櫛田祥光)

今回のプロトタイプとクリティークを経て

どんな踊りにするかで考えてしまうことが多かったのですが、「衣服と動きと音の関係性」を‘‘シンプル”にする必要があり、音の処理に関してもまずはエフェクターよりも動きから出る音そのものにフォーカスする必要がありました。「即興性と生命性」を大切にして軸からぶれないようにし、パフォーマンスの中では変化が必要なので、制限されたものから解放的なものへ変幻していくなどの変化をつけたいという話になりました。

ここで、コンセプトを捉え直すこととなり、身体の動きから生まれる音の微妙な変化を加えるために、動きに“制限”を加えることを考えることになりました。図にすると以下の通りです。

prototype1

クリティークを経て服と動きを作りこみ、身体の動きから生まれた音にフォーカスする想定で、制限を加えることを試みたプロトタイプ。

effecter: reverb お腹
effecter: reverb 手

手法

身体のあらゆる部位にiPhoneを括り付けて録音し、服によってマイクが擦れる音を利用し、音楽を生成する。

録音

お腹、ズボンポケット、腕にiPhoneをくくり付け録音

音の処理

素材が生かされるシンプルなエフェクター(今回:リバーブ)を使い、体の部位それぞれの録音を最後に統合はしない。

さまざまな素材のもの(防寒ビニール素材の服/毛布)/動き制限が加わる構造

動き

とりあえず動く踊る/制限があればそこから抜け出すための動作

今回のプロトタイプとクリティークを経て

スポーツのシャカシャカの服など、マイクを通さずとも音がなってしまう服は検討が必要であ流と感じました。prototype2–1の中で、制限をかけてみたことで、確かに新たな動きへの発想が広がることを実感した。

prototype3

メンバー3人で集まってとりあえずセッションしてみる。

手法

お腹、足首にiPhoneをくくり付けて踊って音を録り、服によってマイクが擦れる音を利用し、音楽を生成する。

録音

お腹、足首にiPhoneをくくり付け録音

音の処理

動き手以外の2人が右足と左足で手分けして動きを見ながらエフェクターをつけてセッションを行う

私服/動きが制限されるスカート

動き

とりあえず動く踊る/制限があればそれに抵抗しながらも動こうとする動作

今回のプロトタイプとクリティークを経て

即興をやる中でも、あらかじめ自分の動きから紡がれる音の研究が必要であることがわかりました。最初はテクスチャのような音しか出なくて、そこから解放されるための動きや細かい動きからのトランジションが見せれると良いということだったので、まずは新たに自分を何かで動きを拘束してそこから生まれる動きの研究をします。

WIP01はここまですが、さらに追求してsynthesize展では最高のパフォーマンスができるように後1ヶ月、気を抜かずに頑張りたいと思います。

最後に

音楽に対して今までは感覚でしか捉えられてなかったですが、どうしても言語化しなければならない場面が多くあったので、言語化することが少し出来るようになった気がしました。しかし、最初の方でも述べたように、音楽は言語ツールにもなりうり、必ずしもその音楽をことばの言語へ変換する必要はないと感じました。

初めてx-Music Labで過ごした半学期間は、音楽の定義を再定義し続けました。しかし、音楽はその音が言語化できない感情を呼び起こすこと、聞きいてしまいたくなる音の遷移の連なりだと思う点については新規生WSから変わらなかったと思います。これは、音楽は主観であるというところを身をもって実感させられました。

さらに研究会でのWSや様々なプロトタイプを作ったことによって、私は日常の中での音の、予想外・意外性など想像を裏切るという特徴がある音によって感情を呼び起こされている状態が好きで、その音がさらに自分の脳を支配しているような感覚になるのが好きだと気付きました。これからも自分の音に対する感受性が変わっていくかもしれない未来が楽しみです。

<今後やっていきたいこと>

まずはx-Music Lab展に向けて、Clothes Sound Synthesisで服と動きの関係性で音楽の探求をしたいです。そして、それ以外では感情に対して揺さぶる音の探求をし、Weird Synthesisで試していたように、予想を裏切る音と音楽の追求をしたい思います。

2021年春学期、新規生として入ったx-Music Labでは、音楽に対してとにかく素直に向き合う過ごし方でした。この研究会に所属させていただき、音楽に対する視野を広げてくださった藤井さんをはじめ、いつも鋭いご指摘をくださる魚住さんやたなけんさん、新規生WSを考えてくれたはずとみく、そして研究会の仲間に感謝申し上げます。これからも自分が持つ感性を生かして、未知なる音楽の可能性を探究していきます。

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