デザイナーの年収が低いのはなぜか?どうすれば年収は上がるのか?

鳥越 康平
7 min readMay 30, 2018

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日本のデザイナーの年収低いといわれています。ではそれはなぜでしょうか?どうすればデザイナーの年収は上がるのでしょうか?私はこれまで何百人ものデザイナーの応募者と面接をおこなってきました。そこから分かること、それは、

デザイナーは「つくる」ことに意識が向きすぎている。ということです。

近年一般的に語られている「イノベーションを起こすデザイナー」と、実際にデザインを携わっている人との間には大きなギャップがあります。

実際に面接をしてみると、99%の人が「つくる」ことだけに意識が向いています。

作品集に描かれている絵は美しい。しかし、「つくる」ことの意識ばかりで、経営的な観点の質問をすると途端に答えられなくなるデザイナーが多いのです。

特に日本には経営的な観点を持ったデザイナーが少ないと思います。
実際、企業内でデザイナーから社長に上り詰めた人の話を聞いたことがありません。

つまり、デザイナーの年収が低い理由。
それは、経営的な観点を持ち得ていないためです。
デザイナーも経営的な観点を持つべきなのです。

こう書くと、「いや、そもそも経営者になりたいわけではないし…」と思うかたもいるでしょう。

しかし、経営者を目指す、目指さない、は関係なく、経営的な観点は必須なのです。
では、それはなぜでしょうか?

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デザインとは価値を生み出し、顧客に届け続けること = 経営そのもの

なぜなら、デザインとは価値を生み出すことです。
顧客にとっての新しい価値を生み出し、その価値を届け続けるということです。
それはすなわち経営そのものなのです。

デザイナーとは本来、経営的な観点を持った上で、顧客視点からアプローチできる人のことなのです。

だから、経営的な観点を持ち合わせていないということは、デザインが出来ていないということなのです。

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経営的な観点をもっていないのであれば、年収は低くて当然

経営的な観点をもっていないのであれば、年収は低くて当然です。
なぜなら、「つくる」ことは経営において一つの選択肢でしかないからです。

例えば、経営判断としては「つくらないこと(商品分類 / 事業撤退など)」も大きな価値を持ちます。
スティーブ・ジョブズがアップルに復帰してまずやったことも、商品を4象限に分類し、そこに入らない全ての事業を撤退したことでした。

企業がフォーカスすべきことを定め、そこにリソースを最大限つぎ込むことによって、顧客にとってより大きな価値を届けることができるのです。

「つくらないようにしましょう」ということを、一体何人のデザイナーが推進できるでしょうか?

カシオのデジカメ撤退を例にとれば、デジカメ事業からの撤退をいち早く推進することで、将来かかったであろうコストを最小限に抑えられます。

可能な限り素早く撤退し、企業がフォーカスすべきことを定めることによって、新しい事業を生むきっかけへと変わります。

もちろん、「つくらないこと」を考えるべきだといっているのではありません。
経営的な観点を持ち合わせなければ、近年一般的に語られている「イノベーションを起こすデザイナー」とはいえず、当然年収も低いままだということなのです。

実際、面接をすれば分かりますが、欧米のデザイナーほど経営的な観点を持っていることが多い。
彼らの年収は1,000万円を超えることもありますが、価値創出のレベルが高いためなのです。

私は決して日本でデザイナーが不当に扱われているとは思いません。
実際年収1,000万円を超えるデザイナーを何人も知っています。

ただ、単純に、総じてデザイナーの価値創出のレベルが低いのです。

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では、どうすれば年収は上がるのか?

では、どうすれば年収は上がるのか?いや、どうすれば価値創出のレベルを上げることができ、結果的に年収を上げることができるのでしょうか?

経営的な観点は一言で語り尽くせないほど様々ですが、
「イノベーションを起こす」ということに絞れば、最初にやるべきことは見えてきます。
それがこの図です。

現代におけるこれら「イノベーションを阻害する問題」を解決していくことが、デザイナーの創出価値を最大限に高めます
手短に一つずつ説明します。

組織:組織風土と組織構造が旧態依然

どんなに良いものをつくろうと思っても、組織風土と組織構造が旧態依然としている場合は良いものなどつくれません。
アイデア挑戦を受け入れ、失敗を繰り返すことができる組織へと改革しなければいけません。

そのためには可能な限り上下の立場を取り払い、意思疎通が早いフラットな組織をつくる必要があります。上下関係は不必要な忖度を生み、失敗を許さず、挑戦の意識を失わせるからです。

その必要性を説きながら、周囲を巻き込み、組織を変える必要があります。

マインド:顧客が求めていることを知らない

これは意外にデザイナーでさえも顧客が求めていることを知らない(調べない)ケースが多いです。

自分の視点で顧客が求めていることを考えることはできますが、実際にターゲットとなる顧客の元へインタビューをしにいく、定性的なデータも集めながら定量的なデータも取りに行く。ということができない。

本来あるべきは自分の視点を持ちながら、定性・定量のどちらの顧客のデータも取りにいき、そこから仮説へと導くという意識が必要なのです。

プロセス:デジタル商品の開発プロセスがわからない

UXUIのプロセスは知っていても、デジタル商品を開発するための全体のプロセスについて把握していないデザイナーは多い。

データ集積→仮説→分析→改善→検証→品質保証→提供→(繰り返す)

という全体の流れを組織に取り入れ、このプロセスを素早く回せるようにし、商品のクオリティー価値を高めていくのです。

戦略:デジタル領域における価値提供の方法がわからない

経営層が決めたこと、企画部が決定したこと、いわれたことだけをやるデザイナーが多い。

しかし、現代のデザイナーはデジタル領域のプロであり、「どういう商品をどういう人々に届ければよいのか」の指針をつくれる人のはずです。

戦略がなければ、市場動向や他社動向に惑わされ、デジタル商品を拡大していく道が見えません。
その道を組織に示し、周囲を巻き込んでいくスキルが必要なのです。

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創出できる価値が上がれば、年収は上がる

以上が「イノベーションを起こすデザイナー」に必要な意識であり、スキルです。

デザイナーはこれら全てをやるべきです。そうでなければ価値あるものなどつくれません。

これら経営的な観点を持ちながら、顧客視点からアプローチすることができれば、結果的に創出できる価値は上がり、そして年収は上るでしょう。

いつの日かデザイナーから社長になる人も出てくるでしょう。

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デザインの力で世界を動かす

冒頭に書いたように、「つくる」ことに意識が向いているだけでは、年収が低いのは当然だと思います。
「つくる」ことは素晴らしいことですが、この世界には「つくる」こと以外の価値もあるのです。

「つくる」ことはデザイナーがデザインを始める際の「主たる動機」ですが、顧客に価値あるものを届けるには、「つくる」以外の経営的な観点が必須なのです。

自分が創出できる価値を社会の中でどこまで高められるか?あくなき挑戦が必要です。

そういう意識を持つデザイナーが増えれば、デザインの力で世界を動かせる時代がきっと来る、そう信じています。

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鳥越 康平

株式会社ZEPPELIN代表。デザイン、経営、事業創造、サービス開発を携わる。https://www.zeppelin.co.jp/