[x-Music Lab 23春]うたの力を用いた感動空間の創造/共創

Eishu Nonaka
x-Music Lab
Published in
Aug 4, 2023

【導入】

今期は実践を通じてまず”うたの力”に迫った。また、いくつかの論文を参照しながら”感動”についても理解を深めることができた。その上で、テーマに用いた言葉の意味を再確認する。”うたの力”とは、人の関心を惹き、聞き手の心を動かすことができる力を指す。その先の可能性も含めると無限大である。”感動”とは、驚きのような衝撃度の強い感覚反応のうえに快の気分や感情が加わった体験で、個人の特性や経験を反映した主観的な認識である。また、感情と経験で培った価値観をもとにその体験が自分を改変するきっかけになるかを察知する人間にとっての警報である。”感動空間” とは、聞き手の関心を惹き続け、且つ没入できる環境を指す。

【背景】

なぜ感動空間の創造/共創を行いたいのか?

①感動体験が人々の豊かさを育むと信じているから。

自分自身も過去に葛藤している最中、様々な感動に背中を押されてきた。 先行研究[1]によると感動体験には動機づけに関連した効果, 認知的枠組みの更新に関連した効果, 他者志向・対人受容に関連した効果がある。

②社会に芸術家や研究者、匠の居場所を作りたいから。

意味がない、食えない、じゃあ食うためには、、、と本来在りたい姿から”社会のために”ずれていく人を何人も目にした。たしかに生きてく上では社会に沿った変化が必要なのかもしれない。けれど、私は己の嗜好を己のために追求している人々が大好きだ。彼らに何をやらせるかではなく、彼らのやっていることを如何に社会と紐付けるかを模索したい。そして、紐付ける綱として私の”うたの力”は大きな可能性を秘めているのではないかと考えた。

【今期の実践】

自分の”うたの力”を用いた感動空間を創造/共創を行うにあたり、そもそもの自分の”うたの力”を実感しようと思った。そのために、聞き手にかかってしている「誰が歌っているか/何を歌っているか」というバイアスをできる限り排除した状態での演奏を行なった。名前ボードを出さず、自身のSNSアカウントで告知もせずに路上ライブを行った。渋谷駅、2023/06/10/17:00~(約45分間)、天候は曇り。使用した機材はギター(Fender)/マイク(SHURE)/アンプ(CUBE)。演奏したのは認知度の低いカバー/オリジナル/即興演奏(即興演奏においてはららら・あーといった擬音語を用いた)。

【結果】

・約10組ほど歌い手が映秀。であるということに気づいた。

・5〜6名歌い手が映秀。であることを知らないのにも関わらずSNS/名前を聞いてきた。

・特に2人組の女性は長時間聴いており「感動して涙が出ました」と声を掛けてきた。

・即興演奏中ほとんどの日本人は素通りで、外国人が大きな反応を示した。

・多くの外国人が足を止める/動画をとる/チップを投げるなど積極的に鑑賞していた。

【気づき/分析】

・自分のうたには人の興味、関心を惹く力があった。

脳にはオーディトリーコーテックスという聞いた音がどんな音か周波数帯に分けて理解する所があり、そこでは音楽や環境音、声などさまざまな音として知覚しているものを処理している。その部位が音という現象の中で”人の声”に一番反応を示している[2]。脳科学の観点から見ても”うた”には人の興味、関心を惹く力があると言える。

・自分のうたには曲の知名度に関わらず感動させる力があった。

人が感動するケースは五つある。一つは感覚的(言語化不可)に心が揺れた時。二つ目は新しさに触れた時(幾何学的)。三つ目に懐かしさに触れた時(文化的)。四つ目に意味を感じた時(意味論的)。そして五つ目に連想される世界に共感した時である。今回どのケースに当てはまり二人組の感動を引き起こしたかはわからなかったが、今後も引き続き実践と分析を繰り返していきたい。また、うたの力を再認識した上で感動空間を意識的にデザインし創造/共創していきたい。

今実践を通じて「人がいると人が集まる」ことや「日本人は歌詞があるものに反応していた」ことなどにも気づいた。

【今後の実践】

学部二年の斎藤理貴君が制作している音で育つ木とのコラボレーションを考えている。斎藤君の音で育つ木は聞き手が自然に空間に没入することのできる感動空間を創造するにあたってとても有効な作品であると同時に、演者の演奏も変化させる可能性を持っている。

秋学期では、既存のライブ環境とこのコラボレーションをダイアグラムにし、どのような違いがあるかを分析しようと思う。

また、先日第一回目を終えたマンスリーで計画しているライブ(8/9/10月)ではうたの力を最大限発揮できるように少人数かつ生声が届く範囲の空間で演奏を行う。自分と鑑賞者の感覚が広い環境下での演奏と如何に異なるかを体感してこようと思う。

【引用】

[1]『感動』体験の効果について : 人が変化するメカニズム <論説> 戸梶 亜紀彦

https://ir.lib.hiroshima-u.ac.jp/00017988

[2] The neuronal representation of pitch in primate auditory cortex. Bendor, D., & Wang, X.

https://www.nature.com/articles/nature03867

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