[x-Music Lab 22春]耳介を用いた聴取変化デバイスのプロトタイプ

Fushi
x-Music Lab
Published in
Jul 29, 2022

慶應義塾大学x-Music Labに所属している環境情報学部3年の佐野風史(Fushi Sano)です。
人間の「見えないものを想像する力」に興味を持ち、それに気づくきっかけを与えるための体験を、手段を問わず制作しています。今回は、聞こえている音の変化により生まれる想像に焦点を当て制作した、耳介を用いた聴取変化デバイスについての記録を残します。春学期から制作を始め、今学期はプロトタイプを作成しました。

概要
人間の耳介は閉じたり引っ張ったりすることで聞こえる音を変化させることができます。この現象を利用して、聞こえる音を変化させるためのデバイスのプロトタイプ制作を行いました。普段は自力で動かすことのできない耳介を、機械的に動かすことで、この体験の実現を目指しています。

背景・問い
「想像する力」は想像する時間があってこそ発揮されるものです。今回は、想像のために、何かを考える時間を作ることにしました。人は、内にこもるような感覚になることによって外界から自分を切り離し、モノゴトを受け入れ、考えることに集中できるようになります。これは例えば瞼を閉じるといった行為にもみられることです。瞼を閉じることは人間の内受容性を高めるとも言われています。
視覚に関わる瞼ですが、聴覚に関わる耳介はどうでしょうか。筋肉によって動かすことのできる瞼とは対照的に、閉じるという明確な動作を行う筋肉は持ち合わせていません。
この耳介を動かしてモノゴトを経験することで感覚に何か変化は起こるのでしょうか。
また、単に耳介の開閉を起こすというだけではなく、耳介を閉じるという行為の中で、聞こえる音に変化があります。この変化を用いて、それ自体は変わらずに鳴り響く音を音楽的にとらえることができるのでしょうか。

調査
まず、人間の耳介を動かすことによって本当に聞こえる音が変化しているのかを調べました。
ダミーヘッドマイクを使い録音したデータをスペクトログラムとし、周波数等の変化を観察しました。

結果としては以下のようにスペクトログラムに変化が見られました。

また、音の変化から、耳介の動かし方を引く・何もしない・押す×上部・中部・下部の3通り×3通りの組み合わせからなるようにしました。

次に、耳介の形状変化によって音楽を生むためのイメージとして「ダミーヘッドマイクを利用した演奏」を行いました。背景音にはホワイトノイズのみを流し、耳介の変化のみで奏でられる音の可能性を探りました。

実装
これらの調査を通して、実際に耳介を機械的に動かし、聞こえる音を変化させるためのデバイスのプロトタイプを作成しました。さまざまなモーターや接続部分を試しながら、今回は以下のような2パターンを最終的に作成しました。1つはモーター位置に傾斜がついたもの、1つは3台のモーターがついたものになっています。

システムの構成としては以下のようになっています。ArduinoによってStepper motorを制御し、Stepper motorが耳介の形状を変形させています。現時点では動きをランダムに設定しました。

デモ

結果・考察
耳介の形状変化により、聞こえる周波数に変化があることが分かりました。鳴っている音は変わっていないはずなのに、聞こえる音が変わっているように感じられる体験を作ることが可能だろうと考えられます。
そして、耳に装着するデバイスを作成した際に、現段階の速度では急激な音変化を体験できないことが分かりました。分かりやすい音の変化には素早い形状変化が必要だと考えられます。そのため、耳介の形状変化スピードも音変化の要因に加えることができるかもしれません。
また、耳の形状は人によってさまざまであり、誰にでもつけられるデバイスにするのか、一人のモノに特化するのかという点は考える余地がありそうです。

展望
段階としては、大まかに
①調査
②デバイス作成
③デバイス改造・聴取体験倍増
の流れで進めます。まず調査としてどの耳介の形の時にどの聞こえ方がするのかというデータを集め、並行しながら、耳を閉じるということから特化させたデバイスを作成します。
その後、そのデバイスを人間の耳に合うように最適化します。
また、③デバイス改造・聴取体験倍増を掲げいます。脳波によって動きを学習させたり、人間のたたずむ空間によって音を変えるなど、人間からのフィードバックを組み込んだり、耳介をエフェクト的に用いて耳介エフェクトならではの聴取体験の倍増を予定しています。

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