[x-Music Lab 23春]指向性スピーカー×身体運動

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x-Music Lab
Published in
Aug 7, 2023

環境情報学部4年 柴田

はじめに

今学期は「指向性スピーカー」と「身体」の2つのテーマに向き合った。それぞれについては、以下のように考える。

指向性スピーカー

音像が線上に存在し、その線上に耳が重なることで初めて音の存在を感じられるスピーカー。”聴取者”と”スピーカー(音の発信源)”を、音で1対1の関係に結びつけるもの。
また、スピーカー全般におけるメディアとしての特徴である、本来そこにいたら聞こえなかったものを届けることができるという点で、「耳の延長」として捉えることができる。(ここで言うメディアは、「人間の五感を始めとする人間の諸能力を拡張するもの」「用いられると同時に一定の姿勢や態度、身体法、思考方法を要求するもの」とする。)

身体

最も簡単に意志/意識を現実に現す道具で、即時性と操作性を持っている。
関節の長さ/太さ等による可動域、知覚、思考回路等の拘束が予め存在する。

学期中の試行

「指向性スピーカー」と「身体の動き」に着目して新しい音の可能性を探ることを目的に、2つの方法を試した。それぞれについて軽く説明する。

1.指向性スピーカーを身体で動かす

秋月電子のパラメトリックスピーカーキットで制作した超指向性スピーカーを使用している。指向性スピーカーにBluetoothレシーバーを取り付け、無線で音を流せるユニットにし、身体に取り付けた。音を流しながら動きやダンスを試した。以下の例をはじめとした気付きがあった。

・手の甲に装着することで、手の「面の向き」が、踊り手自身に反射音の位相としてフィードバックされる。注意を払っていなかった身体の向きや速度を、音を通して意識下に上がらせる効果がある。

・関節を隔てた身体の部位ごとに「面の向き」が存在する。関節を隔てて別の部位に指向性スピーカーを装着することで、複雑な位相を生み出せる。

・ダンスをする際の意識について、大きくわけて2つにわけられる。①決まったタイミングで決まったポーズが存在し、それを無意識に繋ぎ合わせて踊る方法(アイドルのダンスがそれに近い) ②全ての時間において流線的に、身体の状態の変化を意識して踊る方法(コンテンポラリーダンスやバレエはそれに近い)

2.身体運動の可聴化

手と顔の動きを、その加速度と角速度の値を用いて可聴化した。音のコンポジションにはAbleton Live 11とMax for Liveを用いた。

センサーはSynapswearとTouch OSCを試した。Synapswearは装着した部分のモーションデータや環境データを記録できるウェアラブル端末、Touch OSCはiOSに向けたスマホアプリである。それぞれ、加速度や角速度の値を得て、そのデータをOSCという通信規格を用いリアルタイムで他端末に送信することができる。

動作を可聴化する作業を通して、「溜め」の動作を音に変換することや、センサーから取った値を滑らかに変化させること、動きと音の連関を上手く表現する閾値を設定することの難しさを実感した。

中間発表

7/7の中間発表では、それまで試していた、指向性スピーカーを身体に取り付けることと、センサーの値から身体運動の可聴化を行うことを組み合わせ、デモパフォーマンスを行った。以下にテックライダーを示す。

2つの超指向性スピーカーは両掌に装着した。

音は、x.y.z軸の加速度と角速度がそれぞれ一定の値を超えたときに持続音と単音が鳴るよう、組み合わせて作った。

中間発表のフィードバックや気付きとして、主に以下のようなことが挙げられた。

・指向性スピーカーは、1体複数の空間の中で、音に依って局所的な1対1を生むメディアになり得る。

・ジェスチャー(身体コミュニケーション)を向ける相手と、指向性スピーカーからの音が聞こえている相手が違うと、ミスマッチのコミュニケーションのような面白さがある。

・スピーカーを身体に付けることで、聴こえをあらゆる角度/速度に変化させられることは、体験としての面白さがある。

・聴こえのめまぐるしい変化は、五感の中で聴覚により一層意識を向けさせることができ、パフォーマの存在感の強度を左右しうる。

Miki Kandaとのコラボレーションパフォーマンス

中間発表以降、かんだみきを共同制作に迎えてパフォーマンスの制作に取り組んだ。引き続き「指向性スピーカー×身体」を主軸にしつつ、指向性スピーカーが身体に付いているからこそ生まれる「コミュニケーション」の創発/祖語をテーマに制作を進めた。

パフォーマンス概要

指向性スピーカーをパフォーマーの両掌、両脛に合計4個装着した。パフォーマーの動きとスピーカーから流す音については、スタディーを基に予め台本を作成し、それに沿ってパフォーマンスした。かんだみきは動きを、柴田は流す音の選択をリアルタイムで担当した。テックライダーは以下のようになっている。

両掌・両脛に装着した超指向性スピーカーから音が出る。超指向性スピーカーは無線ユニット化されている。
用いた秋月電子の超指向性スピーカー(左:超音波発信器部分、右:基盤部分)

探求内容(目的)

