マスターインタビュー

190929 / Sun / 15:30–15:50 / 曇り / ベルソリーゾ

ベルソリーゾというお店が柿生にある。まちにある唯一のイタリアンで、おばちゃんが足繁く通うお店である。
おばちゃんはもちろんその店主と仲がよく、マスターと呼んでいる。マスターはお店の休憩時間で暇になると、ファミリーカメラにやってくる。お店の店先で冗談を言い合っている様子が印象的である。マスターとしっかり話したことはないが、実際に僕もおばちゃんとベルソリーゾに行ったこともあり、イメージはあった。
おばちゃんを語るに外せない人として、マスターはすぐ名前が出た。夏休みからインタビューをお願いしていたが、入院されたことに加え、お店は休みなしのため、なかなか実現しなかった。今回は、貴重な休憩時間にお付き合いいただいた。

約束の時間にお店に着くと、「どうして僕に話なんかを〜笑」と驚きと疑問を浮かべていた。入り口近くのテーブルに案内され、そこで話を聞くことになった。僕は緊張していた。ラフな感じでおばちゃんの話を聞こうと思っていたが、マスターの表情も態度も固かったので、お互いにかなりよそよそしく緊張感が漂っていた。全てのインタビューを終えて振り返って、一番緊張していたと思う。
いつも通りGoProを出すと、「何それカメラ?」と言われた。「あ、そうです。記録のため撮らせてください」と伝えると、苦い表情をされた。記録のためと言えど、撮られるのは好きじゃないらしい。

