部谷さんインタビュー

190929/ Sun / 20:00–21:00 / 晴れ / FREAK HAIR

ファミリーカメラの建物には2階がある。正確に、そして具体的に言うと、テナントのようになっていて、1階にはファミリーマートとファミリーカメラ。そして2階にはおばあちゃんの住居、FREAK HAIR、NPO団体のオフィス、ファミリーカメラのスタジオがある。そのFREAK HAIRの店主部谷(ひだに)さんに今回業務終了後に話を伺うことができた。おばあちゃんの部屋の向かいにある美容室の存在を知ってはいたが、これまで全く接点はなかった。しかしおばちゃんと話していて、度々店主の方の話は出ていたので、気になってはいた。名前は部谷(ひだに)さんと言うが、おばちゃんはいつまでも名前を覚えられなかったようで、美容室のマスターなどと呼んでいた。今回インタビューをしたら覚えたようだった。インタビュー前の部谷さんのイメージは、おばちゃんよりも冗談がうわてというものだった。おばちゃんがよくそのことを話してくれていた。

約束された時間に着くと、部谷さんは気さくに向かい入れてくれた。そしてすぐ名刺をいただいた。部谷さんはカウンターに座り、僕はその向かいに用意してくれた椅子を座った。
はじめましてだったので、僕は自己紹介から始め、そのあと研究の概要について説明した。「あのお店(ファミリーカメラ)がすごい不思議だなぁと思っていて」「不思議だよね〜」とても柔らかく同意してくれた。話やすい感じだ。「おばちゃん自身は何も語ってくれないので」「照れ屋だからね」「写真とか動画も撮らせてくれないですし」「俺が隠し撮りしとこっか笑」ありがたい冗談だ。「本当ですか笑」「怒られちゃう笑」「だから、いろんな人からお話を伺っておばちゃんを少しでも知れればなぁと。それでおばちゃんを語るに外せない人っていうのを挙げていった時に、(部谷さんの)お名前が上がりましたと笑」僕は緊張で汗が吹き出る。メガネが下がってしまうので、ハンカチで拭く。「あー笑。僕あんまり、ここ、3年も経ってないからね」「そうですよね。おばちゃんもそれ言ってました。月日はあんまり」「3年も経ってないんだけど、毎日見るからね、そこ(お店の入り口、おばあちゃんの家の玄関を)出入りするからね」「じゃあ出会って3年」「3年も経ってないもんね、4月に来たから、ちょうど2年半くらいだね」「もうここに越してすぐにあったんですか」「大家さんだからね」そりゃそうだ。「やっぱそうか」「僕その近くでやってたから」「あ、そうなんですか」「そこで14年やって、こっちに来たんだけど、だけど車でここ通らなかったから、写真屋さんの存在自体知らなかった」「じゃあ本当にここにきて初めて知ったんですね」「そうだね」「ちなみにおばちゃんのことなんて呼ばれてるんですか」「僕?」「増井さんっていうでしょ?だからほとんど呼ばない」「あ、そうなんですね」「あのーとか、すいませーんとか笑。言わないかなー」「そっか、大家さんの関係ですもんね」「そう。あくまで大家さんの娘さんだからね」
話がひと段落したので切り替えてみる。「不思議な関係ですよね。お互い冗談を言い合って」「俺の方がうわてだけどね笑」「そう、それも言ってました笑。頭の回転が早いからついていけないって。あのおばちゃんがついていけないって相当だなって」「いやいやいや、強者だよ」メモを取ったりして少し間が開くと、部谷さんから質問が上がった。向かいにいるおばちゃんに聞こえまいと声がとても小さかった。「おばちゃんの何を研究しているの」「おばちゃんのプライベートとかは一切追っていなくて、どういう社会的な役割を果たしているのかを見ています」「でも、憩いの場所なんじゃない?やっぱり年寄りって一人になるじゃん。どっちかが死んだら。で、特におじさんとかも家にいると邪険にされるものが、あそこにいると冗談言いながらでも、話し合ってくれるじゃん。だから待ってる人いるじゃん。誰かがいると『あぁ…』って残念そうにする人みたいなおじさんも見るし。なんかやっぱり冗談の中にあったかみというか優しさがあるんだよ、あの人の中に。だからすごい突っ込んだ冗談とかも言ってくるけど、ある意味尊敬の眼差しは欠かさないんだよね。だからウチ、僕なんかも『チャラチャラして見えても、仕事はちゃんとやる』、『お客さんはいつもたくさんいるよね〜』って、『いつ休んでんの』って、『大変でしょ』って、すごくそういう部分を認めてくれる部分あるからね。