[x-Music Lab 21春] Unreal room -気配-
学部3年の松井美緒です。
今学期から、
聴覚のみで「気配」を感じることのできる空間の制作を行なっています。
背景
もともと、「埴輪」に強烈な魅力を感じ、何を考えているのかわからないような、実在するのにウソのような、見つめていると吸い込まれそうになる、不思議な雰囲気が好きだというところから始めました。
埴輪以外でも、何気ない日常で感じる、現実か妄想かわからなくなる瞬間に興味があります。
科学や医療が発展し、インターネットが普及し、理由のわからない不気味さに怯えることは昔よりも無くなってきています。
そんな現代であっても、現実はそんなにハッキリとしたものではなく、もっと曖昧なものではないでしょうか。
幽霊を信じない大人になった今でも、夜の暗い洗面所で、変に妄想してドキッとするような、すりガラスから見える影や床の軋む音に疑心暗鬼になるような瞬間はよくあると思います。
現実と非現実が曖昧になる感覚をこの作品を通してより感じてほしい。
意図的にそういった感覚を作り出したい。
このような考えで制作を行なっています。
気配を作る計画
・可聴域を超えた低周波の振動によって「何かいる気がする」といった気配を作り出す
・音の影(音の移動)によって気配の感覚を強める
・体験における文脈を作る
この3つを軸に作品を作っています。ここに至るまでは、主に論文等を調べる作業でした。
東京国立博物館で、静かな空間でたくさんの埴輪に囲まれて感じたなんとなくの「雰囲気」だったり、「何かいる感じ」を作りたいと思っていました。そういったことを藤井先生に相談したときに、この記事を紹介していただきました。この記事から、低周波が気配を作るのになんとなく関わっていそうだと知りました。
また、不気味の谷理論と音を結びつけようとした記事などもみていました。
同じ音でも文脈によって意味合いが変わること、どんなに不気味な音でも慣れてしまうから、予測不可能な音にすべきといったことがわかりました。
では実際にどんな音、どんな世界観をイメージしているのか?
形にするため、埴輪のいくつかの写真を見つめながらデモ音源を作りました。こちらにあります
さらにそれを聞くとどのような感じが得られるのか、自宅で車のマルチスピーカーやヘッドホンで試しました。
目を閉じたとき、作曲するときに狙った効果がえられそうでした。
選んだ音色とか作りたい方向性は個人的にはすごくいい感じだと思えました。
どの方向から聞こえてくるんだろう?というドキドキがあったらより良さそうです。
一旦、ここで「埴輪」というテーマを考え直しました。自分が何をしたいのか?そもそも埴輪ってなんなのか?調べて、検討して、今回は埴輪から離れ、見えも聞こえもしない、得体の知れない何かを展示しているというテイ、「気配」というテーマで作っていくことを決めました。
「気配」に焦点を当てて考え直します。が、そうなると作曲したデモに不安を感じてきました。怖い音という根拠は特になく、主観で作ったものなので…。
一度触覚から攻めてみようと思い、気配の原因とも言われる準静電界(静電気的な)の存在を知りました。触覚によってヘッドマウントディスプレイゲームの更なる没入感の向上を目指す研究とかあって興味深かったです。(結局聴覚だけに絞りましたが)
そういったゲームの「バーチャルリアリティ」繋がりで、「音響的な影」という概念を知りました。この論文です。
『 障害物に近づくにつれてその方向からのノイズが小さくなるという障害物の遮音効果の影響(音響的影:Acoustic Shadow)が要因であることが示されてきた. 障害物方向からの雑音を消去しただけの音を提示するという単純な方法で,気配を察知する勘が鋭くなったかのような錯覚を生じさせる』〜
要は音が消えた方向=誰か通ったから遮られたんじゃ?ってなる、という話です。
そして、最初に聞いていた「幽霊の原因は可聴域外の低周波」という記事のもとになった論文を見つけました。(タイトル:The “Haunt” project: An attempt to build a “haunted” room by manipulating complex electromagnetic fields and infrasound)
よく読むと、結論は『「この部屋は幽霊が出る部屋です」って言ったことが効果的だった』でした。低周波による可能性を捨ててはいませんが、つまり文脈も大事だということを言っていたんです
やってること2つ
ウーハーの制作
実際に超大きいウーハー(Fostex FW800HS) を鳴らしてみて体験したのですが、これは実は未完成のスピーカーってことを知り、スピーカーの箱部分(エンクロージャー)の制作に取り掛かりました。
エンクロージャーとは何か調べ、大きく分けて「密閉型」「バスレフ型」二種類あることがわかりました。
バスレフ型は穴が空いてて、中で跳ね返った音を外に届ける構造です。
ここまで調べて、ユニットの説明書に記載されている図面の意味がわかりました。
また、スピーカー(特にウーハー)のエンクロージャー向きの木材を調べました。本当に様々で、木によって音質も変わるみたいですが、入手と加工のしやすさを考え、MDF材を使うことに。
メーカー推奨のエンクロージャーの板の厚みは、42mm。あまりに分厚く、市場にないため重ねるなどして作った人もいるようでしたが、色々大変そうだし重すぎても困るので購入できる最大の30mmにしました。板の大きさも規格外でした。
大きい板は、成人男性2人がかりでないと運べないほど。電動の丸鋸を使い直線部分をカットしました
直線だけなら丸鋸が早いですが、円形部分のカットは難しそうだったので、Shopbotを使って切断する予定です。Illustratorででカットするデータを作成しました。
また、バスレフ型の穴には筒みたいなのをつける必要があり、(バスレフダクトという)それも購入。こちらもかなり規格外の大きさで結構探しました。普通は塩ビパイプを使うことが多いようですが、サイズが大きすぎて高価&多分重すぎる気がしたのでやめました
「聞こえる音」で気配をつくる
音の影(音の移動)によって気配の感覚を強める・体験における文脈を作る この二点を実現するため、電子工作でデバイス作りに取り組んでいます。
人感センサーを用いて、人が通ったらスピーカーから音を鳴らします
鑑賞者のイヤホンはスマホにつながっていて、センサーが感知したらPCに届き、さらにスマホに渡してイヤホンから音が流れる仕組みです。
ワイヤレスでのやり取りがしたいのでESP32というマイコンを使っています。