[x-Music Lab 22秋]水を用いた音楽教育の開拓を試みた実験装置

*はじめに*

小向諒
x-Music Lab
Feb 3, 2023

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2022年秋学期には、”水のおもちゃ”をアナン ニミシャと共同制作した。以下にその概要と研究活動記録をまとめる。

1: 研究概要

当初の到達目標は”音楽教育の既存体系から抜け出す”ということであった。ここから、厳格な西洋的音程の定義以外の音の可能性を視野に入れたおもちゃを製作することを考えた。またアニミズム的な思想にも着眼点を置き、自然の要素を取り入れて制作することで、日常の中に潜む音楽的可能性への気づきを使用者と鑑賞者に与えるというという要素も取り入れた。ここでは水を主なマテリアルとして扱い、これに操作性を付与して音を鳴らせるような仕組みを考察した。この研究においては、ピッチやコードに対して厳格な西洋的音楽から離脱し、譜面上の音楽から抜け出すこと、すなわち”正解のある音楽から離脱する”ことを目指す。

2: 手法

2–1: 水の持つ要素

水を音を生み出す手法として用いるに当たり、水が持つ要素をどのようにして応用可能であるかについて考察した。

[水の即興性]

  • ランダムに変わる流れ方
  • 水が入る器によって形を変える流動性
  • 水の中に浮かぶ・沈むものが、流れの変化によって不規則に音を鳴らす
  • 風などの外からの力でランダムに動きが変わる

[水の音楽性]

  • 水が流れる音(川のせせらぎなど)
  • 波紋のリズム
  • 水が流れる規則的な音のぶつかり
  • 水が入っている器や、その中の物との関係性も含めた”水の音楽性”
  • 雨の音

水の中にある特質的な要素を抽出し、これを制作するおもちゃの中に取り入れることを主眼とした。重力の力を利用し、水が落ちる過程でモジュールにぶつかり音を鳴らすという仕組みを考えた。

左のスケッチのようにボックス状の入れ物に対して、上から水を流す縦長の構造を考えた。また右の写真のようにブロック式に組み替えられるアイデアを取り入れ、自分の発想に基づいて自由に内部構造を組み替えられる仕組みで操作性を多様化することも考えた。

2–2: 音を出す

水を使って音を出すにあたって、そこにどのようにして多様性を持たせることができるかという課題があった。まずは下の写真のように水の落下先に受け皿を用意し、その受け皿の素材に違いを作って音に多様性を持たせることを考えた。また水の落下速度にランダム性や操作性を持たせて生成される音に緩急をつけ、より音のリズムや強弱に変化を持たせて音楽的要素とのバランスを調整できるような構造を模索した。

2–3: Prototype

プロトタイプとしてプロペラ付きの簡易的な水のおもちゃを制作した。水のランダム性をプロペラを取り付けることによって強調し、水が落下するコップに穴を開けることでリズム感のある水の落下スピードを作ることを目指した。一方でプロペラがうまく機能しないなど、改善点が多かった。

3: 最終作品

プロトタイプでの反省点を生かし、素材選びと仕組みに改良を施した。上の写真のように、網目状の天板は六本の木の棒で支えられている。天板からは移動可能な仕組みにするためにフックでモジュールを吊るしており、可変性を維持している。この天板からペットボトルで水を流し、下のモジュールと受け皿にぶつかって音がなる仕組みである。

ペットボトルの水はポンプによって組み上げられ、左の写真のようにまた上から流れるようになっている。これによって循環型の仕組みが成立している。また右の写真のように、コンデンサーマイクを2本利用して集音し、Ableton Liveで音の増幅と自由な加工ができるようにしている。パソコンを通して出力される音はスピーカーなどに繋いで鑑賞することができる。よって作品自体を操作する人間と、パソコンを操作して音に変化を与える人間とで、二人以上の複数人で共同演奏をすることができると言える。作品の操作者はポンプで水を組み上げる速度を変えたり、ペットボトルに圧力を加えて水の出力速度を変えたりできる。パソコンの操作者は自由にエフェクターを操作して音に加工を加えることができる。またそれをレコーディングして一つの音響作品を作ることも可能である。

4: 結論

今回は水を使って日常生活に潜む音の体験に気づきを与えることを目的として制作を行なった。その結果として、水の中にある即興性や音楽性を引き出すとともに、既存の音楽にあり、常識化されているピッチやコードを無視した”音と真剣に向き合う”音楽を制作することができた。

今回の研究活動を記録したNotionページのまとめ↓

https://www.notion.so/toy-6eb1f0ddd1c14fbfa3a2a03473c59dd5

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