ファミリーマートの子たちだって用もないのに、『おばちゃんおばちゃん』って、バイト上がりに寄ったりするからね」僕は驚いた。部谷さんっておばちゃんのことをかなり知ってるんだと。「かなり見てるんですね、おばちゃんのこと」「いや、(おばちゃんが)言うから。来て、ああでこうでって。ファミリーマートの子でも、例えばちょっと家庭が複雑で、病んでるってわけじゃないけど、ちょっと聞いて欲しいような、彼女とか同世代の子とかには言えない、でも自分のお母さんのようなおばちゃんになら全てが言える人がいるんだよ、この下に。だからあのおばちゃんを悪く言うはいないよね」「そうなんですよね〜みんなおばちゃんに言ってくんですよね。そしてああいう存在ってなかなか今いないじゃないですか。家族でもなく、職場でもなく、学校でもなく、でも言えるって」「うん」「そういう概念も社会学にはあって、それもあって調査してるんですけど」「うん」少し話を変えてみる。「じゃあ結構おばちゃんも話してくんですね」「なんでも話ちゃうから笑。なんでも言えるっていうのは、俺の中では、あの人って頭いいから、できる人ってちゃんと認めてくれるし、下でウチの話になった時に絶対悪いように言わないよ。『あそこの美容室、繁盛してんのよ』って。最初はどんな人なのかも知らないしさ、『美容室で大丈夫?あんな小さいところで』って(お客さんに聞かれたことも)絶対あったと思うんだよね。期待されてる分、結果を残すっていうのがこっちのやるべきことじゃん。ここが繁盛してれば、活気があれば、この建物自体の価値が出るじゃん。内装なんかでも、前にあった喫茶店も古くて年季のあるようなお店もあったみたいなんだけど、こんなになんかフレッシュになるんだ、みたいな、同じ枠でも。お客さんが来てくれる、(2階に)上がることなかったんだから。若い子から男性から、ここの階段を当たり前のように上がってくるんだから。それだって自分の持ち物としては稼働してもらった方がいいよね。話題にもなるし」「だいぶ変わりましたよね、ここ」「うん、話題も言えるじゃん。『お客さん入ってるみたいよ』ってプラスの明るい話題を出せるじゃん」「うんうんうん」「相乗効果でいいと思うんだよね」ちょっとズレた感じがしたので、戻した。「おばちゃんを語るに欠かせない人で、真っ先に名前が上がったので」「俺も人見るから。あそこの上に存在があるんだよ。なんであの状態でいるかっていう。そこに住んでる、おばあちゃんがいる。おばあちゃんもそうだし、あそこにいる家族がすごいんだよ」「あ〜」

ここからおばあちゃんについてのトークになる。「プライベートのこと言っていいのかわからないけどさ」と言って、おばあちゃん家の方に目をやる。「毎週のように孫まで晩飯食いにくる、この家に。昨日かなんかも遅くまで来てたけど、増井さんの旦那さんだったり、増井さんの娘さんだったり、結婚したらその旦那さんまで、ここ何人入んだって笑。俺中入ったことないからわかんないけど。毎週『ばあちゃーん!』って言って来て、飯食って、『おばあちゃんまたくるね!おやすみ!』って言って帰るんだもん。そんな家族ある?もうだって94歳だよ、おばあちゃん」「そうですよね」「あの94歳のおばあちゃんのところにみんなが嫌じゃないから、居心地がいいからとか、元気付けてあげようとか思うからそこに集まるわけじゃん。おばあちゃんがそこで自分の手料理を振る舞うっていうのが、ただで飯が食えるっていうのじゃないと思うんだよね。だからそこが愛情に満ち溢れているっていう部分は、親からの愛情もそうだし、家族からの愛情もそうだし、それはここに来て毎日見ていて、『すっごいなぁ〜』って思ったもんね。毎週来て、他にやることないのかよ、暇かよって思うんだけど、ちゃんと誕生日には来るし、何かのお祝いには『おばあちゃーん!』って、おばあちゃんはじゃがりこが好きらしいよ笑」「そうなんですか笑」「孫が『じゃがりこをたくさん買って行ってやるんだ』って。普通94歳のおばあちゃん、じゃがりこ食う?笑。『おばあちゃん好きなんですよ〜』って。ほら、おばあちゃん、ウチ来てくれてるからさ」「あ、そうなんですね!」「そうそうそう、頭やらせてもらってるんだけどさ、『敦子(おばちゃん)はねぇ!口が悪いからねぇ!』