[x-Music Lab 22秋]

斎藤理貴
x-Music Lab
Published in
Feb 3, 2023

研究活動1期目

ORF(先輩たちの制作補助)

・分散型パフォーマンスのための習作(モハさん)

デバイスと僕

x-music研究会での最初の活動は松橋百葉さん(修士2年生)の「分散型パフォーマンスのための習作」の制作補助だった。当時は、デバイスの上に乗っている8つのスマートフォンで同時に動画を流す・止めるということができずデバッグをする上で不便だということで、複数端末における動画の再生、停止、再生位置の調整がパソコン上でできるようなアプリケーションをunityで作成した。OSCの概念の理解や、unityとMaxにおける扱い方を学べたことが自分にとって特に大きな収穫だった。

また、アプリケーション制作のみならず、この作品のコンセプトや作品に使う動画など関して検討を深める際に松橋さんから演劇の魅力や歴史、遠藤という地域の歴史や建造物・ロケーションなど実際に足を運んだりして本当に興味深いお話をたくさんして下さった。(水琴窟などもその時教えてもらい、今後音に関して研究していく自分にとって、このような形で引き出しを増やす機会を与えて下さって本当にありがたいです)

メディアセンターにおけるカメラの借り方や使い方、3Dプリンターやレーザーカッターの使い方、DFFの利用の仕方など、SFCで制作をする上で非常に有用な知識も本当に丁寧に教えてくださいました。大変お世話になりました!!

〈試行錯誤とパフォーマンスの様子〉

・Theatron Water(はづきさん、みきさん)

パフォーマンス

ORF2つ目の制作補助は、神田美紀さん(学部4年生)と太田遥月さん(学部4年生)の「Theatron Water」である。この制作ではは非常に検討と試行を重ね、最終的に思い描いた形にできた作品だった。

時には研究室で残留し一晩中検討を重ねたこともあった。。

この作品では、氷の音や滴る水が水面に落ちる音の取り方、氷の固定の仕方、装置の置く場所など考えることがたくさんあったが、どれも先輩方の圧倒的な発想力で解決することができた。圧巻でした。

制作初めからパフォーマンス当日まで本当に楽しく笑いの絶えない制作であり、同時にスピーカーやマイクなど音響機器の操作など勉強になりました、ありがとうございました!!

〈試行錯誤とパフォーマンスの様子〉

・womb(みきさん)

お客さんにコンセプトを説明するみきさん

3つ目の制作補助は、神田美紀さん(学部4年生)の「womb」である。この作品はかなりタイトなスケジュールで完成させた作品であったが、最終的にお客さんにスピーカーで聞かせる体感型のパフォーマンスもできた。

特にORF当日1日目はみきさんの代わりに作品の説明をする機会があり、緊張したが自分の言葉で作品の説明をすることで考えを自分の中でまとめると同時にお客さんと質疑応答をする中でこの作品に対するさらなる考察を深めることもあり、非常に良い経験となった。

2日目は体感型パフォーマンスとして全体にスピーカーで聞かせる実践をし、展示として作品を提供する方法との差異を体感することができた。この実践は、後述するICSAFでの展示の検討に非常に有用となった。

〈試行錯誤とパフォーマンスの様子〉

ICSAF 2022

womb

前述した「womb」という作品を、東京都立大学で開催されたICSAF 2022(Intercollege Sonic Arts Festival 2022)において神田美紀さんと共同製作者として出展した。

ORFでの「womb」という作品からコンセプトを練るうちに、オーディオビジュアライズを取り入れたインスタレーション作品にする方向になった。その中で、モハさんとの制作の中で得たOSCの技術を用いたAbleton liveとunityの通信に加え、初めて扱うunityのshader機能(touch desinerのような)による視覚的表現を実践し、かなり技術的収穫が大きい制作となった。

今回の出展は自分にとって初めての公共のアートフェス展示となり始めはとても緊張していたが、自分達の作品を他の人に評価してもらって話し合ったり、先輩や他の展示を見ることで学びを得たりと本当に有意義な経験となった。

なお、この作品も形にするまで多くの試行錯誤を繰り返し、その度にみきさんの発想力とユーモアにまた圧巻されました。みきさんはICSAF当日に研究発表があった上、眠眠打破を飲んで体調の悪い中、より良い展示にするために尽くしていた姿を見て本当に尊敬しています。この作品に込めるコンセプトに沿った表現を徹底するための議論も本当に深く考えさせられ、より良いものにするための姿勢をよく見習わせていただきました。大変お世話になりました!!

