[x-Music Lab 23春]共依存希求からの開放のための共同演奏・作曲snsサービス提供

菊地拓馬
x-Music Lab
Published in
Aug 4, 2023

環境情報学部2年 菊地拓馬

【研究概要】

共依存という関係は、ただ「人間関係の中で起こる、双方が依存し合う事象」という言葉のみによって説明されない。我々は生活の中で物的・人的環境にケアを受け、そのケアに依存しながら生きている。例えば電車の吊り革は身長が一定以上の人間にのみ依存可能な物的ケアであるし、友人に忘れたペンを貸してもらうという行為も人的環境により提供されるケアの受容であると呼べるだろう。それらに依存すること自体は全く問題無いが、人的環境から来るケアの供給源が限られてしまうとケアの受け手、与え手間の力関係が対称でなくなってしまい、与え手が受け手を支配することが可能になってしまう。熊谷は信田さよ子による『新装版 共依存』解説の中で、これこそが共依存という関係の本質であるとしている。また、世には家庭環境やパーソナリティ等様々な要因から十全に人的環境からケアを受けることが出来ない人間も一定数存在する。そして彼らは得てして所属するコミュニティを増加させ安定したケアが受容可能な人的環境を整えるのではなく、たった一人の他人との関係を深めることでそれを補おうとし結果、共依存希求に陥る。本研究では彼らを共依存希求から脱出させる為の手法の一つとして、共同演奏・作曲snsサービスの提供によりユーザーが人的環境からのケアを受容可能なコミュニティを生成する事を提案する。

【研究概要】

2019年から2021年にかけて、コロナウイルス流行の影響により実空間での他人との交流機会が減少した。流行当初、その変化が私の精神に与えた影響はごく小さいものであったのだが、時を経るにつれ段々と人との関わりを求める欲求が膨らんでいった。現代において、大きな費用をかけず自らの人的環境を広げるにあたり最も効率的な手段の一つは、twitter等の不特定多数との交流が可能であるsnsを利用し、既に形成されているコミュニティに参加することだろう。しかしそれらサービスの多くは文章ベースでコミュニケーションが行われており、またコミュニティ毎の暗黙の了解や文脈があるためコミュニケーションを不得手とする人間や文章に対し神経質な人間がコミュニティに参入してゆくための感情的ハードルが高い。私もそのようなハードルによりコミュニティへの参加を諦めた人間の一人であり、現実世界で他人との交流機会が少ない状態でインターネット上のコミュニティからも(自ら)排斥された結果、先述したように人的環境からのケア不足に陥り、共依存を求めるようになった。そして現在も私は誰かとの共依存を求めて、誰かと共依存したいという欲求を抱いている。また、欲求が生まれるプロセスは違えど世間には私と同じように、誰かに共依存したい、共依存されたいと考える人間は少なからず存在すると感じる。そんな人々の為に、そして何よりも私がこの欲求から開放されたい(或いはこの欲求を満たしたい)という動機から、共同演奏・作曲snsサービスの生成を目指す。

現状、plink!というオンライン上でランダムな他人と共同演奏をリアルタイムで行うことが出来るウェブアプリケーションは存在する。plink!の良い点として、生成される音楽の質がシステムに依ってある程度担保されている事により感情的ハードルが、そしてUIが直感的であることにより、認知的ハードルが下がっているため、インタラクトに至るまでの心理的ハードルが非常に低いという事が挙げられる。そして一方、本研究の目的を達する上で足りない点はインタラクトの自由度の低さ故の、依存可能な人的環境としての不十分さである。音色のコントロールや周波数の具体的設定ができないため、小さなインタラクトを楽しむツールとしては効果的だが精神状態の共有等が難しい。この点を改善し、より濃密なインタラクトを低いハードルで行えるサービスを設計する。

【今後の展望】

本研究のテーマにたどり着くまでに多大な時間がかかり、実際のsnsサービスについての具体的実装は現状ほとんど行えていない。直感的に音作りを行うことが出来るデバイス、共同作曲支援アプリケーション、sns、共依存について先行研究などをサーベイしながらより知見を深めると同時に、とにかく手を動かし実装を重ねることで研究目的の達成を目指す。また、目的を達成するための手段は本当にこれで良いのか、検討を続ける。

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