Airbnbはなぜイノベーションなのか?

鳥越 康平
5 min readMay 28, 2018

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Airbnbがイノベーションといわれる理由とその本当の価値について。
— — 今年6月に住宅宿泊事業法(民泊新法)が施行されます。Airbnbに代表される民泊業を日本で広めるための新法です。

2017年の訪日外国人の数は過去最多の2869万人となり、政府は東京オリンピックまでに4000万人の旅行客を目指すといっています。

そこで問題となっているのが宿泊施設です。
既存のホテルや旅館だけでは旅行客を受け入れるだけの許容量がないため、Airbnbのような普通の「家」を宿泊施設へと変えるサービスに関する新法が必要だったのです。

住宅宿泊事業法(民泊新法)の最新動向を徹底解説

民泊の年間提供日数を180日に限るなど、いくつか制限はありますが、この新法によってより多くの民泊提供者が増えていくでしょう。

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Airbnbはイノベーションといわれるが、それはなぜか?

Airbnbには下記のような多くの特徴があります。
・ホテルや旅館よりも安い
・主要都市以外の様々な立地を選べる
・その国の文化を知ることができる
などです。

しかし、私は自身の体験から、Airbnbの本当の価値とは上記に挙げた以上のことだと考えています。

コンビニ各社が店舗での鍵の受け渡しを始めました。

コンビニ各社、民泊チェックイン続々スタート ローソン、ファミマに加えセブンイレブンも参入

これは外国人旅行客の利用増加に向けた正しい戦略だと思います。
しかし、Airbnbの本当の価値を提供するという意味では残念な発表です。

では、わたしにとってAirbnbの価値とは何か?

それは「ホストとの出会い」です。

その理由となる、私のAirbnb体験をご紹介します。

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どんな観光地よりもホストの人たちの笑顔を思い出す

半年ほど前にニュージーランドに旅行に行った時にAirbnbを使いました。

クライストチャーチという街の外れで海沿いにある一軒家を、事前にAirbnbで予約しておきました。

ケイトという名前のその一軒家のホストはAirbnbのメッセージを通して、事前に様々なことをアドバイスしてくれます。

「近くにスーパーはないが、街の中心地にあるから、事前に寄ってきたほうがいい」「クリスマスの日は店が混むから事前に予約しておいたほうがいい」などです。
メッセージのやりとりは10回に渡りました。

そして当日、初めての人と出会う少しの緊張と興奮を交えて、ケイトの自宅まで行きました。
木でつくられたドアに付いている呼び鈴を鳴らして出てきたのは、笑顔がとても素敵な女性(ケイト)と、少しシャイだけど、こちらから質問すればなんでも丁寧に答えてくれる旦那さんでした。

二人に迎えてもらい、部屋の使い方を教えてもらいながら、ニュージーランドの生活スタイルなどについて談笑しました。
夜にはバーベキューのやりかたを丁寧に教えてもらい、広い芝生の上で肉を焼きながらビールを飲むという体験をしました。

また、別のホストの家では、到着した時に「翌日朝ご飯を一緒に食べないか?」と誘われ、自家製のシリアルや、庭で育てている鶏の獲れたての卵を食べながら楽しい朝食体験をしました。

ニュージーランドの旅行を思い返せば、どんな観光地よりも、旅行の途中で出会ったAirbnbのホストの人たちの笑顔を思いだすのです。

Airbnbのおかげで、ニュージーランドの旅行が何倍にも充実して価値あるものに変わったのです。

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Airbnbは初対面の人同士の出会いをデザインしている。

これが私のAirbnb体験です。

Airbnbは、ホストとの出会いを可能な限り最高のものにするために、体験をデザインしているといいます。

その具体例としてAirbnbの共同創業者のジョー・ゲビアによるTEDのプレゼンがあります。

Airbnbは顔の見えない相手の仲介役となり、初対面の人同士の出会いをデザインしている

そして、不安を「信頼」に変える仕組みをソフトウェアサービスを通して提供している。
とジョー・ゲビアはいっています。

ユーザーは感情を持った人間です。
自宅というプライベートな空間を貸し借りするため、ゲストとホストが抱く不安は大きい。
その不安を払拭して互いに「信頼」しあえるよう、Airbnbのソフトウェアサービスはデザインされているのです。

日本でAirbnbを使ったことがありますが、この「核」となる部分を体験できないことが多いのが残念です。

ホストに出会うことなく、鍵の場所だけメッセージで教えられる。ということも何度もありました。
(もちろん日本のAirbnbでも素晴らしい出会いはありました。)

コンビニ各社が店舗での鍵の受け渡しを始めると聞いた時に、がっかりしたのもそのためなのです。

(※Airbnbは5月21日に、ファミリーマートと業務提携を発表しましたが、日本の文化を踏まえた上での割り切りでしょう。)

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「体験」を生み出す時代

Airbnbはイノベーションだといわれる理由。
それは「ホストとの出会い」という新しい「体験」をつくっているからです。

Airbnbに似た多くのサービスが出てきています。
しかし、Airbnbを単純に「宿泊施設を安く探すためのサービス」と捉えてしまい、Airbnbの本質を理解しないと、他社サービスの後追いになり、いつまでたっても追いつけません。

ソフトウェアサービスは新しい時代に入っており、「体験」を生み出す時代です。
また、そのために「信頼」という、人間の感情を設計するところまできているのです。

「体験」を通して、「人間がどう感じるか?」を科学し、ソフトウェアサービスとして提供することが、これからより求められていくでしょう。

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鳥越 康平

株式会社ZEPPELIN代表。デザイン、経営、事業創造、サービス開発を携わる。https://www.zeppelin.co.jp/