なんて言ってさ笑」「本当お元気ですよね」「元気だよ。あのおばあちゃんは2時になったらカラオケ出て行くし、4時になったら帰ってくるからね」「おばあちゃんの存在がおっきいんですね〜」「おばあちゃんの存在はバカでかいよ。だから俺もここに来て、大体7時半とか8時くらいに増井さんたちが帰るんだよ、『じゃあね、おばあちゃん、おやすみ』って行って帰るんだけど、帰った後に地震とか何かあったらばあちゃんを助けてやらないといけないなって思ってる」「ほえ〜」「この2階にはね、俺とおばあちゃんしか住んでないからね」「そうですよね」「俺は結構仕事終わった後に、作業とか残ってるから、遅くまで残ってるから、余震とかあると大丈夫かってなって、『おばあちゃん!』って行かなきゃいけないなって思ってるもんね」「あ〜、そうなんだ〜」「だからそれだけおばあちゃんの存在ってすごいよね。みんなでバカにできるっていうか、増井さんはね、厳しいこと言うらしいけど、娘の方がね、厳しいらしいからね笑。『もっと好きなこと言うわよ!』なんて文句言ってるけどね笑」「へ〜、やっぱりおばあちゃんにも話を聞かないとダメなのかな」「おばあちゃんも照れ屋だよ笑。似てる似てる。だから褒められるのは、『そんなことないよ』って口癖のように言うから」すごいわかる。おばちゃんも同じだ。「それが当たり前の環境にいるから、『そんなことない』って思うのかもしれないけど、周りから見たら羨ましいと思うよ。あの年齢になって、みんなが集まってくれて」「愛されてますよね」「でもね、増井さん(おばちゃん)なんかね、晩飯なんか作んないからね。料理できんのかなって俺なんか思っちゃうけど笑。だからいっつもばあちゃんがつくってくれたものをタッパーに入れて持ち帰るんだよね」「全部つくってますもんね、おばあちゃん、すごいですよね」 「そう、だからお嫁さん(菜穂子さん)が買い物連れてって、息子さんとかが荷物を持って二階に上がってくるじゃん。何人分だよっていうくらいのしょっちゅう買い物いくから。買い物もさ、任せるんじゃなく、自分でいくからね、おばちゃん。コストコとか行くっつうだもん」「本当ですか笑」「うん、『何買うんですか』って言って、『もうね、調味料とかすぐなくなっちゃうのよ』とか言って。みんなの分つくるからね」「これはお向かいじゃないと知らない情報だなぁ」素直に部谷さんに聞けてよかったと思えた。「あそこの親戚っていうかファミリーはさ、息子さんの夫婦もそうだし、みんな手伝ってんじゃん。お嫁さん(菜穂子さん)と増井さんの関係も、まあお嫁さんポーッとしてるって言ってるけど笑」「(おばちゃんが)よく言ってますね笑」「そういうのだから調和が出る。我慢してるって感じがないもんね。やっぱり増井さんが気を使ってる部分もあると思うけど、『この人はねぇ…』って(おばちゃんが)言う時もあるけど、『へへへへ』って(菜穂子さんが笑う)、図星だから、そういう返ししかしないから。いやでも『こうじゃないですか』って(部谷さんが)上げとくんだけど笑」
ここまで来て、けっこう聞けたなという実感があった。業務終了後にお付き合いいただいているので、そろそろいつもの最後の質問に移った方がいいかなと思った。「最後の同じ質問をしていて、どんな人なのかっていう」ちょっとだけ考えて、割とすぐに答えが返ってきた。「俺は、俺の中では、結果を見せる人じゃない?俺は商売してるから、自分の結果をマジマジと見せる。見せて、ちゃんと評価してくれる人。やっぱり自分でも商売してるから、大変なこともわかってるだろうし、だから一番身近で評価してくれる存在だから、そこに結果を見せつけるっていうかさ、そこに見せるのが俺の役割だろうし、いい時はいいで認めてくれるだろうし、だから俺の家族とかも知ってるから」「あ、そうなんですね」「うん、かみさんとか火曜日来るんだけど、必ず顔出すようにしてるから、自分の存在っていうのはこういうファミリーがあって、ファミリーのためにがんばらなきゃっていうのもあるし、それを紹介をするっていうことによってより(おばちゃんに)近くなるじゃん。だって毎日見てもらってるし。今は元気でやれてるかもしんないけど、いつ何時何があるかわからないからそん時に一ヶ月店閉めるとか何があるかわからないから迷惑かけちゃうわけじゃん。だからそういう時に『大丈夫よ』って言ってくれる存在じゃないかなって思うわけよ。