[x-Music Lab 22秋]藤家大希

藤家大希
x-Music Lab
Published in
Feb 3, 2023

ORFでの活動

キャンパスで制作を発表する機会であるORFでは、テアトロン(北門のそばに位置する元遊水池)でのインスタレーションの制作に取り組んだ。卒業生の先輩である太田さん、神田さんがメインで進めたプロジェクトに参加させていただく形となった。

・アイデア
テアトロンは半楕円に近い形状で、壁面が階段状になっており、特殊な音響効果が期待できた。テアトロン内部にて手を叩く音や氷を割る音を録音し、インスタレーションのイメージを作った。ノイヅ勉強会にて、テアトロン内部で複数のスピーカーから音源を再生し、中の音響効果を録音し、検証した。

・音響効果について
テアトロン内部で録音した手を叩く音の反響から、コンボリューションリバーブを作ることができることが分かった。実際のインスタレーションの中、マイクで録る音にAbleton Live上で用意したリバーブをかけ、ステレオスピーカーで再生し、さらにその音がテアトロン内部でどのように反響するかを検証した。

・制作、設計したもの
コンタクトマイク(マイクに接触する部分の振動が録音可能)を内部に埋め込んだ氷を用意し、それを空中に吊るし、石で叩きつけた。氷にひびが入り、溶けていく音を、強調された音響の中で再生した。また、氷が溶けた際に出る水が落下する場所に金属ボールを設置し、そこにもマイクを設置した。徐々にボールの中に溜まる水の表面に水滴が落ちる音を、同じく用意したリバーブによって強調し、再生した。

・コンセプト
元来遊水池として設計されたテアトロンにおいて、氷を打つ音、水が滴る音、蒸発した空間をイメージさせる音響効果は、インスタレーションに統一感を持たせていたと思う。テアトロンの特性を十分に活用できた。

・反省
インスタレーションの具体的なパフォーマンス内容や、装置のデザインなどに関わらせていただき、イメージを少しづつ形にする経験を得た。実際のインスタレーションの最中に、新しい気づきを得たり、そこで得たアイデアを検証していく臨場感を経験した。

コンボリューションリバーブのための衝撃音を採集
テアトロンにて音響を検証
最終的なインスタレーションの様子

ORF後の活動

那須くんとの制作

当初は「リズムの同期」に着目した作品の制作に取り掛かった。
・コンセプト
音楽的なリズムの概念の応用として、歩くことや、お辞儀をする動作など、生活の至る所にリズムは見つけられる。毎日決まった時間に出勤、通学したり、課題や仕事の納期を守ったりすることはと、私たちが社会的なリズムの中に生きていることを表す。一部の人が音楽のリズムにノって踊ることが難しいように、生活の中にある身体的なリズムや、社会的なリズムに同期することは、ある人にとっては困難であり、このことは社会の中に様々な障害を引き起こしているかもしれない。音楽にノれる人がノれない人の感覚を理解できないことと同様に、社会的なリズムに同期できない人は、他者に理解されず社会で孤立してしまうのではないか。

・作品のイメージ
このようなコンセプトから、私たちの生活の中に必ずある歩行という動作に着目し、「足音」のリズムを作品にしようと考えた。歩行と同時に録音する足音を、リバーブやディレイによって加工し、リアルタイムで歩行者にフィードバックすることで、歩行者の身体的なリズムの感覚を狂わそうと試みた。擬似的にリズムへの同期の困難さを演出し、体験者が普段気が付かない障害に目を向けるきっかけが生まれるのではと考えた。

・実際の制作
プロトタイプとして、足音を録音し、Ableton Live上で様々な加工をして、聞こえ方の変化を検証した。しかし、実際に歩行が困難になるほどの作品の強度を演出することはできず、そのことは教授にもご指摘いただいた。
また、足音という生活の中の身体的なリズムを、社会的なリズム、音楽的なリズムへと適用して作品に取り込むことができず、この制作はプロトタイプの段階で止まってしまった。

https://www.notion.so/7aaa3fc1529b487c9b5bba840085f2a2

その後の活動

先の作品で社会的なリズムへの同期の困難さに着目したことから、同様の問題意識を出発点として映像作品の制作を試みた。僕が先月コロナに罹患してしまったこともあり、制作において那須くんとうまく連携することができなかったが、ブレインストーミングの段階や詩の英語表現で携わることができた。

https://note.com/brandnewblonded/n/n41a9cde2a816
社会的なメッセージを持つ映像作品、セラピーに関する映像作品として、Kendrick Lamarのミュージックビデオの表現について那須くんと話し合った。個人的に、ビデオ”The heart part 5”で主張されている、日常が記号化されてしまうことで、コミュニティに負の循環とアイデンティティが形成され、外部の不条理が内在化されてしまうことについて考察した。ディープフェイク技術を導入し、擬似的な死者の代弁を行うことで、コミュニティやカルチャーの所有物としての言葉が生まれる様を分析した。

反省

全体的にアーカイブが不足しており、どのようなインスタレーショや作品を制作したかを共有することが難しい。記録するべきもの(音、映像、諸反応)を定め、それに合わせた機材を用意して、しっかりと共有できる形に残すことを来学期の課題としたい。
また、先輩方の力なしでは、制作物を最後まで押し進めることができず、自分の力量の無さを痛感した。アーカイブまで含め、一つの制作物を納得いくまで完成させることが自分に必要だと分かった。

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