[x-Music Lab 23秋]Moving AuricleとHearing Composition

Fushi
x-Music Lab
Published in
Jan 26, 2024

慶應義塾大学x-Music Labに所属している環境情報学部4年の佐野風史(Fushi Sano)です。

今回は、秋学期に制作・体験展示を行った「Moving Auricle」についてと、これまでのMoving Auricle seriesを作りながら考えてきたHearing Compositionの概要を簡潔に残します。

学部在学中のMoving Auricle seriesの作品も、本作が最後になりました。今学期のMoving Auricleでは、形状記憶合金を用いたタイプのデバイスを用いて、作品制作と体験展示を行いました。

背景

近年、私たちの生活の中では、身体を離れたデジタルな音の加工が当たり前となっている。DTM用ソフトウェアによるエフェクトや、ノイズキャンセリングなどは、デジタルな音の聴こえの変化の良い例だ。しかし、音の聴こえを変えることができるのは、コンピュータなどを使ったデジタルな変化だけなのだろうか。

一度、私たち人間の身体を離れ、人間ではない、他の生物種を見たとき、耳介が動いていることに気づく。

耳介とは、耳全体の内で外に出ている部分のことである。形状を変化させることで、音の聴こえてくる方向を変えたり、音にフィルター効果をかけたり、覆いかぶせることで音の反響を生み出すことができる。しかし、人間の耳介には大きく形状を変えられるほどの筋肉はない。

目的

他の生物のように、人間が耳を動かすことができるようになったとき、そこにはどのような音の風景や体験が広がっているのだろうか。今回は、そのような視点から、耳介という「聴こえ」を変化させる部位を制御し、デジタルな音の変化に頼り過ぎない新たな音響体験を作ることを試みる。

本作品は、人間の耳介の代わりに動き、聴こえに変化を生むMoving Auricle Deviceを使用して制作された、音の「聴こえ」の変化に耳を傾ける体験である。本来は自力で開閉することのできなかった人間の耳介に開閉機能を付与することができるデバイスによって、耳介の形状の変化を制御できるようにすることで、装着者の「聴こえ」に変化を与える。人と機械が協働し新たな能力を手に入れたとき、どのような新たな感覚や感性が生まれるのかを模索した。

実装

楽曲中に耳介の動きが組み込まれる仕組み

本作品では、楽曲の中に耳介の動きをコンポジションする手法をとっている。耳介の動きは、Ableton Live上で、耳介を動かすためのMax Deviceを制作し、制御できるようにした。耳介は、バイオメタルという熱によって収縮する素材の運動を利用し、動かした。

音源の制作手法

今回の体験では、聴こえの変化を体感するための音源を用意した。実際にこのデバイスを付けて街や自然環境を歩き、音の聴こえの変化を調査する中で、面白かった音の「聴こえ」の変化が生まれた音をレコーディングし、一つの音源としてまとめた。音源の制作にはAbleton liveを使用した。

最後に

これらの制作を通して、浮かび上がってきたHearing Compositionという手法を、私は卒業論文で提案した。

完全提出後、こちらに追記しておきます。

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