『だから心配しなくていいよ〜』って言ってくれる存在だなーって思うからやっぱり、結果を見せつけなきゃいけない存在、見てもらいたいっていうより強いよね。やっぱいお互い商売人だから、ジャンルは違っても」「おばちゃんも商売上手いというか…」「やっぱりさ、今ネット社会というか、『そんなプリントなんかちゃっと(パソコンを指差して)やればいいじゃん』って思うけど、『いや、でもフィルム持ってくる人がいるから、あそこ(ファミリーカメラ)は開けてなきゃいけないんだ』っていうのは常に言ってるからね」「僕も元々それもあって、これを始めていて、なんで今時こんなに続いてるんだって」「うん、もちろん上がりがどうこうでっていうのは知らないけどさ、たぶん自分の存在がそこなんだろうね。だって一日売り上げゼロでくっちゃべって終わりっていう日もあると思うよ?それでも一人でもふたりでも、気に入って、『体調よくなったから遊びにきたよ』って言ってくれれば素直に喜んでくれる存在だから来るんじゃない。だからあれ(ファミリーカメラ)がど真ん中じゃない方がいいんだよ、角でいいんだよ」「ほえー笑」「あれ、デッドスペースだよ、あんなん」「三角形ですよね」ファミリーカメラは三角形の形をしている。「あのデッドスペースに、あの内容の濃い人がポツッて立っていること事態がすごいことだよ。でもよく見てるもん、あそこからチラチラチラ。だからなんか新しい情報欲しいなって思ったら『あそこ何か知ってます?』っていうとすぐ言う笑」確かにファミリーカメラには柿生の情報がすぐ回ってくる。「そうなんですよね笑。情報集まってくる場所なんですよね」「だから下手なこともできないし、だからちゃんと結果を」「見せつけるのか」「そう。見てもらうっていう部分では、だからそういう存在だろうね。大家さんっていう感覚ないもんね。大家さんはおばあちゃんだから。(大家さんは)おばあちゃんだから、おばあちゃんにはウチに来てもらって、『あら、美容院変えたの?いつもよりキレイじゃない』って言われるのが嬉しいわけじゃん。『カラオケボックス行ったら(そう)言われたよ』っておばあちゃん言ってたよって(おばちゃんが)言うから、『いやいやそんなことないですよ。いつもありがとうございます』ってこっちも言うから完結するわけじゃん。だから毎月くるし、こうしてくれああしてくれって言わないもん。黙ってそこに座ってるだけだもん。俺が勝手にやってるだけ」「94歳に見えないもんな〜、あのおばあちゃん」「あのおばあちゃんね、よくいろんなこと覚えてるしね、そう簡単にボケないと思うよ。だからこんだけいて元気でいるのがね、こんな急な階段登ってね、上がり下がりしてさ」「あれ、すごいですよね」「あれをずっとやってるからいい部分はあるかもしれないし、本当上がれなくなったらどうするんだろうとは思うけどね」「うーん、どうするんでしょうね。家を移るのか」「どこか移ってね、見てもらうかね」
ここまでかなりお付き合いいただいた。これまでとは異なる部分を聞けてよかった。「本当にありがとうございました。かなり聞けました」「いやいやいや、なんでも聞いてください。私は暇だから夜であれば。日中は働かなければならないから」「絶えず来てますもんねお客さん」「いやいやいや、そんなことないよ。必死だよ。美容院も多いし。そんな中でやってくって、やっぱ波長が、合う部分としては小っちゃいお店って人で来てるから、ファミリーカメラを利用する人たちって、おばちゃんという人柄に憧れてっていうかさ、居心地良くて来ている人いるじゃん。だからそういう感覚のお客さんが多いからね、お客さん。だから結構遠方から来たりとか」ファミリーカメラと確かに同じだ。「ありがとうございました」「いえ、また裏情報を仕入れたら教えます笑」

おばちゃんに聞こえないように店内の流れる曲を大きくしたりとか、僕がメモしている時は話すのを一時停止したりとか、部谷さんはかなり目配り・気配りができる人なんだなと、インタビューをしていてもひしひしと伝わった。それゆえに、部谷さんは本当におばちゃんのことを観察・理解しているんだろうなと思った。お向かいさん、大家さんという僕とはまた異なった関係で、そのお話を聞けたのは大変いい機会だったと感じた。

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