ドイツ・ウルム大学で1年間研究留学した話

yukimatJP
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14 min readDec 16, 2019

この記事は、研究留学 Advent Calendar 201916日目の記事です。2017年10月〜2018年9月までの1年間、ドイツのウルム大学にて研究留学をしました。この記事ではその留学経験について振り返りたいと思います。

目次

  • 留学先について
    - 街について
    - メシについて
    - 大学について
  • 研究留学に至った経緯
    - 留学のきっかけ
    - 留学費の獲得について
  • 研究留学が始まってからのあれこれ
    - 生活基盤構築
    - 大学での生活・研究について
  • 余談:留学後の交流
  • 余談:博士号取得にまつわるトラブル

留学先について

ドイツ・ウルム

Ulm(ウルム)は、ドイツの南部にあり、Baden-Württemberg(バーデン・ビュルテンベルク州)と Bayern(バイエルン州)という2つの州の境界線となっているドナウ川に面した街です。

日本人は100人ぐらい居るらしいですが、滞在期間中エンカウントできたのは3人だけでした。

Frankfurt からはICEで3時間ぐらい、München からはICEで2時間ぐらい。
ドナウ川を挟んで北西が Ulm、南東が Neu-Ulm。

小さい街ですがいろいろ見どころがあっていい感じです。例えば…

  • アインシュタインの生誕の地
  • 世界一高い教会建築 Ulmer Münster(ウルム大聖堂)
  • 世界一傾いている家 Schiefes Haus(シーフェスハウス)
  • 南ドイツで一番美しい図書館 Bibliotek Kloster Wiblingen(ヴィブリンゲン修道院図書館)

余談:同じ Ulm の名前を持つ2つの街(Ulm, Neu-Ulm)が違う州にあるっていう、面白いところでもあります。

Ulm(ドナウ川北西側)
➔ Baden-Württemberg
Neu-Ulm(ドナウ川南東側)
➔ Bayern

当然、行政も別々です。

地ビール

  • Barfüßer
    自営レストランで飲める。Barfüßer Schwarze が激推し
  • Gold Ochsen
    地元ビール会社って感じ。スーパーで買える。レストランでも飲める。ビール工場が見学できるらしい(結局行かずじまい)

推しメシ

  • Haxentopf
    スジ煮込みシチューみたいなやつ。日本にはない味。まじうまい。Barfüßer で食べられる。
  • Döner Kebap / Dürüm Kebap
    ケバブ。ドイツ料理ではないが兎に角そこら中にある。全店味が違う。Feinkost Uyar と City Kebap Senol がおすすめ。もう、今食べたい。
  • Flammkuchen
    ドイツ南部のピザに似た食べ物。トマトは使わず、サワークリームみたいなのがベースになっている(なので全面的に白い)。

推さないメシ

  • 寿司
    ドイツ南部は海から遠い。水は硬水。
  • Linsen mit 〇〇
    レンズ豆と〇〇。この地域(Schwaben地方)の伝統料理。
    一皿の中でのレンズ豆の占める割合が多くて圧倒される。
    個人的に苦手だった(多分、個人差あり〼)。

ウルム大学

Universität Ulm(ウルム大学)は、1967年創立のわりと新しい大学。ウルムの街の北西部にある山中、Wissenschaftsstadt(サイエンスパーク)の中にある。大学病院が併設されており、医学系が主力っぽい感じ。ロゴにも杖に蛇がぐるぐるしてる奴(アスクレピオスの杖)が書かれていることからも医学感がにじみ出ています。

日本人はほぼ居ないらしく、実際1年の滞在期間中に出会うことはありませんでした。つまり、真に日本語(=逃げ場)が存在しない空間ができていて、いろいろと鍛えられました。

僕は、Ulm大学の中の、 Institute of Communications Engineering(NT)という研究科に留学しました。NTはさらに Algebraic Coding Theory, Communication Theory, Dialogue Systems の3つのグループがあるのですが… 全部異分野!今回の留学では、Wolfgang Minker 先生 率いる Dialogue Systems グループ にお世話になりました。

