ZBC#104 [笑いが促した進化] 人類進化の謎を解き明かす
本日は、2018年8月11日に開催されたZenport Book Club#104から人類進化の謎を解き明かすをご紹介します。
※Vol83よりZBCは英語で書いてきましたが、今後私が読書を通して何を考えたかを、日本人の方にも日本語で伝えたいと思ったため、日本語と英語で提供してまいります。
これまで人類進化の研究は主に、化石や地球環境といった視点から行われてきました。
しかし、ダンバー数を提唱したことで有名なロビン・ダンバー教授は、人類進化の謎を認知的側面と社会的側面という視点から解き明かします。
そこから見えてきた真実は、人類が物理的制約に創意工夫で立ち向かってきた歴史でした。
Summary
- 人類進化の物語をは二つのアプローチから解き明かせる。すなわち社会脳仮説と時間収支モデルである。
- 一つ目の社会脳仮説は、人間の持つ高度な知的能力は、複雑な社会的環境への適応として進化したとする仮説である。
- 時間収支モデルとは、限られた時間をどう配分するかによって生物の進化を考察する手法だ。生物は生存に欠かせない「摂食、移動、休息」と集団維持のための「社交」に、限られた時間をどう配分するかによって、種としてのあり方を形成してきた。結論からいうと「社交」にどれだけのリソースを割けるかが、種の進化を左右する。
- 人類はアウストラロピテクスから現生人類に至るまでの約四百万年の歴史において、いくつかの発明によって社交に用いるリソースを増やしてきた。例えば火がそれにあたる。火は調理によって消化に使うエネルギーを削減し、余剰時間を産み出した。また火を灯りとして使うことで、夜の時間も社交に使えるようになった。
- 笑いも社交に使うリソースを拡大させた。つまるところ社交の目的は脳内にエンドルフィンを発生させて個のつながりを強めることである。しかし人類がそれまで行っていた社交方法である毛づくろいは、一対一でしか行えないため生産性が悪かった。そこで人類は一人が複数人にエンドルフィンを発生させる方法を生み出した。それが笑いである。音楽や物語も同様の文脈で誕生した。
- 笑い、音楽、物語の発展を促したのは言語の発展であった。また言語の誕生に関わっていたのが前頭葉の発達である。この前頭葉の発達を促した一つの要因が複雑さを増した環境であった。すなわち、複雑性を増した環境が言葉を生み出し、それが笑い、音楽、物語を生み出し、それが更に環境の複雑化を促したのだ。言ってみれば進化の正のループが回っていたのだ。
- またここには、ネアンデルタール人が絶滅し、私達ホモ・サピエンスが生き残った理由が潜んでいる。ヨーロッパを拠点としていたネアンデルタール人は、日照時間の少なさから視覚系(後頭葉)にリソースを割く必要があった。一方日照時間が相対的に多いアフリカで生まれたホモ・サピエンスは前頭葉の発達により多くのリソースを割くことができた。これが社交力に差を生み、ホモ・サピエンスの出アフリカ後、ネアンデルタール人はホモ・サピエンスによって絶滅に追い込まれることとなった。
Discussion
- 人類が毛づくろいから、笑い・音楽・物語を経て成熟した過程は、組織が文化を浸透させることで成熟する姿に似ている。そう思うと、私達は会社という単位で、人類の歴史をなぞっているにすぎないのかもしれない。となると会社に必要なのは、集団が共有して熱狂できるストーリーと、楽しく仕事ができる環境となる。なんとも当たり前な帰結に至ってしまったが、これが人類の本質なのだろう。
- 時間収支モデルは、そのまま分業制の議論に転化できる。火を手に入れて以来、人類は個としてだけではなく、集団としての総時間を分配し進化を遂げてきた。活版印刷や文字による時空を超えた知の共有、蒸気機関による産業革命、トランジスタによる情報革命もその流れに連なる。とかく人類とは、個と全体で、時間(物理)制約の枷を取り払ってきた種と定義できる。
- 常々思うが、人類史から現代を見つめ、生き方や経営のあり方を考察することは多くの示唆を与えてくれる。変化が早く情報が氾濫する現代においては、ときに目前の事象に囚われ踊らされてしまうが、人類史を見つめ事象を点では無く線として捉えることは、それを阻止してくれる。
Conclusion
本日は人類進化の謎を、社会脳仮説と時間収支モデルの観点から解き明かした「人類進化の謎を解き明かす」をご紹介しました。
次回はZBC#105から「学習する組織」をご紹介します。
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