〈試行錯誤とパフォーマンスの様子〉

新規性ワークショップ

x-music研究会での活動1期目であった今期の新規生ワークショップでの発表資料を以下にまとめる。

最終発表

・Xな演奏を探る上で、演奏の特徴と演奏の発端から現状への変遷を考察する

私は、演奏とは人間の本能的に起こる衝動や感情を人為的で即時的な形で呼び起こす行為であり、多様に存在する音楽表現の方法の中でも特にその瞬間の人間的な感情や衝動が高解像度に生じる音に反映される行為であると考える。

例えば天気がよく良い気分の時におだやかなメロディーの鼻歌を奏でたり、太鼓を様々な奏法で叩いて心地よい音を探したりといった行為は、その時の感情を音として昇華させようとする、もしくは生じた音と自分の感情を調和させようとすることによって引き起こされる。ライブのステージやスタジオのような演奏するための場でもないところでこのような現象が発生するのはこれらが人間の本能的衝動であるからではないか

このように考えると、人間の演奏行為はその時の感情に依存しているという特徴が挙げられる。そして私は、その本能的演奏の持つ特徴を超越する、つまり「生じた音が演奏者の感情に依存する範囲を超える、予測不可能性を持った演奏」こそXな演奏であると考えた。

また、私たちのチームではさらにXな演奏を探る上で、演奏という形での人間の音楽との関わりを考えた。すると、今やライブコンサートのような空間において自然となっている「演奏者」と「鑑賞者」という立場の分断は、演奏という行為が生じた瞬間より発生した訳ではなく、当時はその音楽が発生している場にいる人は皆「演奏者」であり同時にお互いの音を聴く「鑑賞者」である、立場の隔たりがない空間だったと推測した。

なお、今でもジャズのセッションのような、「演奏者」同士がお互いの「鑑賞者」となってその場で即興的に生じる音に対して演奏によって干渉する空間は存在するが、そのような場に音楽を聴くのみで全く音楽に干渉しない観客が、いわば「傍観者」ともいえるような立場で存在する。またDJブースにおいて、DJ機器を操作する「演奏者」がその場の雰囲気をもとに曲を選んだりつなげたりする空間では、「鑑賞者」はその場の雰囲気を「演奏者」に参考にされるという面で干渉するといえるがそれでも「演奏者」と「鑑賞者」(観客)という立場が分断されている状況にある。

古来の「演奏者」「鑑賞者」という立場の隔たり、ないし概念がなく、その場にいる人全てが「演奏」をし、お互いに「鑑賞」し合うことで相互に鑑賞しあう空間と、現代に見られる「演奏者」が互いの「演奏」を「鑑賞」し相互に干渉しあうが、それでも「演奏者」と「鑑賞者」(もしくは「傍観者」)という立場が分断している空間。このいずれか一方の演奏形態を再現するのは未知とは言えない。しかし、「演奏」の中で、この双方の空間を行き来する、つまり「演奏者」と「鑑賞者」の立場を分断させたり融合させ直したりして互いの干渉の状態を変化させる空間は、未知なるXな演奏空間であるといえるのではないか。

このような考察を通し、私たちはXな演奏として生じた音が演奏者および鑑賞者の感情を超越する予測不可能性のある演奏を、「演奏者」と「鑑賞者」の立場を分断させたり融合させ直したりして互いの干渉の状態を変化させる音楽形態において実践することを試みる。

・実践するXな演奏

今回私たちのチームではそれぞれが掲げるXな演奏の着想に基づき、演奏を行う。私は「鑑賞者」が演奏に強く鑑賞する方法として、「鑑賞者」より演奏のフィードバック(演奏に対する感想や意見、提案)をモールス信号化し、それを様々な種類の音色を瞬間的な音と少し長い音にして(モールス信号のトン、ツー)サンプリング化することで、生じる音が「鑑賞者」の入力に強く依存する上、そのフィードバックをもとに私が音色に変化をつけることで「鑑賞者」は深く演奏に鑑賞することができると考えた。

また、「演奏者」(菊池くん、保坂さん)との相互干渉として、それぞれの音からMaxパッチ上で音量、パンの偏り、強い周波数の値を読み取り、私が出すモールス信号の音色と掛け合わせ、その値とFM合成によって干渉する矩形波の音を出すことで、「『演奏者』同士の相互干渉」を実現している。なお、その音色をどちらの「演奏者」から受け取るかは、保坂さんの合図(特定の音色を出すというルール付けをしている)によって切り替える。

〈試行錯誤の様子〉

もはさん、さんたさん、みきさん、みおさん、はづきさん、本当にお世話になりました。みなさんそれぞれから様々な分野の魅力や技術のお話をお聞きするのがとても楽しかったし、僕みたいな若造でもお気軽に話しかけてくださり仲良くしていただいて本当に嬉しかったです。今後みなさんから学んだことを活かし、より良い作品制作に努めます!また遊びに来てください!

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