研究留学に至った経緯

きっかけ

そもそも、なぜ異分野に飛び込むことになったのか…というと、人と人の繋がりタイミングに恵まれたからと言わざるを得ません。

人と人のつながり: もともと、奈良先端科学技術大学院大学の別の研究室の教授が、Minker 先生と研究領域が同じため、研究交流があったそうです。そして数年前、何かの縁でウチのボス(安本先生)がウルム大学に行く機会があり、Minker先生とも仲良くなり…。「これから一緒に何かしよう!」となっていたようです。

タイミング: そんな中、NAIST・ウルム大学間の協定が結ばれ、ダブルディグリー・プログラムが開始されたわけです。こりゃ行くしか無いでしょ、お膳立ては完璧です。その時、ちょうど僕がD2だったこともあり、教授に声をかけてもらったことをきっかけに、研究留学に行くことに。

チャンスは常にどこかに転がっている。人と人の繋がり・タイミングは見逃さないようにするのが大事!

留学費の獲得

1年の留学にはお金がかかるためなんとかしないといけません。

これまたタイミング良く、日本学術振興会の「若手研究者海外挑戦プログラム」の第1回募集がちょうどあり、これは応募せねば!と即応募しました。確か「派遣元・先の了解を得て既に留学準備を進めている」、といった結構厳しい条件があったのでサクッと通りました。

僕の次の年も同期が通ってたので、比較的狙いやすい部類の奨学金と思われます。滞在費として100〜140万円支給してもらえるので使い道が制限されずメッチャ便利です。

研究室のサポートに頼るだけでなく、自分でも取りに行くぜ!というぐらいの気持ちも大事。

研究留学が始まってからのあれこれ

生活基盤の構築

3ヶ月以上(=観光ビザの最長期間以上)の滞在になると、突然いろいろと申請や準備などが大変になります。ここでは、特に留学生活を開始するにあたってクリアしないといけないことを一部紹介します。

  • モバイル通信環境(SIMカード)
    スーパーマーケット各社がプリペイドSIMカードを販売しているので、ソレを使っていました。LiDL のが安くて安定感がありました。ただし、ビデオ通話で身分確認されます。ちょっと緊張します。
    ※ 最近は、イギリスの Three 社が世界主要国で使えてしかも安いプリペイドSIMを販売している(日本からも買える)ので、それがベストアンサーだと思います。
    https://www.three.co.uk/Store/SIM/Pay_As_You_Go
    ※ ドイツのモバイル通信環境はかなり悪いです。

    ※ LiDLのSIMカード設定方法などは以下の記事にまとめてあります。
  • 住民登録(Anmeldung)
    まず滞在を開始したら住民登録が必要です。簡単な手続きでいけます。
    ※ 詳細は以下の記事にまとめてあります。
  • 滞在許可証の手続き(Aufenthaltserlaubnis)
    3ヶ月以上滞在するためには、滞在許可証をゲットする必要があります。なんと、滞在許可証の種別によっては、日本でしか準備できない書類が多々あるため要、要、要注意です。
    ※ 詳細は以下の記事にまとめてあります。

トラブルを乗り越えて、3ヶ月過ぎたあたりに感じる「俺は観光じゃなく、ここに住んでる」という感覚は、やらなきゃ味わえない。

大学での研究

周りのドイツ留学者の話を聞く限りでは、ドイツでのPh.D.学生の研究スタイルは「個人主義」であること多いみたいです。ウルム大学の Dialogue Systems グループもそのやり方でした。

Ph.D.学生は、1室2名の部屋があり、各々が独自に研究を進めていく。さらに、全体で集まるゼミなどは基本的には無く、まさに個人プレー。

幸い、教授を含めその日大学にいるグループ全員で、食堂に行って昼ごはんを食べる文化があったため、日常会話をする機会はたくさんありました。ただ、昼ごはん時の会話は、ほとんどが研究以外の話で「オン・オフ」がしっかりついているなという印象でした。

しかし、部屋に戻れば、一人です。
あーーー。やばい。さては、孤独死してしまうな?

ここで大事なのがこれでした。

留学先では研究パートナーを見つけろ!

