[x-Music Lab 23秋]Sonic Rhopalia 制作と生活から垣間見る、音楽と私

松田蓮
x-Music Lab
Published in
Jan 26, 2024

慶應義塾大学 環境情報学部1年 松田 蓮 / Ren MATSUDA

はじめに

2023年秋学期より、x-Music Lab.に参加した。

「憧れの舞台」と言っても過言ではないこの場所で、実際の制作を通して、さまざまな学びと成長を手に入れた。同時に、日々の生活の中に眠る音楽の可能性や、向き合い方に葛藤した半年間でもあった。

x-Musicでの活動を総括しながら、私と音楽とのかかわりについてさまざまな側面から考察したい。

「Sonic Rhopalia」

2023年10〜12月の記憶の8割弱を占めているプロジェクト。

シンプルかつ、美しい生動を持つクラゲ。世俗から独立し、完結した環世界を持つ、彼らの特徴的な拍動からサウンドを生成するサウンドインスタレーション作品、「Sonic Rhopalia」は、記念すべきx-Music Lab.における私の初参画作品となった。

本プロジェクトProject Leadの平良建史朗が持つ「クラゲ」に対する熱と情動は並大抵のものではない。「クラゲ」という一生物に過ぎないものの、その生物に対する向き合い方、触れ方、扱い方に感動を覚えたのをよく覚えており、そのスタンスがあったからこそ、私たち作品制作チーム「ZΩH(zoi)」は、「Sonic Rhopalia」を産むことができたのだと思う。

Sonic Rhopalia — 2023.12.09

はじめての「制作の現場」は、「憧れの舞台」という言葉で片付けられるほどに、華やかな世界ではなかった。寝て起きてはクラゲ。次から次へと生まれる課題と、完成ビジョンの見えない展示に恐々としながらも、とにかくつくってつくってつくり続けなければならなかった。

私は作品における、什器設計・制作を中心に担当した。朝早くから起床して、ツナギを着て、1日木材加工する日々が訪れるとは想像もしていなかった。

変化してゆく時間の中で、変わらずクラゲと向き合い続けている自分が、そこにはあった。

創造の現場は過酷だ。過酷だからこそ、妥協をしないからこそ、より良い作品が生まれる。自分自身の創作に対する向き合い方の甘さと、制作への心構えに葛藤し苦悩した。

そんな日々の生活の中で、ゆっくりと(実際にはバタバタとしながら)多くの経験を手に入れていった。設計から加工まで、「実装をおこなう」ということの大切さに強く気付かされ、街を歩く中でのテクノロジーの見方が少し変わった。誰かが妥協せず、向き合い続けて創ったからこそ、私たちの生活があることを再認識した。

12月初旬、横浜・みなとみらい 象の鼻パークにておこなわれた、「ZOU-NO-HANA FUTURESCAPE PROJECT 2023」にて、「Sonic Rhopalia」を出展・展示した。

体験として「届く」ということに再び考えを巡らせながらも、多くの鑑賞をいただき、さまざまな声を聴き、「つくること」そのものを愛していることを改めて認識した。

その上で、自身が設計した什器にミスがあったり、自身のTechに対する実装力及び理解力不足が大きく浮き彫りになったり、より正確かつ細かな部分までも作品をディレクションする力を身につけなければならないと強く感じた。

私たちとは異なる世界観を持ち、揺蕩い続けるクラゲに、少しだけ羨望の眼差しを向けたことは事実である。

「生活と音楽」

2023年3月。17年間暮らした新潟県を離れ、ここ湘南に遥々とやってきた。

「豊かな自然」という条件は変わらずとも、ひとびとやすみか、食事、そして何よりも個人の制作環境は変化し、激動の1年であったことは間違いがない。

日々複雑に変形してゆく自分。高次的に変形していけばいくほどに、自分の創作がわからなくなった。さまざまなインプットを経て、「音楽」という解釈が広がったからこそ、広さにただただ呆然と立ち尽くすだけで、自分の創作の源を見つけられなくなった。

どれだけ成長しようとも、成長していない自分がいるように感じて、自分にがっかりする。失望する。でも、自分の創作を一番信じる人間は自分でありたいがために、自分を誤魔化す。一歩ずつ、自身の創作への向き合い方がぐにゃぐにゃと熱を帯びて萎れていくようだった。

10〜12月、さまざまな生活の要素の中で、「Sonic Rhopalia」は生活のほぼ大半を占めていた。この創作に自分ひとつを完全にベットした。

そうした経験があってか、少しずつ自身の創作の方向性が見えてきたような気がする。

生活の中に眠る体験を拡張させるような音楽体験を創造したい。

時間は限られてくるし、本年も日々複雑に自分自身は変形してゆくだろう。その中でも揺るがぬ軸を持ち、よりよい体験を創造し、届けたい。

まだまだ志半ばだ。何も納得のいく創作は作れちゃいない。きっと納得いく日は来ないと思うが、妥協なき創作を心がけ、より苦しんでより楽しんで音楽と向き合いたい。初めて音楽を創造したときの微熱のようなものを大切にしたい。

来期からは、新たなプロジェクトを始める。より「生活の拡張」に焦点を当てた、鮮やかな体験を創出する。

改めて、多くの気づきと学び、反省、より良い創作の実現のための言葉を、寝る間を惜しんで与えてくださったすべての人に、心から感謝を申し上げたい。

本当にお世話になりました。ありがとうございました。

「ZΩH(zoi)

もうすぐまた春が来る。19歳にもうすぐなる。

十で神童、十五で才子、二十歳過ぎれば只の人。

「只の人」までのリミットは近い。

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松田蓮
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