本パフォーマンスの目的は大きく分けて2つある。

1つ目は、指向性スピーカーを身体に着けると、どのようなメディアとして機能するのかを探求することだ。具体的には、聴取者にどう聴こえるのか/聴こえ方の新しい体験を作ることができるのではないか/鑑賞者とパフォーマーの間に、音による新しいコミュニケーション形態を創ることができるのではないか、という観点から、パフォーマンス形態の模索を行った。

2つ目は、パフォーマーが指向性スピーカーを装着して動くとき、装着してないときと比べてどのように動き/表現が変わるか探求することだ。制作中にパフォーマーと議論する中で、指向性スピーカーが身体にあることにより、パフォーマーが聴衆者一人一人への聞こえ方を意識するようになること/音や鑑賞者の反応といったフィードバックが次の動きのヒントになること、が判明した。それらをできるだけ記録することを意識した。

制作方法

機材に関して、パフォーマンスにあたり指向性スピーカーの基盤部分と超音波発振器部分をそれぞれ補強した。基盤部分は衣装の背中のポケットに収納し、超音波発振器部分をゴム紐で対象の部位に取り付けた。

本パフォーマンスの設計思考の軸は、「指向性」が存在する意味を最大限活かした「身体性の出現」と「コミュニケーション」にある。特に、「1パフォーマー対複数の鑑賞者」の構図の中に、音で「1パフォーマー対1鑑賞者」を作りだすことは重要視した。

音と動きを設計していくにあたり、2つの手法を取った。今からそれぞれの手法について順番に説明していく。

手法①聴こえ方を元にして動きを考える方法

自由に動きながら音を聴きながら、面白いパターンを何個も見つけていった。動きの特徴や、その際に流すと聴こえが面白かった音の特徴を言語化し、表のようにまとめながら模索した。

手法②『対象の鑑賞者に音を聴かせようとするポーズ』から生まれる、聴こえ方から探る方法

パフォーマーを取り囲むようにして座ったり立ったりする鑑賞者の内、この鑑賞者たちに音を当てる、という決まりと順番を決め、それに従って動いていく方法だ。制作過程では、鑑賞者に見立てた椅子をパフォーマーを取り囲むようにランダムに4か所に設置し、即興的にそれぞれの椅子に対して音が当たるようなポーズを取ってもらった。

椅子に音を当てる際には、両掌・両脛に付いたどのスピーカーでどの椅子に音を当てるかを、自由に決めてもらった。この試行は、パフォーマーが今までにしたことのないような新しいポーズを発見できる点、また、前のポーズから次のポーズに移り変わる動きにどのような癖や新しさがあるか観察できる点で有効だった。また、両掌・両脛に付いた指向性スピーカーを人に当てようにするときのポーズは、両脚の形態によって大きく5つに分類することができるとわかってきた。

パフォーマンス内容

7/28にβドームで行った最終発表では、下記のような動きと音の構成でパフォーマンスを行った。

前半:聴こえと動きの関係性をパターン毎に提示していく

1,天上の中央に音を当てた後そのまま回転するーオーラを溜め込んでいるような高音のアンビエント
2,座りながら手を前に付きだし回転するー低めの持続音
3,小刻みに波打つように両手を揃えながら上下させるー高めの持続音
4,立ち上がり、脚を前にスライドさせながら一歩出し膝を曲げるーホワイトノイズを中心としたノイズ音
5,踏み出す脚を前に、蹴り出す脚を後ろに大きく振り上げながら歩くー
6,普通に歩くーホワイトノイズを基底に流しつつ様々な音程の持続音
7,両手を横に伸ばして広げて脚をスライドさせて回転するー高めの持続音
8,両手を下から上に大きく円を描くようにして回すー襞感のある持続音、途中にアクセントになるような低音の不気味な突発音
9,これまで使った動きを組み合わせて自由に大きく動くー

後半:鑑賞者1人1人に対して個別に音を届ける

1,手を振る
2,以下の①~④の順にポーズをとる
①3人に対して3個のスピーカーで音を当てられるようなポーズを取って4秒静止する
②顔の向きを変えて更に4秒静止する
③4秒かけて音を狙う3人の相手を変えながら再び①のポーズをとる。
④ ②③を繰り返していく

パフォーマンス考察

意図的と偶然性がどこまで可能性を広げたか

フィードバック

展望

来学期も引き続き、超指向性スピーカーと身体の動きを題材に新しいコンポジションやパフォーマンスについて考えていきたい。

身体運動については、Joycon,Myoなどを用いたセンサーのスタディと身体運動の可聴化にも挑戦したい。

超指向性スピーカーを用いた作品作りについては、まずハード面では、電池の重さを解消すること、基盤部分と超音波発信器部を結ぶ動線や配線を強化すること、無線の送受信を工夫して指向性スピーカーに送れる音の種類を増やすことなどが課題として挙げられる。基盤部の回路も、より省電力で駆動するよう工夫できる可能性がある。

また作品設計の視点からも試したいことが沢山ある。鑑賞者の位置を設計することでパフォーマーの動きを作っていく方法や、

鑑賞者とパフォーマーの関係図を崩す。鑑賞者に装着できる超指向性スピーカーデバイスを開発し、鑑賞者の動きが鑑賞者たち自身に音影響を与える作品なども考えたい。

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