[x-Music Lab 23春]

Minna Hosaka
x-Music Lab
Published in
Aug 3, 2023

今学期は、音と味覚の類似性に関する仮説を立てて、研究を進めた。

まず初めは、人の評価とフレーバーラーニングの概念を音楽や音の世界に応用し、不快な音が好きになる可能性について考察した。また、フードペアリングや音楽の組み合わせには科学的な方法があるものの、最終的な評価には経験や感性が重要であることを強調する。

フレーバーラーニングとは、好きな味と新しい味を結びつけることで新たな味を好きになる現象である。同様に音楽の世界でも、好みのある音や音楽と新しい音を結びつけることで、新たな音楽体験を好むようになることがあると考えられる。例えば、初めて聴いた不快な音が、何度も繰り返し聴くことで慣れ親しむことがあり、その音が好ましいものとして認識される可能性がある。

フードペアリングや音楽の組み合わせには、科学的な方法論を用いることができる。音楽の場合、音の周波数や音程、音色などのパラメーターを調整し、予想外の組み合わせを試すことで新たな音楽表現が生まれる可能性がある。同様に、食材の香りや味を分子レベルで考え、予想外の味わいを発見するフードペアリングの手法を音楽に応用することで、新たな音楽体験が生まれる可能性があると考えられる。

味の時間軸と強度軸

一方で、フードペアリングや音楽の組み合わせにおいては、科学的な手法を用いても経験や感性が重要な要素であることを理解する必要がある。好みや評価は主観的であり、個々人の経験や文脈によって大きく異なるため、何が良いかは個人の感覚によるものである。フレーバーラーニングにおいても、人それぞれの好みによって新たな味の好みが形成されることを考慮する必要がある。

本研究は、フレーバーラーニングや音楽の組み合わせにおける人の評価に焦点を当てたものであるが、その限界として主観的な要素が大きいことを挙げることができる。評価や好みは個人の経験や感性に強く影響されるため、客観的な評価を得ることは困難である。今後の展望としては、より多くの評価者を対象にした調査や実験を行い、客観的なデータを得ることが重要となるだろう。また、人間の感覚が音や味だけでなく、その他の要素にも影響されることを踏まえ、総合的な評価手法の構築も必要であると考えられる。

しかしそこで、客観的なデータを入手することが難しいという問題に直面したため、自らの感覚を徹底的に考察し、探求することに方向転換をした。

最終発表では、「味覚」と「音楽」の類似点に着目し、料理や食べ物を音楽のような要素で構成する可能性を仮説として提起している。ADSR(Attack, Decay, Sustain, Release)などの音楽で使われる要素を料理に応用し、異なる要素を組み合わせることで豊かな味わいや盛り上がりを生み出すことを考えた。ただし、この研究では主観的な感覚を客観的な数値で測定するのではなく、私自身の感覚を身体を使って評価しようとしているため、アート寄りのアプローチを採用している。

辛さのADSR

また、偶発的相関(Spurious Correlations)の考え方も重要な要素として取り上げられています。音と味覚に共通する要因があるかもしれないが、それらが因果関係を持つわけではなく、結果として音楽や味が異なるものとして現れる。つまり、同じ要因が異なる結果に寄与することがあるが、それらの結果が直接的に相互に影響を及ぼすわけではない。音と味覚の相互関係について誤解や誤った因果関係を避けるために、あえて強引に因果関係を作り出すことで、両者の複雑な関係性を理解しようと試みた。つまり、見かけの相関や主観的な経験がもたらす可能性について考察した作品となっている。

cf. 最終発表でいただいたフィードバック

・元の楽曲を加工して別のバージョンを作るリミックス、普通の音楽構成とは異なるアプローチを取る、BPMの変更やギターのペダル操作など、多様な手法を用いて新しい食を創造すると面白くなるのではないか。

・味覚と音楽には関連があり、音楽を聴くことで味覚の感じ方が変わることもある。甘い音楽が甘さを強調し、変わったリズムでも楽しむことができるなど、相互に影響しあうのではないか。

・音の組み合わせやラムネの音など、特定の音が食べ物と結びつくこともあるのではないか。音楽を演奏する人や料理をする人が、食事の際にどんな音楽や調理音が合うかを考慮すると面白そう。

・人間の営みに関連した音楽や料理の組み合わせを追求することで、新しい音楽体験や食事体験を生み出すことができそう。

・音の強さや音量によって、味覚の感じ方に影響があるのではないか。うるさい音が辛さを軽減するなど、音と味覚の相互作用があるのではないか。

・マリアージュとして音と食事の組み合わせを考えることで、より一体感のある食事体験が生まれそう。音楽の音量と食事の味わいが比例するなど、音楽が食事体験に影響を与えるのでは。

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