[x-Music Lab 22春]生物を用いた表現
環境情報学部4年の榊原礼彩です。
春学期に行ったアメンボを用いた表現の記録です。
概要
人間とは異なる環世界を持って暮らす生物を用いて新しい表現形態を作れないか?というのが私の興味です。その生物の環世界に人間が介入、ハックすることによって生まれる即興の中の表現を探っています。その中で、今回はアメンボをテーマに作品を作ろうと思いました。
背景
アメンボは、主に波紋を軸に世界が回っています。波紋で別個体と連絡を取り合ったり緊急時、または求愛時などに応じて波紋を変えていることが先行研究からわかっています。「Water Surface Vibration Signals Utilized by the Japanese Water Strider, Aquarius elongatus, to Locate Prey and Mate」Tetsuya Nagashima 2018
この論文によると、求愛時は13Hzの波紋、餌と認識する波紋は18–20Hz(節足動物が出す周波数)ということなどが明らかになっています。
このような詳しく論文にされる以前から、私たちは音叉や電動歯ブラシなどの振動の波紋を使ってアメンボを捕獲することは今までやられていたようです。
https://www2.nhk.or.jp/school/movie/clip.cgi?das_id=D0005400710_00000
このような餌と間違える波紋や別個体との通信としての波紋以外にもう1つアメンボ にとって重要な波紋があります。
それは雨による波紋です。アメンボは上述した波紋と違い、上から水が滴下されたことで生成された波紋を避ける傾向があるようです。これはアメンボの表面張力が削がれないために本能として避けている現象です。
調査
実際にアメンボを捕まえてきて波紋にどのような反応を見せるかを観察しました。この点について結構反省が多かったです。滴下された方は逃避するような行動を見せました。
実際に滴下されたアメンボが逃げる動きをみせる。
https://drive.google.com/file/d/1L2ysvLLTbBWBpApq06wcdsl3Lsf5vF6k/view?usp=sharing
しかし振動による波紋では、寄ってくる行動が見られませんでした。公園で電動歯ブラシでやった時にはよってきてくれたんですが、捕まえてきて音叉、電動歯ブラシなどで試しましたが全然うまくいかなかったです。捕獲してすぐ自宅の風呂場というアメンボ にとって慣れない環境でやったこと(それが原因か元気ない)、仲間のアメンボがいないたった一匹という環境でやったことなどが原因です。(金魚の時に学習してたはずだったのに反省)
なのでそもそもアメンボの飼育環境的なものを家に構築しました。(蓋を開けておくと勝手に外からアメンボが飛んできて増殖してくれているのが個人的に面白かった)
やってること
滴下の波紋に焦点を当てて、滴下装置を作りました。Max→TouchDesigner→Arduinoで今のところソレノイドバルブ二個を制御しています。アメンボの様子を見ながら楽器を弾くみたいに適宜水滴を落とすみたいなことをしたいので、それぞれのソレノイドにPCの特定のキーボードが割り当てました。キーボードのAを押したら滴下装置1から水滴、Sを押したら滴下装置2から水滴が落ちる、みたいな感じです。
水滴音に関して今は信号が来て水滴が落ちてから100msで信号を止めて水滴も止める、という形にしているのですが、これだと毎回落ちる水滴が全く同じで人工的な水滴音になってしまい耳で聞いた時に違和感を感じるかもしれない、という心地よさの問題もあります。今後は水滴をどの程度の長さ落とすかもその場で制御できるようにする必要があるかもしれないと思っています。
その他
「Alive Painting」Akiko Nakayamaの作品のように水を介して即興していくところを視覚的にもわかるようにしたいと思いました。先行研究ではアメンボの推進にチモールブルーを用いたものがありました。それ以外でアメンボの表面張力が崩れにくく、可能性のありそうなものを試しました。
アメンボは表面張力が崩れすぎると沈んで死んでしまうので、最初は実際のアメンボではなく、アルミニウムの擬似的なアメンボを作って実験しました。表面張力によって水面に浮く仕組みは擬似アメンボも本物も同じなのでこれによってアメンボを死なせることなく実験できます。
試したのは3つです。
1つはデキストリンによる着色料。
2つ目エタノール99パーセント+色素(マンゴラニ対流の形成がしやすい組み合わせ)
確かにマンゴラニ対流らしきものを生み出せました。
これはエタノール100パーセントだとアメンボが沈んでしまい、エタノール:水=5:5くらいだと沈まなかったです。とはいえ生物を扱う倫理上、作品には使えなさそうです。
3つ目は夜行粉末です。液体以外で砂でもいけるかなと思って試しました。
夜行粉末の上に普通の砂をかけてアメンボが動くと下の夜行粉末が見える、みたいなのをやりたかったんですが流石にアメンボの推進力だとちょっとしか砂を動かせませんでした。
以上から1つ目のデキストリンによる着色料が使えそうだなと思っています。
今後
チモールブルー が入手できたのでそれを試していく。
水滴滴下装置の制御を緻密にしていく。
振動による波紋生成装置を作る。