[x-Music Lab 22秋]Moving Auricle:中央集中的な音楽から脱却するためのインターフェイス

Fushi
x-Music Lab
Published in
7 min readFeb 2, 2023

Abstract

Music is composed by a sender of sound, such as a musician or speaker, and a receiver of sound, the listener. In such a structure, the music as perceived by the listener is seemingly entrusted to the performer who creates the sound source. In our research, we produced an interface, the Moving Auricle, to breakaway from the centralized music. The Moving Auricle is a device that uses [- thermally-contracted biomaterial]artificial muscle that contracts with heat, controlled by Arduino to alter the shape of the human auricle. We utilize the property of the auricle as a sound filter and employ this device to vary the timbre between performer and listener. The incorporation of this interface into music listening can cause the experience of the sound to be different for each listener, even though the sound source itself remains unchanged, thus indicating the potential for new musical experiences.

音楽は、楽器奏者やスピーカーなどの音の送り手と、その音を受け取る鑑賞者によって成り立つ。この構造では、鑑賞者にとっての音楽は、音源を作り出す演奏者に委ねられているように思われる。
本研究では、このような中央集権的な音楽から脱却するためのインタフェースであるMoving Auricleを制作した。Moving AuricleはArduinoで制御された熱によって収縮するバイオメタルにより、人間の耳介の形状を変形させる装置だ。私たちは、耳介が音のフィルターとなる性質を利用し、このデバイスを利用して演奏者と鑑賞者の間で音色を変化させた。
音楽鑑賞にこのインターフェースが組み込まれることで、音源自体はそのままであるが、聴こえる音は鑑賞者によって異なるという体験を引き起こし、新たな音楽体験の可能性を示す。

Introduction/Background

音楽は、多様な意味で私たちの身の周りにあふれるものになった。アーティストによる音楽ライブや、飲食店で流れているBGM、あるいは野外に設置されたサウンドインスタレーションなど、多くのモノが広義の音楽として存在しており、私たちは日々音楽と接している。コンサートホールなどで集中的に聴くものだった音楽が、レコードなどによって手元でも聞けるようになり、そこからさらに街で流れる背景音のような音楽へと発展した。これらをみると、どのような形にも、音楽が楽器奏者やスピーカーなどの「音の送り手」とそれを受け取る「音の受け手」によって成り立っているように見受けられる。この構造では、鑑賞者にとっての音楽は、音源を作り出す演奏者に委ねられてしまっているのではないだろうか。音楽が音の送り手にウエイトがある構造になってしまってはいないだろうか。

Design Concept

そこで私は、音の送り手が音を作り出すというウエイトの偏った構造を分散させることができないかと考えた。送り手と受け手の間に介入するデバイスを作成し、音楽の作り手を分散させることを試みた。
今回、分散のために耳介を利用することにした。耳介は、開閉することで音のフィルターになるという働きをもつ。その力を利用して、耳介を動かすデバイスによって「音の送り手」から発された音にフィルターをかけ「音の受け手」に届けることで、既存の構造を脱する。
この装置は、「音源自体には加工を加えず、聴こえる音に変化を加えることができる、音楽構造へ介入する」全く新しいデバイスである。なぜなら以下の要素を持っているからである。
・無から音を生み出せる楽器ではない。音を生み出すことはできないが、入ってきた音をもとに新たな音を生み出す。
・音の再生/出力装置でもない。データによるインプットがあるわけではない。物理的な音を物理的な音として変換しているため、スピーカーのような出力装置ともいえない。
・演奏者でも鑑賞者でもない。デバイスを付け、自分の身体を動かし音を変換するのだが、音を変換するのは自分の身体であり、それを受け取るのもまた自分の身体である。

Implementation

MovingAuricleは、Arduino、バイオメタル、マグネット、紐、PLA製補助具によって構成されている。外観はフェイスチェーンというアクセサリーをモチーフにしている。

ハードウェア
装着の仕方は次のようになっている。紐を耳にかけるようにしてつけ、そのまま頭の後ろで結ぶ。その後、マグネットを利用した挟み具で耳介をMovingAuricleとつなぐ。このとき、PLA製の補助具を使って、バイオメタルの長さを調節することができる。人によって耳の大きさや顔の大きさが違うため、この補助具を調整して、位置を合わせる。そして、スイッチを押すと、Arduinoがバイオメタルに熱を送り制御を始める。それによる収縮によってバイオメタルは耳介の形状を変形させる。

ソフトウェア/耳介の動き
バイオメタルの収縮によって、耳介は閉じるようにして引っ張られる。そして、耳介のもともとの形状の力によって元の形に戻る。収縮には上下左右の組み合わせが16パターンある。パターンが増えることによって聴こえ方にもバリエーションが生まれるといえる。左右での変化は常に全方位から同じ音が聴こえているとは限らないため、左右のレパートリーがあることは面白みにつながる。また、上下での変化は、組み合わせによって若干の聴こえ方の違いがあるため有効である。

Discussion

物理的な加工には人が干渉する余白がある
今回、耳介を利用してみて分かったことは、音楽体験には、物理的な加工によって干渉する余白があるということである。今回はデバイスによって耳介の形状を変え、聴こえ方を変化させたが、人の手で形状を変えることもできる。そのように、物理的に干渉することが可視化された時、 音楽が予測不可能なものになりうるのではないだろうか。
聴き手が変化させることを前提にした音楽
今回は、人が耳介を動かせるようになることで、音の送り手のみに左右されない音楽体験の可能性が見えた。このように、音の送り手が思うがままに音を届けられないという可能性が浮上したとき、送り手の作る音にも変化がみられるかもしれない。送り手と受け手の間で変化することを前提にした音楽が生まれるのではないだろうか。
分散型音楽の実現
今回は、スイッチを押して事前に用意されたプログラム通りに制御するデバイスを利用して耳介を動かした。これが、耳介付近にある筋肉や脳波をセンサーで読み取り、脳/身体の思うがままにうごかせるようになったときどのような変化が起こるだろうか。もし身体の一部として耳介が動かせるようになれば分散型音楽が実現されるのではないだろうか。

Conclusion

本作品では、中央集中的になっている音楽構造から脱するためのデバイスとしてMovingAuricleを提案し、耳介によって耳元で音のフィルタリングを起こすことを試みた。このデバイスによって、身体が「音の受け手」に干渉できることや、「音の送り手」次第になってしまう音楽の構造を脱する一手として新しい音楽体験を提案した。

--

--