まず、研究の概要を説明した。「おばちゃんの研究をしていまして…」「おばちゃんの研究っていうのはどういうこと」と話を遮って食い気味に聞かれた。「それは、おばちゃん(概念)ということ?」 「いや、ファミリーカメラのおばちゃんの研究をしています」「え、どういうこと、個人を研究すんの」それだけ聞いたらわからないのも当然だろう。もうちょっと説明させて欲しいが、話途中で質問をぶつけられるので、なかなか話させてくれない。「そうです」「え。」「あそこ(ファミリーカメラ)が不思議な場所だと思っていて、単純にお客さんが来て、商品を渡して、終わりということではなくて、みんな自分の悩みとかを話していったりとか、相談所みたいになっている時があるんですね」「あ、そうなんですね。それは知らなかった」マスターはどうやらその瞬間に立ち会ったことがないようだ。確かに休憩時間にファミリーカメラに行ったり、おばちゃんがベルソリーゾに行ったりする関係なら、出会さない場面なのか。てっきり皆既知なのかと思っていた。「あ、ホントですか。それで、なんでみんな、すごいプライベートなことなのに、おばちゃんに相談していくんですよ。かつ、初対面とかでも話していくんですよ。それはなんでなんだろうな、と」「え、それはさ、相談して、ウチはさ、おばちゃんのことを師匠って呼んでるんですよ笑」「師匠って呼んでるんですか笑」「何で師匠って呼んでるかっていうのは、ウチにいた主婦の人と(おばちゃんが)お話してて、冗談があって、『もう師匠って呼ばせてください』って言うくらい、でウチの従業員全員が師匠って呼んでるんだけど、その悩みを言って、師匠は的確な、アドバイスをしてるとは私は思いませんよ!」語気強めで語る。「していません(で正しいですね?)」と僕は確認する。「 していません。え、してるの?」「アドバイスはしているとは思いません」「そうですよね」激しく同意。「話を聞いてあげる」「そうですよね。聞き上手ってことですよね」「そうですそうです。それがすごい不思議だなって思っていて、今のお店ってそういうのもうないじゃないですか」「ええ」どうやら聞くに徹するらしい。「あとは、おばちゃんといると、人と人がすごい出会っていて、そこの関係性が不思議だなと思っていて、おばちゃんについて研究しているんですね。で、おばちゃんってでも全然自分のことを喋ってくれない」「あー。それはそうかもしれない」お、やはり。「私もプライベート全然知らないから」「たぶん皆さん知らない」「たぶん私のプライベートも知らないと思う」「あー」少し間が開く。「あのー、一つ思ったのは、子どもが駄菓子屋さん、のイメージ、ふと思ったんだけど」答えに詰まる。僕のイメージと少し異なる。「…子どもたちって悩みとか言うんですかね」「悩み…」マスターが悩んでしまったので、少しだけ話を切り替える。「マスターがおばちゃんに悩みを言ってるとかそういうことではなくて、冗談を言い合ってるじゃないですか」「はい」「それも面白いと思っていて…ちなみにいつからの出会いなんですか」「ウチがオープンしたのは2010年9月ですから、と言ってすぐに仲良くなるわけじゃないですよね。なんでかと言うと、なんでだろ、たぶんウチの店、電池を使う機械が多くて」「あー」納得の木村。「電池を買うのにはコンビニさんよりは安く買えたのと、この商店街に入ってて、商店会に入ったタイミングでいろいろわからないんで」「聞いた」「そうです。お店をオープンしてから2年くらい経って」「だとするともう6,7年経ってるんですね」「そうですね」間が開く。何を質問しようか迷う。マスターが 「ファミリーカメラさんって持ってるんですよ」「…持ってると言うのは」「ファミリーカメラさんが予約してウチに来ると、混むんですよ」「あぁ笑」「たまたまなんだろうけど、土曜日とか日曜日とかに6名くらいで予約しても、ランチタイムに2名くらいで予約しても混むと」「僕もおばちゃんと来てる時はすごいいっぱいなイメージがあります」「商売やってるからそういうの持ってるんじゃないですか」「そういうのも含めて師匠なんですか」「そうですね、はい笑」また間が開く。今回は長い。休憩時間と言えど、ディナータイムの準備があるので、それほど長居はできない。いつもの質問をする。「どなたにも聞いているんですけど、おばちゃんはマスターにとってどんな存在なのかと聞いてて」「え、どんな存在!?」振り返り、従業員の方を見る。「普通に、普通に、いつもいる。なんだろう…」考え込む。「普通にいつもいる。なんて存在でもない。ここ(ベルソリーゾからファミリーカメラの周辺)の存在を家族とすれば、家族みたいな存在。いつもいる」「ここ(ベルソリーゾ)もかなりお休み少ないですもんね」「そうですね」「ファミリーカメラもお休み少ないので、大体いつもいますもんね」「ええ」また間が開く。僕は気まずさを感じる。マスターがまた口を開く。「あと、私も誰にでも冗談言うわけじゃないから」「そうなんですね」「それになるには、日々の挨拶から始まったのかもしれないけど、あとは来てくれてるから」「普通の存在ではないわけですよね。冗談を言えるわけですから。たぶんおばちゃん(として)も(マスターは)冗談を言える(相手)」「ああそうですよね」また間が開く。僕は耐えきれず「ありがとうございます」と言ってしまう。「今、思ったんだけど、ファミリーカメラさん(おばちゃん)もそうだけど、その上のお母さんがやっぱり血を引いてるから、おばちゃんはそんな話したことがないけど、いい人だと思いますよ。なんか安心する」「あー笑」わかる気がする。「いずれは死がるわけだけど、ああお元気でよかったって安心する。あとこれね、涙が出ちゃいそうなんだけど、私最近入院したんですよ」「 聞きました」「退院して病院から帰ってきて、一番最初に会ったのは、あのおばあちゃんと師匠の弟さん。『あ、本当に一週間で帰ってきた』って。でもあのおばあちゃん見た時っていうのは、『あぁ〜、帰ってきた』って」「へぇ〜。おばあちゃんの存在っておっきいんですね」「大きいと思いますね。『翼よ! あれが巴里の灯だ』じゃないけど笑。おばあちゃんにも私冗談言えるから」「あ、そうなんですね」「その関係もあると思いますね。冗談言えるというかいじりたい、いじりたくなるような人」「二人ともですか?」「そうそう」また間が開き、外を眺めることが増えた。そろそろ切り上げた方が良さそうだなと感じた。「すいません、お忙しいのにありがとうございました。素っ頓狂な質問ばっかりして」「あぁ、いえいえ。なんで師匠の研究してんだろうなーって笑」 どうやら最後まで納得はできなかったようだ。そこからまた研究について説明してお別れをした。

振り返って思ったのは、マスターも誰にでも冗談を言えるわけでもないと言っていたが、まだ僕とマスターの仲じゃあまり話も弾むような感じじゃないんだなということだった。おばちゃんに聞いていたほど、話はしてくれなかったし、冗談も出なかった。インタビューの難しさを感じた日だった。

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