僕の場合は、幸いにも Dialogue Systems グループの中に、僕の研究テーマと相性の良い研究をしているPh.D.の学生がいて、彼と一緒に研究プロジェクトを進めることができました。

留学中に仲良くなったPh.D.学生は、2019年春にNAISTに短期留学しに来て、僕の研究の被験者@京都にもなってもらいました。

僕の留学中の研究テーマは、観光中の観光客の仕草を分析することで、観光し終わった後の心理状態(満足度や感情)を推定するというものだったので、実環境での実験は必須でした。土地勘のある学生に手伝ってもらえたのは非常に心強かったです。

さらに、研究プロジェクトでずっと一緒にやっていくなかで、その学生と仲良くなり、他の学生も巻き込んだアクティビティや旅行など、研究以外のこともすることができました。

せっかくの留学、研究は当然ながら、それ以外も充実させないとですね!

周りを見ていても、留学先での研究がうまく加速されているのは、現地学生とうまくコラボレーションできている場合が多いので、ぜひ研究パートナーを見つけましょう!

最終的に、この研究留学を通して得られた成果は、国際会議4件、国内研究会2件、国際ジャーナル1件 になりました(現在も継続しているので増加中…)。

余談:留学後の交流

国際ワークショップの開催

Minker 先生と安本先生のオススメもあり、上記で一緒に研究プロジェクトを進めた学生と2人で、PerDial 2019 という 国際ワークショップを企画し論文募集、査読、開催まで一貫してやらせてもらいました。

Ph.D.学生2人でワークショップ開催なんて、留学する前は全く想像できなかったのですが、やればできるもんですね。

NAIST-ウルム大学間の交換留学

僕の留学期間終了後、双方向に短期留学として学生を派遣・受入したり、その中から4名のダブルディグリー・プログラム入学生が現れたり、研究コラボレーションが活発になっていってます。

1年のような長期留学をした人は、こうしたコラボを進めるにあたってのパイプ役として活躍できるという側面もあります(どっちのこともよく知ってるので、とりあえず呼ばれる)

余談: 博士号取得にまつわるトラブル

ここまでトントン拍子でしたが、留学には当然トラブルがつきものです。

前述の通り、NAISTとウルム大学はダブルディグリー・プログラムの協定を結んでいるため、ドイツで博士号を取得することに挑戦しよう!ということになってました。

ウルム大学やドイツの学位認定機関に、準学士〜修士までのあらゆる証明書を出し(高専という概念はドイツにはないため、準学士の説明がメッチャ面倒だった)、ドイツの Ph.D. Candidate として認めてもらいました。

しかし私は、日本学術振興会の特別研究員
ポケットモンスターのサトシと同じです(2019年12月1日放送より)。

この特別研究員、と〜っても不思議なルールがあります。

学振特別研究員はダブルディグリー・プログラムに参加できない

これは、学振以外の別の肩書は持ってはいけないよ、というルールに基づくものだと思われるのですが…(ダブルディグリー・プログラム = 別の大学に入学することになる。すなわち複数の肩書を持つことになるのでダメというロジックだと思われる)。

つまり日本学術振興会はこう言ってるわけです。

海外研究留学にはドンドン挑戦しろ、ただし、海外で学位を取ってはいけません。

まあ、ルールはルールなので仕方がない。
たかだか1名の特別研究員の力ではどうにもなりません。
ダブルディグリー・プログラムは諦めました。

結果的には別の方法でなんとかしたわけですが…。これはまた別のお話。

最後に

謝辞

今回の留学は、スーパーバイザの教授の先生方、留学先の学生、仕事をやめて一緒についてきてくれた妻の支えがあってとても充実したものとなりました。ありがとうございます!

質問などはお気軽に

ドイツの留学について質問があれば、いつでもどうぞ!

Twitter: @yukimatJP
Facebook: fb.me/yukimat.jp

⬇ 今年のはじめに、同じくウルムに留学する方から問い合わせが来たことがあったので、お気軽にどうぞ。

⬇ 留学時のブログもあります(ほとんどソーセージの話だけど)。

以上!

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奈良先端科学技術大学院大学 先端科学技術研究科 ユビキタスコンピューティングシステム研究室(NAIST-UBI) 助教 / 吹奏楽団 インプリメーレ / Code for Ikoma / Code for Youth